見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十七話
車道から上半身を乗り出す形で道の先に視線を向けると、確かに馬車らしき乗り物がゆっくりとこっちに近づいてきているのが見えた。
まだ大分遠いけど。
「アレが召喚勇者を乗せた馬車か……って、なんかデカくね?」
ここから見る限り、馬車は結構遠くにある様に感じる。感じるのだが、何というか、距離と大きさが噛み合っていない様に見える。
それもその筈。道の先からこっちに近づいてくる馬車の車体は、明らかにデカいのだ。民家の二階まで届きそうな程の大きさをしているからだ。
あれは馬車というよりやぐらだ。移動するやぐら。
「確かに、大きいですね」
「どう見ても馬車の大きさじゃないな」
独り言のつもりで呟いたのだが二人には聞こえていたらしい。まあこの距離だしな。
「あの馬車、確かに大きいですね。パレード用でしょうか?」
「かもしれないな。それにしても、本当に大きい」
俺と同じで、二人もあの馬車は大きいと口にしている。
馬車が通り過ぎるのに合わせる様に歓声が上がっているが、召喚勇者が手でも振っているのだろうか?。
「ここに着くまでもう少しかかりそうだな」
歓声が上がっているのはまだ少し先の方で、聞こえてくる声の大きさもなかなか大きくならない。
つまり、それだけゆっくりと近づいているという事だ。
「そうですね。もうしばらく待たないといけないかもしれません」
だよなぁ。でも、待ってる間ちょっと暇だな。
「もう一軒ぐらいなら回れるかも」
正直このまま待ってるのは暇だし性に合わない。いっそ少しの間だけ抜けてしまおうか。
……うん、別に勇者は逃げないし、少しぐらい抜けても大丈夫だろ。
もし場所が無くなっても、最悪どっかの屋根の上に跳躍で上って見ればいいだけだし。
「二人共、俺ちょっと抜けるな」
「え? カイトさん!?」
「ちょっ、カイト君!?」
二人は俺の言葉に驚きを隠せないでいるのか、慌てた様に俺の名前を呼んでいる。
「大丈夫、心配しなくてもすぐに戻って来るから」
ちょっと出店を覗いてくるだけだから。
そう二人に言い残し、俺は人ごみを掻き分け出店の方へと向かう。
何気に今はいいタイミングなのでは?
みんな勇者の方ばかり気にかけてるから、その分出店の方は人が少ないし。
「ちょっと待って下さいよカイトさん」
「いきなり離れないでくれ。はぐれたらどうするんだ?」
そんな事を考えていたら、マリーとフーリまで人ごみを抜けて出店の方へと戻って来ていた。
「え? 二人共付いて来たのか?」
折角車道の真ん前を陣取れたというのに。
って、これってもしかしなくても俺の所為か? 俺が途中で抜け出したから、二人も仕方なく追いかけて来たのだろうし。
だとしたら、悪い事したな。祭りの空気に当てられて、少し変なテンションになってたのかもしれない。
あのタイミングで抜け出すなんて、どう考えてもおかしいだろ俺。
十秒前の自分を殴りたい。
「当たり前です。それで、どこに行くんですか?」
今更ながら申し訳なく思っていると、マリーが俺にどこに行くのか尋ねてきた。
あれ? パレードはいいの?
「えっと、もう一軒ぐらい出店を回れないかと思ってるんだけど」
一応二人に俺が何をしようとしていたのか話してみると。
「んー、そうだな。確かに一軒ぐらいなら回れそうではあるが」
意外な事に、フーリも否定的な雰囲気ではなさそうだ。
これは、本当にもう一軒ぐらい回れるか?
「あ、それじゃあアレなんてどうですか?」
と、マリーが指差した方に目をやると、そこには斜めに置かれた板に、九本の棒が等間隔に取り付けられた的と、握り拳大程の大きさのリングが置かれた店――輪投げ屋があった。
「お、輪投げか。いいな、面白そう」
輪投げなんて子供の頃以来やってないな。
昔はなかなか輪が入らなくて、ついムキになったっけ。で、何度もやって、母さんが途中で止めに入って来るまでがお約束だった。
ちなみに今まで景品も何回かはとった事がある。
流石に今やれば百発百中だろうけど。
「輪投げ? 輪投げとは何だ?」
フーリは輪投げが何なのか分かっていない様で、小首を傾げながら尋ねてきた。
「あ、私も気になります」
そしてマリーも。そっか、二人共輪投げ知らないのか。まあ確かにペコライで輪投げなんて見た事無いし、知らなくても無理はない。
「輪投げっていうのは……いや、実際に見た方が早いな。二人共、付いて来てくれ」
俺は二人を先導して輪投げ屋の前まで来ると、もう一度店の中を確認した。
うん、どこからどう見ても、普通の輪投げ屋だ。
店の看板にも「輪投げ」って書いてあるしな。……って、日本語?
日本語って事は、この輪投げ屋は侍の国から来てるのか。
わざわざ国外まで来るなんて、商売熱心だな。
「おっちゃん、一回いくら?」
「銅貨五枚で、輪っか三つだ」
「景品は?」
「そこの棚に飾ってある奴から一つ持って行きな」
棚の上を確認すると、色々な景品が用意してあった。ブリキの玩具や武具の手入れ用の砥石。果ては魔物の素材まで。
普段見ない様な物も置いてあったが、その中で熊によく似た生物の人形が一番気になった。アレにするか。
「とりあえず一回で」
「毎度」
手短に確認してから一回分の代金を支払い、おっちゃんから輪っかを三つ受け取ると、二人に振り返った。
「随分手慣れてますね」
「そうか?」
「ああ、マリーの言う通りだ。向こうでも同じ物があったのか?」
二人は今のやり取りを見て、俺が手慣れていると言うが、確かにそうかもしれない。子供の頃から祭りに来る度にやってたから、いつの間にか癖になっていた様だ。
一回分の値段の確認、回数、そして景品の確認も。
「お待ち。さあ、いつでもいいぞ」
おっちゃんが俺に金属で出来た輪っかを三つ手渡してきたので、それを受け取ってから。再び二人に視線を移し。
「コレをここから投げて、的に入ったら景品をゲットっていうのが輪投げなんだけど」
と、二人に簡単に説明してから。
「よっと」
三つの輪っかの内の一つを手に取り、それを的に向かって放り投げた。
ここから的までの距離は大体五メートルといったところか。結構あるな。
その距離を、輪っかは真っ直ぐに飛んでいき、的の棒に入る直前。
ストッ
棒に入るギリギリの所で外れる輪っか。
それを無言で眺める視線。沈黙の時間が流れる。
「……と、こんな具合に外す事もあるから」
その沈黙が耐えられなくなり、俺は早口に喋って誤魔化した。ま、まあこういう事もあるか。
「カイトさん、ドンマイです」
「そういう事もあるさ、気にするな」
二人からの優しさが悲しい。つ、次こそは失敗しないぞ。
二人は今のでどんなゲームか理解したのか、自分達も代金を支払って輪っかを購入。好きなように遊び始めた。俺ももちろんこの人形を手に入れるまでは続けるつもりだ。
「さて、続きだ」
手の中の輪っかは残り二つ。俺はそれを的に向かって真っ直ぐに放り投げた。
「ついに来たよ、お兄ちゃん!」
目の前に広がるのは、王都の城下町。
三年前に訪れた時はお母さんと二人でだったけど、今はお母さんはいない。代わりに一緒にいるのは、私をここまで送り届けてくれた、ヴォルフさんとロザリーさん。
二人には本当に感謝してもしきれない。
だって、もしも私一人だけだったら、王都になんて到底たどり着けなかったから。
だからこそ得られたこのチャンス、絶対に逃がさないんだから。
「アミィちゃん、一緒にいないとはぐれちゃうよ。ただでさえパレードで人が増えてるんだから」
「あ、はい、すみません」
いけない、王都に辿り着いた喜びで、ついはしゃいじゃった。
本当は今すぐにでもお兄ちゃんを探しに行きたいけど、今はまだ我慢しなきゃ。
今日泊まる宿も決まってないんだし、ロザリーさん達にあまり迷惑はかけたくない。
「いいのよ、分かってくれれば。それじゃあ先にお昼済ませちゃいましょうか。ヴォルフもそれでいい?」
「あ? ああ、構わねぇぞ」
ロザリーさんの提案に、ヴォルフさんは特に文句は言わなかった。もちろん私も。
「じゃあ、行きましょう。えーっと、出店が出てるのは……こっちみたいね。それじゃあ二人共、行くわよ」
「あぁ」
「はい!」
パレードの出店かぁ。もしかしたら、お兄ちゃんとバッタリ会えちゃったりして。
まだ大分遠いけど。
「アレが召喚勇者を乗せた馬車か……って、なんかデカくね?」
ここから見る限り、馬車は結構遠くにある様に感じる。感じるのだが、何というか、距離と大きさが噛み合っていない様に見える。
それもその筈。道の先からこっちに近づいてくる馬車の車体は、明らかにデカいのだ。民家の二階まで届きそうな程の大きさをしているからだ。
あれは馬車というよりやぐらだ。移動するやぐら。
「確かに、大きいですね」
「どう見ても馬車の大きさじゃないな」
独り言のつもりで呟いたのだが二人には聞こえていたらしい。まあこの距離だしな。
「あの馬車、確かに大きいですね。パレード用でしょうか?」
「かもしれないな。それにしても、本当に大きい」
俺と同じで、二人もあの馬車は大きいと口にしている。
馬車が通り過ぎるのに合わせる様に歓声が上がっているが、召喚勇者が手でも振っているのだろうか?。
「ここに着くまでもう少しかかりそうだな」
歓声が上がっているのはまだ少し先の方で、聞こえてくる声の大きさもなかなか大きくならない。
つまり、それだけゆっくりと近づいているという事だ。
「そうですね。もうしばらく待たないといけないかもしれません」
だよなぁ。でも、待ってる間ちょっと暇だな。
「もう一軒ぐらいなら回れるかも」
正直このまま待ってるのは暇だし性に合わない。いっそ少しの間だけ抜けてしまおうか。
……うん、別に勇者は逃げないし、少しぐらい抜けても大丈夫だろ。
もし場所が無くなっても、最悪どっかの屋根の上に跳躍で上って見ればいいだけだし。
「二人共、俺ちょっと抜けるな」
「え? カイトさん!?」
「ちょっ、カイト君!?」
二人は俺の言葉に驚きを隠せないでいるのか、慌てた様に俺の名前を呼んでいる。
「大丈夫、心配しなくてもすぐに戻って来るから」
ちょっと出店を覗いてくるだけだから。
そう二人に言い残し、俺は人ごみを掻き分け出店の方へと向かう。
何気に今はいいタイミングなのでは?
みんな勇者の方ばかり気にかけてるから、その分出店の方は人が少ないし。
「ちょっと待って下さいよカイトさん」
「いきなり離れないでくれ。はぐれたらどうするんだ?」
そんな事を考えていたら、マリーとフーリまで人ごみを抜けて出店の方へと戻って来ていた。
「え? 二人共付いて来たのか?」
折角車道の真ん前を陣取れたというのに。
って、これってもしかしなくても俺の所為か? 俺が途中で抜け出したから、二人も仕方なく追いかけて来たのだろうし。
だとしたら、悪い事したな。祭りの空気に当てられて、少し変なテンションになってたのかもしれない。
あのタイミングで抜け出すなんて、どう考えてもおかしいだろ俺。
十秒前の自分を殴りたい。
「当たり前です。それで、どこに行くんですか?」
今更ながら申し訳なく思っていると、マリーが俺にどこに行くのか尋ねてきた。
あれ? パレードはいいの?
「えっと、もう一軒ぐらい出店を回れないかと思ってるんだけど」
一応二人に俺が何をしようとしていたのか話してみると。
「んー、そうだな。確かに一軒ぐらいなら回れそうではあるが」
意外な事に、フーリも否定的な雰囲気ではなさそうだ。
これは、本当にもう一軒ぐらい回れるか?
「あ、それじゃあアレなんてどうですか?」
と、マリーが指差した方に目をやると、そこには斜めに置かれた板に、九本の棒が等間隔に取り付けられた的と、握り拳大程の大きさのリングが置かれた店――輪投げ屋があった。
「お、輪投げか。いいな、面白そう」
輪投げなんて子供の頃以来やってないな。
昔はなかなか輪が入らなくて、ついムキになったっけ。で、何度もやって、母さんが途中で止めに入って来るまでがお約束だった。
ちなみに今まで景品も何回かはとった事がある。
流石に今やれば百発百中だろうけど。
「輪投げ? 輪投げとは何だ?」
フーリは輪投げが何なのか分かっていない様で、小首を傾げながら尋ねてきた。
「あ、私も気になります」
そしてマリーも。そっか、二人共輪投げ知らないのか。まあ確かにペコライで輪投げなんて見た事無いし、知らなくても無理はない。
「輪投げっていうのは……いや、実際に見た方が早いな。二人共、付いて来てくれ」
俺は二人を先導して輪投げ屋の前まで来ると、もう一度店の中を確認した。
うん、どこからどう見ても、普通の輪投げ屋だ。
店の看板にも「輪投げ」って書いてあるしな。……って、日本語?
日本語って事は、この輪投げ屋は侍の国から来てるのか。
わざわざ国外まで来るなんて、商売熱心だな。
「おっちゃん、一回いくら?」
「銅貨五枚で、輪っか三つだ」
「景品は?」
「そこの棚に飾ってある奴から一つ持って行きな」
棚の上を確認すると、色々な景品が用意してあった。ブリキの玩具や武具の手入れ用の砥石。果ては魔物の素材まで。
普段見ない様な物も置いてあったが、その中で熊によく似た生物の人形が一番気になった。アレにするか。
「とりあえず一回で」
「毎度」
手短に確認してから一回分の代金を支払い、おっちゃんから輪っかを三つ受け取ると、二人に振り返った。
「随分手慣れてますね」
「そうか?」
「ああ、マリーの言う通りだ。向こうでも同じ物があったのか?」
二人は今のやり取りを見て、俺が手慣れていると言うが、確かにそうかもしれない。子供の頃から祭りに来る度にやってたから、いつの間にか癖になっていた様だ。
一回分の値段の確認、回数、そして景品の確認も。
「お待ち。さあ、いつでもいいぞ」
おっちゃんが俺に金属で出来た輪っかを三つ手渡してきたので、それを受け取ってから。再び二人に視線を移し。
「コレをここから投げて、的に入ったら景品をゲットっていうのが輪投げなんだけど」
と、二人に簡単に説明してから。
「よっと」
三つの輪っかの内の一つを手に取り、それを的に向かって放り投げた。
ここから的までの距離は大体五メートルといったところか。結構あるな。
その距離を、輪っかは真っ直ぐに飛んでいき、的の棒に入る直前。
ストッ
棒に入るギリギリの所で外れる輪っか。
それを無言で眺める視線。沈黙の時間が流れる。
「……と、こんな具合に外す事もあるから」
その沈黙が耐えられなくなり、俺は早口に喋って誤魔化した。ま、まあこういう事もあるか。
「カイトさん、ドンマイです」
「そういう事もあるさ、気にするな」
二人からの優しさが悲しい。つ、次こそは失敗しないぞ。
二人は今のでどんなゲームか理解したのか、自分達も代金を支払って輪っかを購入。好きなように遊び始めた。俺ももちろんこの人形を手に入れるまでは続けるつもりだ。
「さて、続きだ」
手の中の輪っかは残り二つ。俺はそれを的に向かって真っ直ぐに放り投げた。
「ついに来たよ、お兄ちゃん!」
目の前に広がるのは、王都の城下町。
三年前に訪れた時はお母さんと二人でだったけど、今はお母さんはいない。代わりに一緒にいるのは、私をここまで送り届けてくれた、ヴォルフさんとロザリーさん。
二人には本当に感謝してもしきれない。
だって、もしも私一人だけだったら、王都になんて到底たどり着けなかったから。
だからこそ得られたこのチャンス、絶対に逃がさないんだから。
「アミィちゃん、一緒にいないとはぐれちゃうよ。ただでさえパレードで人が増えてるんだから」
「あ、はい、すみません」
いけない、王都に辿り着いた喜びで、ついはしゃいじゃった。
本当は今すぐにでもお兄ちゃんを探しに行きたいけど、今はまだ我慢しなきゃ。
今日泊まる宿も決まってないんだし、ロザリーさん達にあまり迷惑はかけたくない。
「いいのよ、分かってくれれば。それじゃあ先にお昼済ませちゃいましょうか。ヴォルフもそれでいい?」
「あ? ああ、構わねぇぞ」
ロザリーさんの提案に、ヴォルフさんは特に文句は言わなかった。もちろん私も。
「じゃあ、行きましょう。えーっと、出店が出てるのは……こっちみたいね。それじゃあ二人共、行くわよ」
「あぁ」
「はい!」
パレードの出店かぁ。もしかしたら、お兄ちゃんとバッタリ会えちゃったりして。
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