見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十一話
マリーは俺から視線を外して答えた。「何ですか?」じゃなくて「聞きたくありません」か。それはつまり、これから話す内容を理解しているという事だろう。
まあキノコの話を始めた時から分かってそうだったけど。
「孤児院に、このキノコを「野菜があればいいんですね!」うぇっ!?」
俺がキノコを孤児院に分けてあげようと提案する前に、マリーから別の意見が提案された。
いやまあ、野菜があればそれでもいいんだけど、でも。
「野菜って、物はどうするんだ?」
俺のストレージには野菜の在庫なんてほとんど無いぞ? そりゃ多少ならあるけど、正直これだけじゃあ孤児院に分けるには心許ない。
「それなら任せて下さい! ここは私の奢りです!」
「奢り!? え、買うの!?」
キノコを分けたくないが為に? いくらキノコの為とは言っても、それはなぁ。
「大丈夫ですよ。野菜ならオイ椎茸やウ舞茸よりも遥かに安いですから、問題ありません!」
いや、値段の問題じゃあ……いや、値段の問題なのか? 確かに、後でオイ椎茸やウ舞茸なんかを買い足すのに比べれば、今は出費が増えたとしても、最終的には安く済む筈だ。
そういう意味では確かに問題は無いのかもしれない。動機が不純なのさえ除けばだけど。
「うーん。ちなみに、どこで買うつもりなんだ?」
今の時期だと、パレードに出てる屋台とかか? でも、時間的にそういう店はそろそろ閉まっててもおかしくないと思うけど。
既に陽は傾き始めてるし、行くなら急いだ方がいいんじゃないか?
「市場で買おうかと思ってますけど」
「市場? 市場なんてあるのか?」
この世界に? 正直この世界に来てから、買い物のほとんどが出店だったから、市場なんて物がある事自体知らなかった。
だが、市場があるのだとしたら、それは是非とも見てみたい。
単純に物珍しさ半分と、もしかしたら卵なんかも買えるかもしれないという期待半分だ。
「はい、ありますよ。丁度いいので、案内しますね」
「ああ。あんまり時間はないから、急ぎ目で頼む」
市場には興味があるけど、あんまりゆっくりしているとすぐに日が暮れてしまうだろう。出来るだけ無駄な買い物は避けないとな。
「ええ、そのつもりです。それじゃあ私に付いて来て下さい」
そう言って俺の前に立ち、貧民街とは真逆の方向――一般区へと向けて歩き出すマリー。俺はその後に続いて歩き始めた。
一般区へと入り、パレードの進路上にある建物の内の一つ。俺達がパレードを見学していた場所よりも少し先の方に、それはあった。
周囲の建物よりも一回り程高く、幅も他の建物の比じゃないぐらい広い。他の建物の前にはパレードに参加した屋台が店を出したりしているのに、この建物の前にだけは屋台が一軒も出ていない。
その光景を見ていると、まるでこの建物の周りだけ別空間にでも移されたのではないかと錯覚してしまいそうになる。
「着きましたよカイトさん。ここがルロンド王国最大の市場です」
「これが、市場?」
予想外の言葉に、俺は確認する様にマリーに尋ねた。
これは市場というよりも、役所といった感じだ。日本で市場と言えば、広い土地に建てられた、倉庫の様な建物のイメージが強かった。
開けたスペースには魚や野菜、果物といった生鮮食品が並べられ、それを見て購入出来る。それこそが市場だ。
「はい、ルロンド王国で市場と言えばここ「ガイアの恵み」です」
「ガイアの恵み?」
ここってそんな名前だったの?
「はい。ここなら野菜も安く買える筈です。時間的にまだ残ってるかは微妙な所ですけど、とにかく入ってみましょう」
「あ、ああ、そうだな」
気になる事は色々あるけど、マリーの言う通り入ってみない事には何も始まらない。
そう考え、俺はマリーと共に市場――ガイアの恵みの中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。本日は何をお求めですか?」
店内に入ると、すぐ目の前にギルドの買取カウンターの様な物が設置されており、そこに女の従業員らしき人が立っていた。
「えっと、野菜を買いたいんですけど、まだありますか?」
「野菜ですね、少々お待ちください」
従業員さんはカウンターテーブルから分厚いファイルの様な物を取り出し、そこに目を通していく。
「えーっと……はい、まだいくつか在庫があります。すぐにご案内してもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
どんどんやり取りを進めていくマリーと従業員さん。なんかえらく手慣れてるなマリー。もしかして、前にも来た事があるのか?
「それでは、会員証の提示をお願いします」
「あ、これでお願いします」
従業員さんの言葉に、マリーは懐を漁り、ギルドカードの様な物を取り出すと、それを従業員さんへと手渡した。
あれが会員証か。随分と綺麗な……。
「こ、これはゴールドランクの会員証!? す、すぐにご案内させて頂きます!」
……ゴールドランク? それってそんなに凄いのか? 確かに名前的に凄そうではあるけど。
従業員さんは慌ててカウンターの向こう側から出て来ると、俺達を先導する様に前を歩き始めた。
これは、そのまま付いて行けばいいのか?
「さあ、行きましょう、カイトさん」
「あ、ああ」
マリーに言われ、俺は曖昧に頷きながらも、従業員さんを見失わない様に歩き始めた。
「なあ、ゴールドランクってそんなに凄いのか? てか、ここって本当に市場なんだよな?」
なんだか流れで付いて行ってるけど、本当に市場なんだよなここ? このまま着いて行けば野菜は買えるんだよな?
俺の問いかけに、マリーは朗らかに笑い。
「当たり前じゃないですか。ここは市場で、野菜もちゃんと買えますよ。ランクについては……そうですね、そこそこ凄いですよ」
当然の事の様に答えるマリー。いや、そこそこって。さっきの従業員さんの態度的に、絶対凄いだろゴールドランクって。
そんな事を考えている間も、従業員さんはどんどん奥へと進んで行き、それに黙ってついて行く俺達。ていうか、外から見たら役所みたいだったけど、内装は学校みたいだなここ。
壁は清潔感を意識してるのか真っ白だし、この通路の壁には沢山の窓が取り付けられてて、外の空気も簡単に取り入れられる仕組みになっている。
反対側には定期的に扉が設置されていて、そこには「肉」や「魚」といった、恐らく中に置いてあるのであろう品物の名前が入った、所謂ネームプレートまで取り付けられている。
「お待たせしました。こちらになります」
目的と関係ない事を考えていたら、いつの間にか目的地に辿り着いたらしい。従業員さんが扉の前で立ち止まり、俺達の方に向き直っている。
その扉には「野菜」の文字が刻まれたネームプレートが取り付けられていた。
ここに野菜があるのか。そうは見えないけどな。
「着きましたか。カイトさん、とりあえず中に入りましょう」
「そ、そうだな」
だが、マリーは特に疑う事無く、その扉に手をかけた。やっぱり間違いないのか。
そのまま扉を開き、中へと入って行くマリー。
「……よし、俺も入るぞ!」
初めて入る異世界の市場。俺は一度気合を入れ直し、マリーと同様に部屋の中へと足を踏み入れた。
「……何だ、ここ」
中に入ると、壁一面の棚が俺を出迎えた。
え、マジで何だここ? 野菜は? 野菜は一体どこにあるんだ?
「な、なあマリー。気の所為じゃなければ、野菜なんてどこにも無い様に見えるんだけど」
目の前にあるのは壁一面の棚のみで、他には何もない。いや。正確には、入ってすぐの所に手提げバッグが置いてあるけど、だからどうしたって話だ。
「あ、そうでした。カイトさんは初めてでしたね。それじゃあ驚いても仕方ないです」
マリーが今思い出したと言った感じで話し出した。
「ここにある壁一面の棚。実は、これ全部収納ボックスなんです」
まあキノコの話を始めた時から分かってそうだったけど。
「孤児院に、このキノコを「野菜があればいいんですね!」うぇっ!?」
俺がキノコを孤児院に分けてあげようと提案する前に、マリーから別の意見が提案された。
いやまあ、野菜があればそれでもいいんだけど、でも。
「野菜って、物はどうするんだ?」
俺のストレージには野菜の在庫なんてほとんど無いぞ? そりゃ多少ならあるけど、正直これだけじゃあ孤児院に分けるには心許ない。
「それなら任せて下さい! ここは私の奢りです!」
「奢り!? え、買うの!?」
キノコを分けたくないが為に? いくらキノコの為とは言っても、それはなぁ。
「大丈夫ですよ。野菜ならオイ椎茸やウ舞茸よりも遥かに安いですから、問題ありません!」
いや、値段の問題じゃあ……いや、値段の問題なのか? 確かに、後でオイ椎茸やウ舞茸なんかを買い足すのに比べれば、今は出費が増えたとしても、最終的には安く済む筈だ。
そういう意味では確かに問題は無いのかもしれない。動機が不純なのさえ除けばだけど。
「うーん。ちなみに、どこで買うつもりなんだ?」
今の時期だと、パレードに出てる屋台とかか? でも、時間的にそういう店はそろそろ閉まっててもおかしくないと思うけど。
既に陽は傾き始めてるし、行くなら急いだ方がいいんじゃないか?
「市場で買おうかと思ってますけど」
「市場? 市場なんてあるのか?」
この世界に? 正直この世界に来てから、買い物のほとんどが出店だったから、市場なんて物がある事自体知らなかった。
だが、市場があるのだとしたら、それは是非とも見てみたい。
単純に物珍しさ半分と、もしかしたら卵なんかも買えるかもしれないという期待半分だ。
「はい、ありますよ。丁度いいので、案内しますね」
「ああ。あんまり時間はないから、急ぎ目で頼む」
市場には興味があるけど、あんまりゆっくりしているとすぐに日が暮れてしまうだろう。出来るだけ無駄な買い物は避けないとな。
「ええ、そのつもりです。それじゃあ私に付いて来て下さい」
そう言って俺の前に立ち、貧民街とは真逆の方向――一般区へと向けて歩き出すマリー。俺はその後に続いて歩き始めた。
一般区へと入り、パレードの進路上にある建物の内の一つ。俺達がパレードを見学していた場所よりも少し先の方に、それはあった。
周囲の建物よりも一回り程高く、幅も他の建物の比じゃないぐらい広い。他の建物の前にはパレードに参加した屋台が店を出したりしているのに、この建物の前にだけは屋台が一軒も出ていない。
その光景を見ていると、まるでこの建物の周りだけ別空間にでも移されたのではないかと錯覚してしまいそうになる。
「着きましたよカイトさん。ここがルロンド王国最大の市場です」
「これが、市場?」
予想外の言葉に、俺は確認する様にマリーに尋ねた。
これは市場というよりも、役所といった感じだ。日本で市場と言えば、広い土地に建てられた、倉庫の様な建物のイメージが強かった。
開けたスペースには魚や野菜、果物といった生鮮食品が並べられ、それを見て購入出来る。それこそが市場だ。
「はい、ルロンド王国で市場と言えばここ「ガイアの恵み」です」
「ガイアの恵み?」
ここってそんな名前だったの?
「はい。ここなら野菜も安く買える筈です。時間的にまだ残ってるかは微妙な所ですけど、とにかく入ってみましょう」
「あ、ああ、そうだな」
気になる事は色々あるけど、マリーの言う通り入ってみない事には何も始まらない。
そう考え、俺はマリーと共に市場――ガイアの恵みの中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。本日は何をお求めですか?」
店内に入ると、すぐ目の前にギルドの買取カウンターの様な物が設置されており、そこに女の従業員らしき人が立っていた。
「えっと、野菜を買いたいんですけど、まだありますか?」
「野菜ですね、少々お待ちください」
従業員さんはカウンターテーブルから分厚いファイルの様な物を取り出し、そこに目を通していく。
「えーっと……はい、まだいくつか在庫があります。すぐにご案内してもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
どんどんやり取りを進めていくマリーと従業員さん。なんかえらく手慣れてるなマリー。もしかして、前にも来た事があるのか?
「それでは、会員証の提示をお願いします」
「あ、これでお願いします」
従業員さんの言葉に、マリーは懐を漁り、ギルドカードの様な物を取り出すと、それを従業員さんへと手渡した。
あれが会員証か。随分と綺麗な……。
「こ、これはゴールドランクの会員証!? す、すぐにご案内させて頂きます!」
……ゴールドランク? それってそんなに凄いのか? 確かに名前的に凄そうではあるけど。
従業員さんは慌ててカウンターの向こう側から出て来ると、俺達を先導する様に前を歩き始めた。
これは、そのまま付いて行けばいいのか?
「さあ、行きましょう、カイトさん」
「あ、ああ」
マリーに言われ、俺は曖昧に頷きながらも、従業員さんを見失わない様に歩き始めた。
「なあ、ゴールドランクってそんなに凄いのか? てか、ここって本当に市場なんだよな?」
なんだか流れで付いて行ってるけど、本当に市場なんだよなここ? このまま着いて行けば野菜は買えるんだよな?
俺の問いかけに、マリーは朗らかに笑い。
「当たり前じゃないですか。ここは市場で、野菜もちゃんと買えますよ。ランクについては……そうですね、そこそこ凄いですよ」
当然の事の様に答えるマリー。いや、そこそこって。さっきの従業員さんの態度的に、絶対凄いだろゴールドランクって。
そんな事を考えている間も、従業員さんはどんどん奥へと進んで行き、それに黙ってついて行く俺達。ていうか、外から見たら役所みたいだったけど、内装は学校みたいだなここ。
壁は清潔感を意識してるのか真っ白だし、この通路の壁には沢山の窓が取り付けられてて、外の空気も簡単に取り入れられる仕組みになっている。
反対側には定期的に扉が設置されていて、そこには「肉」や「魚」といった、恐らく中に置いてあるのであろう品物の名前が入った、所謂ネームプレートまで取り付けられている。
「お待たせしました。こちらになります」
目的と関係ない事を考えていたら、いつの間にか目的地に辿り着いたらしい。従業員さんが扉の前で立ち止まり、俺達の方に向き直っている。
その扉には「野菜」の文字が刻まれたネームプレートが取り付けられていた。
ここに野菜があるのか。そうは見えないけどな。
「着きましたか。カイトさん、とりあえず中に入りましょう」
「そ、そうだな」
だが、マリーは特に疑う事無く、その扉に手をかけた。やっぱり間違いないのか。
そのまま扉を開き、中へと入って行くマリー。
「……よし、俺も入るぞ!」
初めて入る異世界の市場。俺は一度気合を入れ直し、マリーと同様に部屋の中へと足を踏み入れた。
「……何だ、ここ」
中に入ると、壁一面の棚が俺を出迎えた。
え、マジで何だここ? 野菜は? 野菜は一体どこにあるんだ?
「な、なあマリー。気の所為じゃなければ、野菜なんてどこにも無い様に見えるんだけど」
目の前にあるのは壁一面の棚のみで、他には何もない。いや。正確には、入ってすぐの所に手提げバッグが置いてあるけど、だからどうしたって話だ。
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