見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十三話

 ダンッ!

「到着!」

 孤児院の庭先。そこに両足でしっかりと大地を踏みしめる様に着地した。うん、ちょっと角度ミスったけど、特にケガとかはしてないみたいだな。
 辺りを見回すと、すぐ傍に井戸があった。

 よかった、今回はフォレの水汲み現場に遭遇しなかったみたいだ。

 遭遇しなかったって事は、ちゃんとアンの言いつけを守って水汲みをしてないって事だからな。とりあえず一安心だ。
 時間的には……うん、まだ日は落ち切ってないし、ギリギリセーフといった所か。

「う、相変わらずとんでもないですね、この人間ロケットって」

 マリーは若干ふらつきながら、軽く額を押さえている。
 あー、慣れないと酔いそうだよな、アレ。俺は元々乗り物酔いはしない方だったし、何よりも自分のスキルだからそうそう酔わないけど。

 尚も気分が悪そうにしているマリーに、ストレージから水を取り出してから手渡した。

「あ、ありがとうございます」

 マリーはお礼を言いながら、俺が差し出した水を受け取り、それに口をつけた。
 さて、その間に俺はアンに一言声をかけに行こうかな。
 少々遅くなりはしたが、まだ大丈夫かな? そう考えていた時だった。

「お、お兄さん? それにマリーさんも。一体どうしたんですか? 何か凄い音がしましたけど」

 アンは孤児院の庭を見回し、何か異常が無いか確認している様だ。

「あー、ちょっと着地の角度を見誤ったというか」
「え、着地? 角度?」

 アンにそのまま説明したら、何の事を言ってるのか分からなかったのか、目を白黒させて混乱している様だった。

 そりゃそうか。普通は「空を飛んで移動する」なんてやらないのだから、何の事か分からなくて当然だ。

「アンちゃん、気にしなくても良いからね。ほら、最近温かかったから」
「誰の頭が沸いてるってんだ?」

 確かに春先なんかは、ちょっとアレな人が増え気味だけど、決してそれは俺の事じゃない。ていうか別に最近温かくなかったじゃないか。

「「……」」

 そして、互いに無言で視線を合わせる俺とマリー。そんな様子に、アンは。

「え? え?」

 未だに状況が飲み込めず、オロオロとしながら俺とマリーを、視線を移し変えながら交互に見ている

「いや、マリーの説明じゃ余計混乱するだろ。もっと分かりやすく説明しないと。な、アン?」

 俺は同意を求める様にアンに話しかけた。

「え? いや、その」
「そんな事ありませんよ。私の説明、分かりやすかったよね、アンちゃん?」

 どう答えるべきか悩んでいるアンに、マリーも同じ様に話しかける。

「えっと、その……」

 俺とマリーの間で板挟み状態になったアンはどうすればいいか分からない様で、ずっとオロオロしている。
 その様子が、昨日までと全然違って、それが面白くて仕方がない。

「……ぷっ」

 笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまい、それを見ていたマリーが「あっ」と声を漏らした。

「え、急にどうしたんですか、お兄さん?」

 俺が突然吹き出してしまった事が気になったのか、アンが俺に声をかけてくる。

「いや、ごめんごめん。ちょっとからかってたんだ」
「え、からかう?」

 流石にこれ以上はからかい過ぎになるかと思い、アンにネタ晴らしをする。

「ごめんね、アンちゃん。アンちゃんの反応があんまりにも可愛かったから」

 さっきマリーと視線があった時、お互いに言葉にしなくても相手の意図に気が付けたのだ。ちょっとからかいたくないか、って。

 俺の勘違いだったらどうしようかと思ったが、マリーも即興で乗ってくれたし、勘違いじゃなくて良かった。

「……もう、ビックリさせないで下さいよ!」

 ようやく状況が飲み込めてきたのか、アンは次第に頬を膨らませていき、いかにも「怒ってます」といった顔になった。
 だが、申し訳ないけど、その顔も全然凄みは無く、逆に可愛らしさが増すばかりだ。

「ああ、ごめんな、アン」

 だが、そんな事を言うと絶対に怒られそうなので、言葉にせずに素直に謝っておいた。

「ごめんね、アンちゃん」

 マリーも俺と同じ様にアンに謝る。

「まったくもう。それよりも、そろそろお夕飯の時間なので、良かったら上がって下さい」

 おっと、そうだった。今日はアンをからかいに来たのではなく、晩飯を食べに来たんだった。

 既に数回ほど孤児院に入った事はあるから、特に迷うといった事はない。だが、アンは俺達を先導する様に前に立って歩き始めた。
 折角だから、俺とマリーはその後に続いて孤児院内へと入った。

「孤児院に入ると真っ先にこの礼拝堂が出迎えてくれるけど、ここは何というか、幻想的だよな?」

 自分でも何を言ってるのかと思ったが、実際にそう思ったのだから仕方がない。
 孤児院という場所に佇む、静かな礼拝堂。外の光を取り込む為なのか、窓が多い仕様になっている。

 そこから差し込んでくる陽の光が、この幻想的な雰囲気の正体なのかもしれないな。
 それからいつも通り、隅の扉から更に中へ入ると、昨日孤児たちが何かの作業をしていた部屋が姿を現す。

 昨日は子供達がいた部屋も、今は人っ子一人おらず、それが俺を少し寂しい気持ちにさせた。
 少しの寂寥感を感じつつ、そこから更に奥へと進むと、そこには新たな扉が。

「この先が食堂です。もうみんな待ってますよ」

 そう言ってアンが扉を開き、部屋の中へと入っていく。

「みんな、お客様が来たから、失礼のないようにね!」
「「「「はーい!」」」」

 アンが声をかけると、中から沢山の子供の声が聞こえてきた。この孤児院に住む子供達の声だろう。
 ていうか、お客様って。別にそんなに畏まらなくてもいいのに。

「さ、どうぞ中へ」
「「お邪魔します」」

 アンに促されるまま室内へと入ると、そこには昨日の倍近い数の子供達が、部屋いっぱいに集まっていた。

 そのまま部屋に入ると、その数の子供達が一斉に俺達に視線を向け、その雰囲気に軽く引いてしまう。
 何か、有名人にでもなった様な気分だな。

「初めまして、近衛海斗です」
「マリーです。よろしくお願いします」

「マリエール」とは名乗らずに「マリー」と名乗ったのは、多分わざとだろう。
 マリエールと名乗ってから、マリーと呼ぶ様に言うと、小さい子達は混乱しそうだし。
 それなら、最初から「マリー」と名乗っておいた方が、分かりやすくて良い。

 別に本名を名乗らなくても、問題がある訳じゃないし。
 俺達が簡単に自己紹介すると、子供達は黙ったまま俺とマリーをジーっと見つめている。

 その中には、フォレの姿もあった。フォレも他の子達と同じ様に、黙って見ているだけだけど。
 多分、この空気で何も言えないんだろうな。フォレって引っ込み思案っぽいし。

「昨日のお肉は、このお兄さんが分けてくれたのよ」

 それを見かねてか、アンが助け舟を出してくれた。すると。

「え、お肉を?」
「このおじちゃんが?」
「お肉美味しかったよ!」

 アンの言葉に、ようやく子供達が反応を示しだした。
 しかし、子供達の無邪気な言葉に、俺の心はダメージを負っってしまった。
 やっぱり「おじちゃん」扱いか。

 まあいいさ! そのイメージ、絶対に払拭して見せる!

「おじちゃん、お肉ありがとう!」
「今夜もお肉かな? 楽しみ!」
「昨日はお腹いっぱいだったよね!」
「お腹空いちゃった。早くご飯食べたいね」

 俺は一人、また一人と反応し、ザワザワとしだす子供達を見ながら、そう決意した。

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