見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十三話

「ちょっと! 何するんですか!」

 アミィは赤くなった鼻を押さえながら、隣で再びスヤスヤと寝息を立て始めたユキちゃんに文句を言いながら、その頭を引っ叩いた。

「うにゃ!?」

 突然の出来事に驚いたのか、ユキちゃんは慌ててガバッと起き上がり――。

 ゴチィンッ

「「いったぁ!」」

 目の前のアミィと寝起きの挨拶(物理)をキメていた。
 ……あれ? デジャヴ?

 ふと隣を見ると、マリーも同じ事を思い出したのか、なんとも言えない表情でその光景を見ていた。
 ……自分のデコを擦りながら。

 そう。思い出すのは、賢者の森でマリーと初めて出会った日の事。
 あの時は気絶していたマリーが、オイ椎茸に釣られて慌てて起き上がり、俺と寝起きの挨拶(物理)をキメたんだった。

 あれは痛かったなぁ。
 身構えてすらいなかったから綺麗に直撃したし、今と違って避ける余裕も無かった。流石に今なら避けれると思うけど。

 いや、いきなりこられたら無理かな?
 まあ頭突きを警戒しないといけない状況がそもそも異常な上に、そうそうそんな状況には陥らないだろう。

「二人共大丈夫か? ほら、ポーション」

 流石にこのまま放って置くのもかわいそうなので、ストレージからポーションを二つ取り出し、それを二人に手渡す。
 これで痛みは引く筈だ。

「あ、ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう、にいたん」

 二人はそれを受け取ると、一息に飲み干し、ほっと一息吐く。
 すると、アミィの鼻とデコから赤みが引いていくのが目に見えて分かった。

 おお、すげぇ。何気にポーションの効果を直で見るのは初めてだ。
 コレ傍から見ると不思議な光景だな。

 もしこれが切り傷とかだったら、目に見えて傷が塞がったりするのだろうか? アミィが治癒魔法を使った時は、傷口が光ってよく見えなかったんだよな。
 今度自分で試してみようかな。

「ちょっとユキ。いい加減こっちに来なさい」
「いやー、にいたんと一緒にいるー」

 光がユキちゃんを呼び寄せようとするが、ユキちゃんは全然聞く耳を持っていない様だ。

 ていうか、さっきから気になってたけど、何でユキちゃんは俺の事を「にいたん」なんて呼ぶんだ? 俺に君みたいな妹はいないけど?
 しかもその所為で、さっきは危うく危ない人認定される所だったんだけど?

 橋本さんが馬車内に匿ってくれたからこそ、そこまで大きな騒ぎにはならなかったけど。普通はこんなに小さな女の子に「にいたん」なんて呼ばれて抱き着かれたら、後に待っているのは不審者を見る目の嵐だ。

 いや本当、橋本さんが匿ってくれて本当に良かった。

「わがまま言うと、ご飯あげないわよ!」

 これまた光もシンプルな叱り方をするもんだ。だが、シンプルだからこそ、その効果も絶大な訳で。

「それはいやー!」

 光の「ご飯あげない」発言が余程ショックだったのか、ユキちゃんは悲鳴にも似た声を上げながら、向かいの席に向かって飛びつく様に移動した。

「ご飯無しはいや!」
「はいはい、分かってるわよ。ちゃんとあげるから」
「やったー!」

 光とユキちゃんのやり取りを見て、俺は何故か懐かしい気持ちが込み上げてきた。
 何でだ? こんな光景今までにも見た事あったっけ?

「うちのユキがごめんなさいね。えっと、アミィちゃん、でいいんだっけ?」

 光はユキちゃんを小脇に抱える様な形で座らせると、アミィに視線を向けながら尋ねた。

「あ、はい、そうです。アミィといいます」
「そう。これからよろしくね、アミィちゃん」

 アミィが肯定すると、光はそのまま手を差し出し、握手を求めた。これは所謂仲直りの印的なやつだろうか?

 突然差し出された手を見て、アミィは一瞬「え?」っといった表情になったが、すぐにその意図に気が付き、その手を握り返した。
 二人が短い握手を交わし終え、光がその手を離すと。

「それじゃあ改めまして。私は近衛光。兄さんの妹で、一応召喚勇者なんて物をやらせて貰ってます。よろしくお願いしますね、フレイアさん、マリエールさん」
「「え?」」
「ん?」

 あれ? 気の所為じゃなければ、光は今二人の名前を呼ばなかったか? もしこれが「フーリ」と「マリー」なら、特に違和感は湧かなかったんだけど。
 俺がさっきからそう呼んでるし、何もおかしくはない。

 でも、光は確かに「フレイアさん」と「マリエールさん」って呼んだ筈だ。それはつまり、光は二人の本名を知っているという事になる。
 何で光が二人のあだ名ではなく本名を?

「ふふっ。兄さんのその顔に出る癖、久しぶりに見たわ。「どうして私が二人の本名を?」って顔してる」
「え? そうか?」

 光はまるで悪戯に成功した子供の様な笑顔を浮かべ、コロコロと笑っている。
 久しぶりにっていうのは少し気になるけど、光のあの様子から、特に心配する様な理由がある訳ではなさそうだというのは分かる。

 あれは純粋にこの状況を楽しんでいる顔だ。
 隣を見てみると、二人はこの状況に困惑しているのか、しきりに俺に目配せをしている。どういう事か聞けって顔だな、あれは。

 そうか、これが顔に出るって事か。

「それで? 何で光は二人の本名を知ってたんだ?」

 実際どういう手品だ? 考えられるとすれば、読心系のスキルとかか? そんなスキルがあるかは分からないけど、あり得ない話ではない。
 それかもしくは、人物鑑定とか? それなら話が早い。

 なんなら光は勇者だ。人物鑑定に限らず、一般人が持っていないスキルを持っていたとしても何ら不思議じゃない。

「実は、この世界に来る前に、何度か夢を見てね」

 そう思っていたのだが、俺の予想は大きく外れる事になる。

「ゆ、夢?」
「そう、夢。その夢の中では、兄さん達がこの世界で冒険者として活躍していたわ」
「俺達が? まあ確かに冒険者にはなったけど」

 言っていて自分で気付いた。
 そういえば、これもまだ光にはしていない話だった。でも、光の言う事はまたもや当たっている。

 当てずっぽうという線もあるが、光のあの顔は嘘を言ってる顔じゃないんだよな。

「そうね。これは兄さんしか知らないんじゃない?」
「ん? 何がだ?」

 光は良い事を思いついたという顔で、対面に座った状態から身を乗り出して来て、俺の耳元に顔を近づけてくる。

「ちょっ! 光さん!?」

 俺の隣からアミィが驚きの声を上げて光の名前を呼ぶが、当の本人は聞こえているのかいないのか。いや、流石に聞こえていないという事はないだろうから、聞こえないフリか。

 光はそのまま俺の耳元で囁く様に。

「賢者の森で初めて討伐した魔物。確か、ゴブリンの特殊個体だったわよね?」

 囁く様に紡がれた言葉に、俺は驚愕に目を見開く。

 確かあの時、俺達とゴブリン以外誰もあの場にいなかった筈だ。俺が気付かなかっただけという可能性もあるが、少なくともあの場に光がいたなんて事は絶対にあり得ない。
 いたら一言も声をかけないなんてあり得ない。

「何でその事を!?」

 驚きのあまり、声が上擦りそうになる。
 あれはまだ誰にも話してない。マリーに話しても、悪戯に恐怖心を煽るだけかなって思ったし、フーリに話しても心配させるだけだろう。そう思って話してないんだから。
 なのに、それを光は知っている。

 それが何を意味するのか。
 つまり、光が見た夢というのは、間違いじゃないのかもしれない。

「どうしたんですか、カイトさん? 随分と驚いているみたいですけど」

 その様子が気になったのか、マリーから心配そうに声をかけられ。

「何を言われたんだ?」

 フーリは若干だが、光を警戒しながら俺に尋ねてくる。いや、気持ちは分からないでもないけど、流石に警戒まではしなくても大丈夫だよ?

「いや、俺だけしか知らない筈の話を知ってたから、驚いただけなんだけど、すこし大げさだったな」

 俺がそう言うと、二人は一度顔を見合わせた後。

「そうですか」
「まあ、そういう事なら」

 その疑いの眼差しを引っ込めてくれた。良かった。とりあえず納得してくれたみたいだな。

「ねえ、お兄ちゃん」

 などと考えていたら、今度はアミィから声をかけられ。

「光さんは何を知ってたの?」

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