見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十二話

「ありがとう、兄さん」

 ある程度撫でられて満足したのか、光は自分で俺の手から離れていった。

「本当に、良かったですね。お兄さんとまた再会出来て」
「ええ、こんなに早く会えるとは思ってなかったけど」

 橋本さんはまるで自分の事に喜んでおり、二人は本当に仲が良いのだというのが伝わってくる。さっきの話を聞いた時は心配だったが、光もこの世界で仲のいい友達が出来た様でなによりだ。

 これでもし一人ぼっちだったらどうしようかと思ったが、どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。
 良かったな光。兄さん安心したよ。

「それで、これからの事なんですけど」
「あ、はいはい。これからね」

 つい過保護気味な思考に陥っていると、橋本さんからこれからの事について話しかけられた。
 光だってもういい大人なんだし、いい加減心配しすぎるのも良くないか。

「皆さんには一度王城へ来て頂きたいんです。多分、陛下が絶対に「連れて来い」って言うと思うので」
「王城? 俺達が?」

 あの場では言われるがまま馬車に乗り込んだけど、それがまさか王城に来いって話になるとは思わなかった。
 てっきり適当な所で下ろして貰えるものだとばかり思ってたんだけど。

「はい。本当はこのまま、皆さんには適当な場所で下りて貰うのが普通なんですけど、今日の事は陛下の耳にも入ると筈なので。多分……いや絶対、間違いなく「何でつれて来なかった!」とか面倒な事を言い出す筈ですので」

 面倒!? 今面倒って言ったこの子!? 仮にも一国の王に対して使う様な言葉じゃないと思うんだけど!?
 そう思いフーリとマリーに視線を向けてみると、二人も俺と似た様な反応をしている。アミィも同じく。

 唯一ユキちゃんだけが、アミィの隣で「すぅすぅ」と寝息を立てて寝ている。多分自分とは関係ない話に飽きたって所か。
 まあこの子は光達の関係者だろうし、わざわざ話を聞くまでもないという事だろう。
 いや、単に眠くなっただけなのかもしれない。

「橋本殿。失礼だが、陛下に対してその言葉遣い、流石に不味いのでは? 馬車の周りには護衛の騎士も何人かいる様だし、もし陛下の耳にでも入ったら」

 流石に今の発言は良くないと思ったのか、フーリが橋本さんにそれを指摘するが。

「いえ、大丈夫です。今に始まった事ではないので。ですよね?」

 橋本さんが馬車の近くにいた護衛の騎士の一人に声をかけて尋ねると。

「あ、あははっ、ははっ」

 何とも気まずそうな、曖昧な笑いが返ってくるのみだったが、その笑いが全てを物語っている。
 ていうか、今の話聞こえてたのか?

 確かに馬車の窓は全開になっているし、それなりに近くにいれば馬車内の会話も聞こえてきたりもするかもしれないけど。
 でも、聞こえていてこの反応という事は。

「もしかして、所謂「ダメ王」ってやつだったりする?」

 可能性としてはコレが一番あり得そうだけど。でも、ペコライでたまに聞いていた話では、ダメ王って印象は無かったんだよな。

「いいえ、兄さん。あの人は決して「ダメ王」なんかじゃないわ。むしろ凄い人よ。それは間違いない。でも、それとこれとは話が別っていうか」

 俺の「ダメ王」発言は、光によってあっさりと否定されてしまった。それどころか「凄い人」とまで言われている。
 光が凄いというのなら、多分凄い人なんだろう。どう凄いのかは分からないけど。

「あの人は何というか、子供っぽい部分があるというか、何というか」

 橋本さんが言い淀む。それ程言い難い話だという事なんだろうけど、今の子供っぽい発言で何となく想像出来てしまった。
 ただ、どうやらそれは俺だけだったみたいで。

「えっと「子供っぽい」というのはどういう事ですか? 光さんは、国王様は凄い人だって言ってますけど」

 フーリとマリー、それにアミィもイマイチ理解出来ていないらしい。
 まあ俺も日本の総理大臣が子供っぽいとか言われても「何のこっちゃ?」ってなるだろうし、それが普通の反応だと思う。

「あー、もしかしてだけど、その国王様ってのは、面白そうな事とかに目がなかったりするとか?」
「え? 何を言ってるんですかカイトさん? そんな事ある訳、」
「えっと、まあそうですね。面白そうな事「にも」目がなかったりします」
「「「えっ?」」」

 面白そうな事「にも」か。これは一癖も二癖もありそうな人の予感。

「ま、まあ、国王様も人間ですからね。面白い事が好きでも全然おかしくはないですよ」
「そうだな、マリー。全然おかしくないな」
「そうですよ。全然おかしくなんてありません」

 マリー達三人が、まるで自分に言い聞かせる様に言葉にして呟く。まあ確かに、ただの「面白い事好きな国王様」っていう可能性も残ってる。
 でも、さっきの橋本さんや光の口振りからして、多分それはほぼ無いと思うけど?

「ま、まあ、悪い様にはされない筈ですから、心配しないで下さい。流石にあの人もそのぐらいの常識は持ち合わせてる筈、ですから?」

 何で疑問形?
 橋本さんはフォローしたつもりだろうけど、その言い方はあんまり効果が無いと思うよ?

「それじゃあ、私はまた上に行きますから、皆さんは王城までのんびり寛いでて下さい」

 橋本さんはそう言うと、馬車の窓からサッと身を乗り出して窓枠に足をかけると、そのままグッと踏み込んでから飛び上がる。

「おお、すげぇ。橋本さんって意外と運動神経いいな」

 あの手のタイプは、基本的に運動は苦手っていうのがお約束なんだけど。

「ちょっと兄さん、智子ちゃんに失礼よ。まあ確かに、最初はあまり運動神経良くなかったけど」

 俺の呟きに、光は橋本さんを庇う様に反応したが、最後の方はどっちの味方をしているのか分からなくなる様な事を言っていた。
 イメージはあくまでイメージだからな。そんなに当てになる様なものでもないか。

「そうだな。光の言う通りだ」

 それにしても、光はよっぽど橋本さんと仲が良いと見える。
 歳もそんなに離れてないし、同じ女同士だ。話も合うのだろう。だからこそ、仲良くなるきっかけも多かったのかもしれない。

 そう思い、光に視線を向ける。光も召喚勇者なんだし、そろそろ上に戻るだろう。そう思っていたんだが、光は一向に動く気配がない。

「ん? どうしたの兄さん?」
「え? いやぁ……」

 てっきり光も上に戻るものだと思ってたんだけど、戻らなくていいのか? パレードに支障とかない?
 そう聞こうかと思ったのだが。

「あの、光さん!」
「はい? 何かしら?」

 橋本さんが馬車を出て行き、光が残っている事に俺が疑問を感じている。まさにそんなタイミングだった。アミィが意を決した様に口を開き、光に話しかけたのは。

「光さんは、お兄ちゃんの妹、なんですよね?」
「ええ、そうね。それがどうかしたのかしら?」

 アミィはまるで、とても重要な事を尋ねるかの様な気迫を纏っている。

「あの、お兄ちゃんを、」
「ん~、うるさい!」
「ぎゃっ!」

 アミィがもう一度口を開き、まるで今から告白でもしますってぐらいの気合の入り方で話そうとした時、悲劇は起きた。

 アミィの隣ですやすやと寝息を立てて寝ていたユキちゃんが、まるで邪魔な物を振り払う様に手を振り、それがアミィの顔に命中。

 アミィはユキちゃんの手と馬車のシートの間に顔を挟まれていた。ていうか、叩かれていた。
 うわ、痛そう。あ、鼻赤くなってる。

 そのなんとも締まらない状況に、俺は心の中でそう呟いた。

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