見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十二話

「なあフォレ。その「おじいちゃん」っていうのは?」

 孤児院でおじいちゃん。もう分かり切っている事ではあるけど、念の為フォレに確認してみると。

「おじいちゃんは、皆のおじいちゃんだよ」

 フォレが言う「皆のおじいちゃん」という単語で、そのおじいちゃんが何者なのか大体分かってしまった。
 多分おじいちゃんというのは、この孤児院の院長だろう。

 そのおじいちゃんが倒れた。

 一年程前から経営が苦しくなった孤児院。こんなに分かりやすい話があるだろうか?
 つまり、この孤児院は寄付金が減った上に、おじいちゃん――院長が倒れた事により、経営に無理が出たのだろう。

 せめて寄付金が減っていなければ。もしくは院長が倒れていなければ、この孤児院はまだどうにかなっていたかもしれない。
 だが、運悪く両方同時に起こってしまった、と。

「そのおじいちゃんは、今はどうしてるんだ?」

 自分で歩く事ぐらいは出来るのか。それとも寝たきりなのか。もし寝たきりなら、どのぐらい悪いのか。
 それかもしくは、院長は……もう既に亡くなっている可能性もわずかにある。

 だが、フォレは「おじいちゃんが倒れた」って言ってたし、流石にそれは無いとは思う。ていうか思いたい。

「おじいちゃんは、今はお部屋で寝てる」
「そうか。「今は」お部屋で寝てるんだな?」
「うん、そう」

 フォレの言葉で、とりあえず最悪の可能性は無くなった。
 だが、今の言い方も気になるな。多分フォレはそこまで考えて言ってないと思うけど、捉え方次第では院長の今の状況ががらりと変わって来る。

 今は早朝だから寝てるのか。それとも、前はまだ起き上がれてたけど、今は自分で起き上がる事も出来なくなったのか。
 出来れば前者であって欲しいけど、難しい所だろうな。

 病気かケガか。或いは年齢的な問題なのか。
 実際にこの目で見てみない事には何とも言えない。見たとしても分かるとは限らないけど。

「なあフォレ、良かったら一度……」
「あら? フォレー? 起きてるの?」

 おじいちゃんに合わせて貰えないか、という言葉は、奥の部屋から聞こえてきた声によって飲み込まざるを得なくなった。
 何故ならその声は。

「アンお姉ちゃん?」

 昨日色々とあった、アンの声だったからだ。
 すっかり忘れてたけど、今日はちょっと様子を見るだけのつもりだったんだ。
 なのに、気が付いたらガッツリ孤児院の中にいる。

 いや、あのままフォレを放って置くなんて選択肢は俺には無かったし、それ自体に後悔はない。だけど、それとこれとは話が別だ。
 とにかく、アンに見つかる前にさっさと退散しないと。

「フォレ、俺はもう行くから」
「え? おじちゃん帰っちゃうの?」

 俺が別れを告げると、フォレは意外そうな声を上げた後、寂しそうな表情で俺を見てきた。
 いや、流石に昨日の今日でアンにこんな所を見られる訳にはいかない。下手すると不審者扱いだ。

「ごめんな。また来るから」

 俺は寂しそうにしているフォレの頭に手を置き、その頭を撫でる。小さい子はこれに限る。

「フォレ? そこに誰かいるの?」

 アンがフォレを呼ぶ声が、さっきよりも大きくなった。これ以上は無理だな。

「それじゃ」

 フォレの頭から手を離し、そのまま孤児院から出て行こうとした時だった。

「おじちゃん、お肉ありがと。すごくおいしかった」

 突然フォレからお礼を言われ、俺は一瞬何の事か分からなかった。が、すぐに昨日のオーク肉の事を言っているのだと思い至った。
 そっか。食べてくれたんだな。もしかしたら、食べて貰えないかもしれないと思っていたから、とりあえず一安心だ。

「ああ、どういたしまして。またな」

 フォレにそれだけ返すと、俺はそのまま部屋から出る。
 最後にフォレからもたらされた朗報に嬉しさを感じつつ、俺はそのまま孤児院を後にした。



「そっか、食べてくれたんだな」

 急いで孤児院を出てきた俺は、廃墟の辺りで一息つきながら、そう漏らした。
 とりあえず、アレを食べてくれるのなら、しばらくは飯の心配はしなくて大丈夫だろう。

 適当に置いてきたけど、パッと見オーク二頭分ぐらいの肉はあったと思う。
 孤児院の子供が何人ぐらいいるのかは分からないが、流石にあの量が三日ももたないとかはないだろう。

 下手すると大人数人で一週間ぐらいはもつんじゃないか? あくまで肉だけ食べ続ければの話だが。

 だが、はたしてオーク肉だけで何日ぐらい飽きずに食えるものだろうか? 飽きるなんて贅沢だって言われるかもしれないけど、出来ればあの年頃の子供には旨い物を食わせてやりたいじゃないか。

「今度は別の食べ物を持って行こう。その為にも、アンの誤解は早い段階で解いておかないと」

 昨日のニーナさんとアンのやり取りからして、アンは定期的に渡り鳥亭に顔を出している筈だ。

 だったら、今度アンが渡り鳥亭に来た時に、ニーナさんに誤解を解いて貰うのが一番確実だな。
 そう考えながら、俺は渡り鳥亭への帰路へとついた。



 俺が孤児院から渡り鳥亭に帰り着く頃には、早朝の薄暗さもすっかり消え去っていた。

「あ、おかえりなさいませ。散歩でもしてたんですか?」
「あ、はい、そんな所です」

 渡り鳥亭の扉を開いて中に入ると、そこにはニーナさんの姿があり、店内の掃除をしている様だった。
 開店前の掃除といった所か。

「それで、昨日はあの後どうなりましたか? あの子達は喜んでました?」

 あ、そっか。ニーナさんとは宿で別れた後一度も会ってないんだった。昨日何があったかなんて知る筈も無いか。

「いやあ、昨日はすっかりアンに警戒されちゃって、食べ物を置いてくる事しか出来ませんでした」

 よく考えたら、見知らぬ他人の、しかも大人の男が突然孤児院に入ってくれば、誰でも警戒するよな。
 それだけが理由とは思えないけど。

「え、そうなんですか?」
「ええ。見知らぬ男が孤児院の中にいたから、っていうのもあるかもしれないですけど」

 今にして思えば、その可能性も充分あるんだよな。
 昨日は特に考えもしなかったけど。

「それで、一つお願いがあるんですけど」
「はい? 何ですか?」

 タイミング的には今がベストだろう。切り出すのに丁度いい。

「このままアンに誤解されたままだと困るんで、ニーナさんの方からも誤解を解いて貰えませんか?」

 次にいつアンがここに来るのかは分からないけど、その時にでも話をして貰えれば助かる。

「私がですか? それは構いませんけど」

 俺がニーナさんにお願いすると、ニーナさんは少し戸惑っている様だった。

「多分俺が誤解を解こうとしても、なかなか話を聞いて貰えないかもしれないので。その点、ニーナさんの話なら聞くと思うんですよ」

 少なくとも俺よりは話を聞くだろう。昨日のアンはニーナさんに感謝してるみたいだったし、間違いない。

「でも、あの子達に食べ物を分けて下さったんですよね?」
「え? まあ、それはそうですけど」

 確かに、オーク肉は昨日置いてきた。でも、それが何か関係あるのか?

「だったら多分大丈夫だと思いますけど」

 俺が答えると、ニーナさんはそれだけで「多分大丈夫だ」と言った。
 いや、食べ物だけで? 俺はオーク肉置いてきただけだけど?
 流石にそれだけで誤解が解けるとは思えない。

 そんな俺の考えが伝わったのか、ニーナさんは一度考えるような仕草をした後。

「とりあえず、今度あの子が来た時に話はしておきますね」

 と、とりあえず了承してくれた様だ。良かった、分かってくれて。

「ええ、それで大丈夫です。ありがとうございます、ニーナさん。助かります」

 まあ色々と思う所はあったけど、最終的に誤解は解いてくれると言ってくれたし、良しとするか。
 ……あ。そういえば、あの肉どうやって保存してるんだろう?

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