見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

七話

「宿泊ですか? はい、大丈夫ですけど」

 渡り鳥亭に入ってすぐに、ニーナさんに事情を説明したら、空き部屋はまだ充分あるとの事。
 なんなら空き部屋の方が多いぐらいらしい。大丈夫か、この宿?

「是非お願いします!」
「あ、私達も。三部屋お願いできますか?」

 ニーナさんの返事を聞いて、光がすぐに宿泊をお願いし、それに続いてロザリーさんも三人分の部屋をお願いしていた。
 部屋は充分空いてるっていう話だし、一人一部屋でも問題なく泊まれるだろう。

「ユキ。あなたは私と一緒ね」
「はーい!」

 光の言葉に、ユキが二つ返事で答えた。一人部屋か二人部屋かというのは、ユキにとってはあんまり関係ない話だったみたいだ。

「はい、合計四部屋ですね。少々お待ちください」

 ニーナさんは一度二人に視線を向けてから、受付の奥へと入っていった。
 多分部屋の鍵でも取りに行ったんだろう
 一先ず、これで全員分の部屋を確保出来た訳だし、とりあえず一安心だな。さて、それじゃあ。

「俺はちょっと出かけてくるかな」

 一度孤児院に顔を出しておきたい。いくらニーナさんに仲裁を頼んだからといって、それで「はいおしまい」じゃあ、ちょっと無責任だと思うし。
 それに、パレードでたくさん買った「お土産」も、出来るだけ早く持って行きたいし。

 いや、ストレージに収納しておけば鮮度は落ちないから、別に慌てなくても大丈夫なんだけど、こういうのは気持ちの問題だ。

「え? 兄さん出かけるの? 私も一緒に行くわ!」
「私も! お兄ちゃんに着いて行く!」

 俺が出かけると言うと、光とアミィが一緒に着いて行くと言い出した。
 二人共、何か忘れてるんじゃないか?

「いや、マリー達ならともかく、二人はまだやる事があるだろ?」
「「?」」

 俺がツッコみを入れると、二人は何の事か分かっていないのか、首を傾げて考える様な仕草をする。
 何でそんな「何を言ってるか分からない」みたいな顔してんだよ。

 特に光。お前はもっと賢いというか、考えて行動できるタイプだろ?

「部屋の確認、まだやってないだろ? ニーナさんが戻って来て、二人がいなかったら困らせる事になるぞ?」
「「あっ」」

 またも二人して同じ反応。何でそんな「忘れてた」みたいな反応してるんだよ……。

「とにかく。そういう事だから、二人はここに残る事。いいな?」
「「……はい」」

 俺が言い聞かせると、二人は渋々ながらも素直に頷いた。
 うん、二人共聞き分けの良い子だ。

「それじゃあ、ちょっと出かけてくるから」

 二人が納得した事で、今度こそ孤児院に向かおうとした時。

「あ、私も着いて行きます」

 今度はマリーが付いて来ると言い出した。

「あそこに行くんですよね? 私もちょっと気になるので」

 あそことは、間違いなく孤児院の事を言ってるんだろう。他に思い当たる場所が無いし。まあマリーなら特に問題はないか。

「ああ、分かった。それじゃあ一緒に行こうか」
「「えっ?」」
「はい」

 マリーと一緒なら、もし人手が必要になっても分担出来るし、一緒に来てくれるのなら助かる。

「それじゃあフーリ、ちょっと行って来る」
「ああ、気を付けて行くんだぞ」

 出かける前にフーリに一言声をかけ、俺達はそのまま二人で渡り鳥亭を出た。



「でも、良かったんですか?」
「何が?」

 渡り鳥亭から出てすぐの事。マリーが何かを気にする様に渡り鳥亭を振り返った後に、俺に尋ねてきた。

「ヒカリさんとアミィちゃんの事ですよ。二人も一緒に行きたがってたので」
「ああ、あの二人の事か。まあ大丈夫だろ」

 確かに二人も一緒に行きたがってたけど、ニーナさんに迷惑をかける訳にもいかないし、仕方がない事だ。
 それに、その内二人も連れて行ってやればいいだけの話だ。

「そうですか? それなら良いんですけど。カイトさんが私とは一緒に行くって言った時、二人が凄く複雑そうな顔をしてたので」
「え、マジで?」

 それはちょっと見てなかった。
 マリーが俺と一緒に行くって言った時、二人は納得したと思ってたから特に気にしてなかったんだよな。

 でも、そうか。
 二人と一緒に行くのは断って、マリーが一緒に行くと言ったのは断らなかった……。

 いやいや、それはきちんとした理由があった訳だし、二人もそんなに子供じゃないんだから、その程度の事で目くじら立てたりしない筈だ……多分。

「……多分大丈夫だろ。二人も子供じゃないん……いや、アミィはまだ子供か。と、とにかく! 二人ならきっと分かってくれる筈さ!」
「えぇ、そうですかねぇ?」

 マリーが凄く微妙な顔をしている気がするけどきっと気のせいだな。うん、きっとそうだ。
 ……現実逃避とかじゃないよ? 俺は誰に向けるでもない言い訳染みた事を考えながら、孤児院に向かって歩き始めた。



 しばらく歩くと、例の廃墟が見えてきた。
 相変わらずボロボロの状態だが、それでも元は立派な屋敷だったんだろうな。時間っていうのは、どんな物にも平等に流れているんだなと、屋敷の風化具合を見ていると再認識させられる。

「ん?」

 内心複雑な心境で廃墟を眺めていた時だった。
 廃墟の二階。その一角の窓に、一瞬人影が写った様に見えた。
 見間違いかと思い、もう一度よく見てみると、そこに人影は無かった。

「……気の所為、だよな?」
「どうかしたんですか?」

 俺が廃墟の前で立ち止まり、じーっと一点を見ていたのが気になったのか、マリーから声をかけられた。

「いや、今一瞬あそこに人影が見えた気がしたんだけど」

 俺は廃墟の二階の窓の一つを指差しながら、マリーにも分かるすぐに様に伝えた。

「人影、ですか? 私には何も見えませんけど」

 マリーは俺の指差す先、二階の一番端っこの部屋を凝視しながら答えた。
 俺も念の為もう一度廃墟を凝視するが、やはりというか、そこには人影はおろか、生物の気配そのものが全く感じられなかった。

 念の為気配探知を発動してみるが、廃墟の方に気配探知が反応する事は無かった。
 それもそうか。こんな廃墟に誰が好き好んで入るっていうんだ。普通に考えてあり得ないだろ。

「見間違いじゃないですか?」
「――うん、そうだよな。やっぱり俺の見間違いだよな」

 多分あの騒ぎの所為で、少し疲れているのかもしれない。だから、ありもしない幻覚を見たのだろう。
 こんな日は、出来るだけ早く休むに限るよな。

「今日は用事を済ませたら、早めに寝るかな。明日も忙しくなりそうだし」
「そうですね。疲れてるだけかもしれませんし、今日はゆっくり休みましょう」

 マリーも俺と同じ考えの様だった。
 一週間後に開催される武闘大会。それに向けての準備とか色々ありそうだし、休める時に休んでおかないとな。

「さて、そろそろと孤児院に向かうか」
「そうですね」

 俺とマリーはそれ以上特に気にする事もなく、再び孤児院に向かって歩き始めた。




 そのまま歩く事十分程。
 俺達は孤児院に辿り着いていた。
 ただ。

「何て言って入ろうかな?」

 そう。俺達はアンに警戒されてしまっているから、正面からまともに訪ねて行っても門前払いされる可能性が高い。
 かといって、他に方法は思い浮かばないしなぁ。と、そんな事を考えていた時だった。

「んっしょ、んっっしょ!」
「「……」」

 最早見慣れてしまった光景に、俺達は互いに無言で顔を見合わせた。
 孤児院の外から見える井戸。そこには、大変そうに水汲みをしている少女――フォレの姿があった。

 いや、だから何で毎回フォレが水汲みしてるんだよ。

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