見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十四話

「え? 何だって?」

 伝家の宝刀「え? 何だって?」を迷わずに抜く。コレを使えばどんなに都合が悪くても乗り切れるって、偉い人が言ってたから間違いない。

「だから、光さんは何を知ってたの?」
「……」

 誰だ、伝家の宝刀なんて言った奴! なまくらもいいとこじゃねえか!

「お兄ちゃん?」

 俺が無言でいると、再度俺の名前を呼ぶアミィ。さあて、何て答えたもんか。

「別に大した事じゃないのよ。兄さんが部屋で夜な夜な何をやってるか当てただけよ」
「そ、そうそう、そうな……ん?」

 光がすかさずフォローを入れてくれたと思ったんだが、今光はなんて言った? なんか誤解を生みそうな事言ってなかったか?

「「よ、夜な夜な!?」」
「待った、二人共。それは大いなる誤解だ」

 当然の如くそれに反応するのはマリーとアミィ。思った通りだよ!
 その点フーリは特に反応する事も無かった。こういう時、フーリの冷静さがありがたい。

「カイトさん、毎日部屋で何をしてたんですか!?」
「お、お兄ちゃん! 私、信じてるから! だから! 何をしてたかちゃんと教えて!」

 案の定、疑いの視線を向けてくる二人。いや、アミィは絶対信じてないだろそれ!

「いや、別に何もしてないから! ただストレージの中身確認してただけだから!」
「「え?」」

 実際その通りなので、俺は迷わず答える。俺があまりにも迷いなく答えたのが意外だったのか、二人が俺に向けていた疑いの視線が、困惑の眼差しへと変化した。
 よし、誤解を解くなら今だ!

「ほら、持ち物をストレージに放り込んだままにしておくと、何が何だか分からなくなるだろ? だから、毎日最低限の整理整頓はしておこうと思って触ってただけなんだよ。決して二人が想像してるような事はしてないからな」

 俺はあらぬ誤解をしている二人に分かる様に、出来るだけ丁寧に説明した。これで信じてくれればいいんだけど。
 ……大丈夫だよな? なんかイマイチ納得がいってないって顔してるけど

「二人共、カイト君の言う通りだぞ」
「フーリ」

 俺が若干不安に感じていると、フーリが俺を庇う様に会話に入ってきた。フーリってこういう時のフーリは頼りになるんだ。
 二人は割と誤解しやすいタイプだからな。

 まあそもそも事の発端は、光が誤解を招く様な発言をしたからなんだけど。
 ていうか、光は何でフォローしようとしないんだ?
 ふと気になって光の方に視線を向けると。

「むー」

 何故かむくれ顔でフーリを睨んでいる。え、どういう事? 何で光がフーリをそんな目で見るんだ?
 折角俺をフォローしてくれてるんだから、そんな目で見なくてもいいんじゃない?

「ま、まあ、姉さんがそう言うなら」
「そ、そうですね。フーリさんがそう言うなら」

 二人はフーリに一言諭されただけで、あっさりと俺を信じてくれた。何となくだが、二人の中で俺がどういう扱いなのか分かった様な気がする。

「折角いい感じだったのに」

 ボソッと光が何かを呟いた気がしたので、光に視線を向けると。

「ん? 兄さん、どうかした?」

 光は小首を傾げて尋ねてきた。

「いや、今何か言わなかったか?」
「今? 別に何も言ってないけど?」

 俺の言葉に即答する光。あれ? 気の所為だったか? でも、確かに何か言ってた気がするんだけど……。

「そんな事よりほら、そろそろ王城に着くわよ、兄さん!」

 イマイチ納得がいってない俺に対して、誤魔化す様に窓の外を指差す光。
 その先を見ると、そこには昨日外から眺めるだけで終わった王城。その入口の門が見えた。

「あ、本当だ。昨日外から眺めはしたけど、まさかこんなに早く中に入る事になるとは思いもしなかったな」

 いつか中に入ってみたいとは思っていたけど、まさか昨日の今日で王城に招かれる事になるとは、夢にも思わなかった。
 マリー達はどうかと思ってそっちに視線を向けると。

「うわぁ、本当に王城だ。まさか王城に入る日がくるなんて」

 アミィは迫る王城を見ながら、どこか夢見心地というか、信じられないといった感じだった。実際に王城が目の前に迫ってきて初めて、自分が王城に連れて来られたんだという実感が湧いてきたのだろう。

 うん、まあアミィは一般庶民だし、王城なんて縁が無い場所だよな。

 フーリとマリーはどうだろう? 確か二人は貴族の出だって話だったし、王城にも何度か来た事があるかもしれない。
 そう思っていると。

「あれが王城。外から見た事は何度かあるが、実際に入るのは初めてだな」
「そうだね。兄さん達はともかく、私達には縁がなかったし」

 と、感慨深げに話す二人。意外な事に、二人は王城に入った事が無いらしい。
 そういえば二人は貴族の娘とはいえ、自分達は末妹だって言ってたっけ? で、貧ぼ……あまり階級が高くない貴族だと、次男次女ぐらいまでしか貴族としての教育を受けないとか。

 しかも、成人したら手切れ金を貰って家から出るか、一生家で飼い殺しにされるしかないんだったか。
 確かにそういう扱いだったら、王城に来る機会も無かったのかもしれないな。

「とりあえず、最初は私の部屋に案内するから、そこでしばらく好きにしておいて。その間に陛下に今日の報告してくるから」

 陛下に報告。その言葉を聞いて、ふと思い出した。

「なあ、光」
「ん? 何、兄さん?」
「そういえば、パレードは良かったのか? なんか途中で邪魔しちゃったみたいだけど」

 すっかり忘れてけど、今はパレードの真っ最中だった筈だ。
 しかも光は勇者で、パレードの主役の筈。途中からずっと馬車の中にいたけど、問題は無かったのか? いや、普通はダメだろう。

「ああ、その事? 大丈夫よ。どうせ今日はもうほとんど終わりかけてたし、なんなら私は少し特殊な立場だから」
「特殊?」

 もうほとんど終わりかけていたと聞いて安堵しかけたのも束の間。光から気になる言葉が飛び出してきた。

 特殊な立場というのは、どういう立場だろうか? 召喚勇者の時点で充分特殊な立場なのに、それより更に特殊なのか?
 俺と同じ事を思ったのか、フーリとマリーも小首を傾げている。

「まあそれについては、また後でゆっくり説明するわね。さ、着いたわよ、兄さん」

 光の言葉に窓の外を見ると、丁度城門から跳ね橋が下ろされ、そこを馬車が通過しようとしている所だった。
 光の言う通り、時間的にこの話はまた今度だな。

 馬車はゆっくりと城の敷地内へと移動していき、それに合わせてゆっくりと閉まっていく跳ね橋。
 それが完全に締まり切るのと、馬車が停車するのは同時だった。

 そして開かれる馬車の扉。そこを見ると、黒い執事服に身を包んだ、初老の男が立っていた。
 いかにも「執事です」といった感じの人だ。

 グレーの短く切り揃えられた髪、ちょび髭、それらが良く似合った紳士的な人で「セバスチャン」という単語が似合いそうな……。

「おかえりなさいませ、勇者様方。そちらの方達は?」
「お客様よ、セバスチャンさん。一度私の部屋に「ぶふっ」に、兄さん!?」

 しまった、つい吹き出してしまった。

「どうしたんですか、カイトさん?」
「何かあったのか?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」

 俺が吹き出した事で、三人が三者三様の反応を示す。
 いやだって、いくら何でもそれは反則だろ! セバスチャンさんって。セバスチャンさんって! もう少し捻ろうよ!

「あ、あー、分かったわ兄さん。何も言わなくても大丈夫よ」
「ひ、光?」

 てっきり怒られるかと思っていたが、意外な事に光は俺の事をフォローしてくれようとしている。

「私の名前を聞いて吹き出すとは、初めて勇者様方にお会いした時の事を思い出しますね」
「セバスチャンさん!」

 あ、何だそういう事か。要は光達も俺の同類だったって訳だ。

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