見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十三話

 ニーナさんにアンの事を頼んだ後、俺は一度自室へと戻る事にした。

「そういえば、二人はもう起きてるのか?」

 ふと気になった俺は、気配探知を発動してみた。すると、部屋に二人分の反応を確認出来た。
 動きが全くないし、多分まだ寝てるんだろうな。

「マリーはともかく、フーリがまだ寝てるのは珍しいな」

 フーリは普段早起きだから、てっきりもう起きてるのかと思っていたのだが。
 まあ今は実質休暇みたいなものだし、フーリも気が緩んでいるのだろう。

「まあいいか」

 時間的にはまだ早朝。急いで起きないといけない時間じゃない。
 ここで二人を起こすのも忍びないので、俺はなるべく音を立てない様に注意して自室へと戻った。

 上着を脱いでストレージの中へと仕舞い、ベッドに寝っ転がる。

「さて、とりあえずストレージの確認でもするかな」

 主に食べ物的な意味で。
 さっきニーナさんは「食べ物を置いてきたなら大丈夫」と言っていた。
 それを聞いてすぐは「そんな馬鹿な」と思ったが、今は別の可能性を考えている。

 もしかしたらアンは……食いしん坊キャラなのではないか?
 だからさっきニーナさんは、あんな事を言ったのかもしれない。

「もし仮にそうだとしたら、食べ物で買しゅ……仲良くなれるかもしれない」

 そうと決まれば、早速ストレージに何か貢ぎ物が無いか確認してみよう。

「えーっと、オーク肉にコーカトリの肉。それからオーガの肉も少しあるな。って、なんか肉ばっかりだな。もっと他に何か無いのか? 野菜とか魚介とかパンとか」

 ざっと確認してみるが、魚介もパンも全くと言っていい程無い。ていうか、魚介に関してはマジで全くない。

 そういえばこっちに来てからというもの、肉とかキノコばっかりで、魚介を全然食べてないな。マグロ、サーモン。ハマチにカンパチ。えんがわなんかも良いな。
 なんか考えてたら、無性に寿司が食いたくなってきた。

 だが、この世界で寿司なんて見た記憶はない。
 でも、だからと言って簡単には諦めきれない。どこかで食べれないものか。

「……っと、いかんいかん。考えが脱線してた」

 魚介は一旦置いといて、今はストレージから食べられそうな物を探さないと。

「とは言ってもなぁ」

 ストレージに収納されてる食べ物は基本的に魔物の肉ばかり。それとペコライを出る前に大量に買い込んだ賢者の息吹の料理だが、これは帰りの食料だから手を出す訳にいかない。

 となると、あと残ってるのは。

「……オイ椎茸かウマイ茸、か」

 確かに、これがあれば料理の幅も広がるだろう。一緒に炒めるもよし。肉をステーキにして、脇に添えるのもよし。肉巻きにしてもいいし、出汁をとって、肉たっぷりのスープなんかもありかもしれない。

 だが、これに手を出すという事は、マリーに喧嘩を売るのと同義だ。いや、マリーも孤児院の状況を理解している筈だし、流石に怒ったりは……ワイルドボアの一件があるからなぁ。

 絶対にないとは言い切れないのが悲しい所だ。
 その後、キノコに手を出すかどうかしばらく考えていたが、なかなか答えは出ず。結局フーリとマリーが俺の部屋の扉を叩く音がするまで悩み続けていた。



「それで、何を悩んでいたんですか?」
「え? いや、別に大した事じゃないって」

 あの後、俺達三人は出かける準備を済ませ、少し早いがパレードを見に出かける事にした。
 パレードとは言ってるが、俺にとっては祭り感覚だ。

 賑わう人。ずらりと並ぶ出店。そこら中に飾ってある飾り物。
 これで時間が夜なら、完全に縁日のそれだ。

 あれ? 縁日と祭りって、厳密には別物だったっけ? 確か神様と縁がある日が縁日で、神様を祭る儀式とか行事が祭りだって、昔父さんから聞いた様な?

 つまりこのパレードは、どちらかと言うと祭りに近いのか。儀式の対象は神様じゃなくて召喚勇者だけど。

「それにしても、やっぱり王都は広いな」

 まだほんの一部しか回れていないが、それだけでペコライよりも広いのだと確信できた。下手すると何倍もの広さがあるぞコレ。
 街を行き交う人々も、今まで以上に多種多様な種族が行き交っている。

「ああ、そうだな。久しぶりに王都に来たが、やはり活気が違う。パレードの影響もあるのだろうが、それを差し引いてもすごい」

 俺の言葉にフーリも大きく頷く。

「そういえばペコライもそうだったけど、この世界って「亜人差別」みたいなものはないのか?」

 俺はそこで、今まで気になっていた事をふと尋ねてみた。

「あるな」
「ありますね」

 すると、亜人差別という言葉にフーリとマリーの二人が同時に答えたが、その答えはどちらも同じだった。
 やっぱりあるんだ、そういうの。

「とは言っても、この国ではほぼ無いに等しいがな」
「そうなのか?」

 確かに、今の所そういう差別的な物を見た記憶はない。少なくとも、ペコライでは亜人差別なんていう物は一切無かった様に思う。 王都にはまだ来たばかりだから何とも言えない部分はあるものの、今の所表立った差別はない。

 貧富の差はあるようだが、それはまた別の問題だ。

「他国はともかく、ルロンド王国では人種も亜人種も平等に扱われますからね。今の国王陛下に代替わりしてからは、特にその風潮が強くなりましたし」

 今の国王陛下というと、確か実績主義だかなんだかで、果ての洞窟の研究をしている学者が、自ら潜らざるを得なくなった原因を作った人、だったか?

 確かに実績は大事だけど、それで研究者の命が失われるのは、最終的に国の損失にはならないのだろうか?

「確か、色々と凄い人だって話だったよな?」

 前にちらっと小耳に挟んだ話によると、今までの国王陛下とは違う、風変わりな人だという話だ。

「そうですね。歴代最年少で王位に就いたとは思えない程の手腕を振るっています」
「歴代最年少?」

 もしかしてだけど、今の国王陛下って俺が思ってる以上に若いのか?
 何となく、五十から六十ぐらいなのかと思ってたんだけど。

「ええ、最年少です。確か王位に就いたのが今から九年前ですから、今は二十五歳ぐらいだった筈です」
「二十五!?」

 いや、想像よりも遙かに若いわ。なんなら俺の予想にダブルスコア決めてんじゃねえか。

「驚くのも無理はない。普通王位に就くのは三十代半ば。早くても二十代後半ぐらいだからな。今の国王陛下が異例というか、特別なだけだ」

 フーリの言う通り、普通は十代で国王に就くなんてあり得ないだろう。
 この世界の国王が世襲制かどうかは分からないが、世襲制だとしたら前国王――今の国王陛下の父親の身に何かがない限り、世襲はもっと先の筈だ。

 逆に言えば、その「何か」があった場合、その若さで国王っていうのも充分あり得る話なのかもしれないけど。

「話を戻しますね。この国では、今の――ギルガオン様が国王陛下になってから、大々的な奴隷商人狩りがありましたから」
「奴隷商人狩り?」

 ギルガオン様と言われて、一瞬誰の事か分からなくなったが、話の流れからこの国の現国王の名前だろうという事は分かった。

 それにしても、随分と物騒な話になったな。奴隷商人狩りって、文字通り奴隷商人を狩ったのか? 魔女狩りみたいに?

「言い方は物騒だが、要は違法な奴隷売買を行っている奴隷商人を、片っ端から捕まえていったんだ」
「あ、なるほど」

 そういう事か。それなら分かる。要は日本で言う一斉検挙の様な物だろう。たまにテレビで、夜の店なんかが風営法違反とか何とかで検挙されてるのを観てたからな。密着何とかって番組、好きだったんだよなぁ。

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