見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
十九話
「うわぁ、すげぇ」
ここは俗にいう礼拝堂という場所だろう。入口から入って一番奥に備え付けられている教壇の様な机まで、真っ直ぐに伸びる長絨毯と、その両サイドに並ぶ複数の長椅子が、いかにも教会といった感じだ。
そしてこの礼拝堂だが、さっき外から見た外観からは予想もつかないぐらい、綺麗に手入れがされている。
床は毎日箒掛けでもしているのか、埃が積もっているという事もなく、沢山並んでいる長椅子も、きちんと拭き上げられている様だ。
窓ガラスも曇り一つ無く、正面の一番奥。教壇の様な机も、汚れ一つ無い。
外観と中身がここまで釣り合っていないのも珍しい。
外から見た感じだと、もっと荒れているのかと思っていた。だからこそ、この光景を見た時、感嘆の声が漏れてしまったのだが。
「綺麗だな」
俺は素直な感想を漏らした。
「うん、毎日みんなでお掃除してるから」
俺が礼拝堂を褒めると、フォレは小さな声で呟いた。
元々引っ込み思案な性格なのか、俯いてとても恥ずかしそうにしている。だが、礼拝堂を褒められたのは嬉しかったのか、その口元が嬉しそうに緩んでいるのを俺は見逃さなかった。
そのまま俺達はフォレの案内に従って進み、礼拝堂の奥の扉から更に中へと入って行った。
「「「「っ?」」」」
するとそこには、フォレとそんなに変わらないぐらいの年頃の子供達が、各々何かの作業をしている姿があった。
恐らくここに住んでいる子供達だろう。
子供達は俺達が部屋に入ってくると、皆作業をする手を止め、キョトンとした顔で俺達に視線を向けてきた。
ここにいる筈のないイレギュラーな存在の登場に、驚いているのかもしれない。
「えーっと……」
その光景を見て、俺は何と説明すればいいものかと悩む。
やあ、皆。良い子の皆にプレゼントを持ってきたよ! とか? いや、これはダメだ。色んな意味で危ない。それにもしそんな奴がいた場合、即座に通報されても文句は言えない。どう考えても不審者だ。
なら、通りすがりの足長おじさんです、とかは? ダメだ。そんな都合のいいおじさんなんている訳ないし、そもそもこの世界に足長おじさんという概念があるのかも分からない。
何より、俺は断じておじさんなんかじゃない!
そんな調子で俺が悩んでいると。
「どちら様ですか?」
部屋の奥の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そう。これはさっき、渡り鳥亭でニーナさんにお礼を言っていた少女、アンの声だ。
「フォレ、こっちに来て」
「え? でも……」
「いいから」
アンの有無を言わせない強い物言いにフォレは、アンと俺を交互に見てオロオロとしながらも、最終的にアンの方へと行ってしまった。
アンは警戒する様な視線を俺達に向けたまま、フォレを自分の後ろに隠す様にすると。
「それで、何か御用ですか?」
子供達を庇う様な位置に立ち、敬語で話しながらも、警戒心を隠さずに尋ねてくる。
その様子は、子供達を守ろうとしている姉の様に見えた。
見た所、アンはここにいる子達よりも年上の様だし、年長者として自分が皆を守らないと、とでも考えているのだろう。
だが、よく見るとその体は小刻みに揺れている。皆を守る為に、恐怖心を必死に誤魔化そうとしているのが丸分かりだ。なんか俺達が悪者みたいになってるな。
でも、俺達は別に怪しい者じゃない。何とかしてアンの誤解を解きたいけど。
「あの、アンちゃん、話を聞いて欲しいんだけど」
俺がどうやって誤解を解こうかと考えていると、それよりも先にマリーがアンに話しかけながら、一歩アンに近づく。
「何で私の名前を?」
マリーが一歩近づいた事により、今度は子供達の前で片腕を上げ、守る様な姿勢になった。
まだ名乗ってもいない自分の名前を、見ず知らずの相手に知られているという事実に、警戒心は更に深まってしまった様だ。
これには流石のマリーも「しまった」という表情になる。
「私達は別に怪しい者じゃなくて」
姿勢を低くして、アンの目線に自分の目線を合わせるマリー。出来るだけアンから警戒されない様にしているのだろう。
「実は私達、渡り鳥亭に泊まってて」
「え?」
マリーの口から出た「渡り鳥亭」という単語に反応を示すアン。自分が知っている、しかもお世話になっているであろう場所の名前が出てきたのだから、この反応は至極当然だ。
「それで、さっきあなたがニーナさんにお礼を言ってるのを見て、何か力になれないかと思ってね。ニーナさんに事情を説明して、ここまで来たの」
マリーは少し考えた後、ここに来る事になった経緯を大雑把に説明した。正確には俺が行きたいからって言って、二人がそれに着いて来てくれたんだけど、今ここでそれを言う意味はない。
なので、マリーの話を黙って聞く事にした。
「……証拠はあるんですか?」
「え、証拠?」
一瞬だけ考えるような間が空いた後、アンの口からはそんな言葉が出て来る。
マリーの説明を聞いて、さっきよりも多少警戒心が薄らいだのか、子供達を守る様に上げていた腕を下ろしたアンだが、それでもまだ完全に警戒を解いてはくれないらしい。
「証拠は……ないけど。でも、本当の事なの」
残念ながらここで証拠を見せろと言われても、どうしようもない。いっそニーナさんがここにいてくれれば話が早かったんだが、今更それを言っても後の祭りだ。
「マリー、カイト君。残念だが、ここは一度出直そう」
フーリの言葉に周りを見回すと、部屋の中にいる子供達が不安そうな顔で俺達の事を見ている事に気が付いた。
多分、年長者であるアンの態度に感化されたのだろう。これ以上ここにいても、子供達も不安にさせてしまうだけだ。
仕方がない。
「そう、だね」
「確かに、それが良さそうだ」
ここまで警戒されている以上、いつまでもここにいても話は進まない。残念だけど、ここはフーリの言う通り、一度出直した方が賢明だ。
「ごめんな、怖がらせるつもりはなかったんだ。今日の所は出直すよ」
「……別に怖がってなんか」
アンはぶっきらぼうに答えたが、体の震えを見ていればそれぐらいは分かる。自分よりも大きな、しかも見ず知らずの大人を三人も相手にしたのだ。
子供のアンが怖がっても仕方がない。
次に来る時は、事前にニーナさんに話を通しておいて貰おう。
そう考え、俺は足元に水桶を置き。
「フォレ、これはここで良いか?」
「あ、うん。大丈夫」
フォレは突然声をかけられた事に驚いていた様だが、何とか一言だけ答えてくれた。
うん、やっぱり長居はしない方が良さそうだ。
だが、帰る前にせめてこれだけは置いて行かないと。
「最後に、コレ。良かったら皆で食べてくれないか?」
俺はストレージからオーク肉の塊を取り出し、近くのテーブルの上に置いた。
すると部屋の中にいた子供達は、驚きながらもテーブルの周りに集まり、オーク肉を眺めている。
アンはあまりに突然の出来事に、口をポカンと開けて言葉を失っている。
うん、これで最低限の目的は果たせたな。出来れば皆とも仲良くなれれば良かったんだけど、それはまたの機会だ。
「それじゃあ、俺達はこれで」
オーク肉も無事渡せた事だし、今度こそ帰ろう。
肉に気を取られている孤児たちを一度眺めた後、俺達が部屋から出ようとした時だった。
「あの……ありがとう、おじちゃん」
後ろから俺に向かってお礼を言うフォレの声が聞こえてきた。
その言葉に振り返ると、フォレがアンの後ろに隠れながら、小さく手を振っていた。
「また、ね」
「……うん。またな、フォレ」
そんな俺達のやり取りを、呆気に取られながら眺めるアンを尻目に、俺達は今度こそ孤児院を後にするのだった。
ここは俗にいう礼拝堂という場所だろう。入口から入って一番奥に備え付けられている教壇の様な机まで、真っ直ぐに伸びる長絨毯と、その両サイドに並ぶ複数の長椅子が、いかにも教会といった感じだ。
そしてこの礼拝堂だが、さっき外から見た外観からは予想もつかないぐらい、綺麗に手入れがされている。
床は毎日箒掛けでもしているのか、埃が積もっているという事もなく、沢山並んでいる長椅子も、きちんと拭き上げられている様だ。
窓ガラスも曇り一つ無く、正面の一番奥。教壇の様な机も、汚れ一つ無い。
外観と中身がここまで釣り合っていないのも珍しい。
外から見た感じだと、もっと荒れているのかと思っていた。だからこそ、この光景を見た時、感嘆の声が漏れてしまったのだが。
「綺麗だな」
俺は素直な感想を漏らした。
「うん、毎日みんなでお掃除してるから」
俺が礼拝堂を褒めると、フォレは小さな声で呟いた。
元々引っ込み思案な性格なのか、俯いてとても恥ずかしそうにしている。だが、礼拝堂を褒められたのは嬉しかったのか、その口元が嬉しそうに緩んでいるのを俺は見逃さなかった。
そのまま俺達はフォレの案内に従って進み、礼拝堂の奥の扉から更に中へと入って行った。
「「「「っ?」」」」
するとそこには、フォレとそんなに変わらないぐらいの年頃の子供達が、各々何かの作業をしている姿があった。
恐らくここに住んでいる子供達だろう。
子供達は俺達が部屋に入ってくると、皆作業をする手を止め、キョトンとした顔で俺達に視線を向けてきた。
ここにいる筈のないイレギュラーな存在の登場に、驚いているのかもしれない。
「えーっと……」
その光景を見て、俺は何と説明すればいいものかと悩む。
やあ、皆。良い子の皆にプレゼントを持ってきたよ! とか? いや、これはダメだ。色んな意味で危ない。それにもしそんな奴がいた場合、即座に通報されても文句は言えない。どう考えても不審者だ。
なら、通りすがりの足長おじさんです、とかは? ダメだ。そんな都合のいいおじさんなんている訳ないし、そもそもこの世界に足長おじさんという概念があるのかも分からない。
何より、俺は断じておじさんなんかじゃない!
そんな調子で俺が悩んでいると。
「どちら様ですか?」
部屋の奥の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そう。これはさっき、渡り鳥亭でニーナさんにお礼を言っていた少女、アンの声だ。
「フォレ、こっちに来て」
「え? でも……」
「いいから」
アンの有無を言わせない強い物言いにフォレは、アンと俺を交互に見てオロオロとしながらも、最終的にアンの方へと行ってしまった。
アンは警戒する様な視線を俺達に向けたまま、フォレを自分の後ろに隠す様にすると。
「それで、何か御用ですか?」
子供達を庇う様な位置に立ち、敬語で話しながらも、警戒心を隠さずに尋ねてくる。
その様子は、子供達を守ろうとしている姉の様に見えた。
見た所、アンはここにいる子達よりも年上の様だし、年長者として自分が皆を守らないと、とでも考えているのだろう。
だが、よく見るとその体は小刻みに揺れている。皆を守る為に、恐怖心を必死に誤魔化そうとしているのが丸分かりだ。なんか俺達が悪者みたいになってるな。
でも、俺達は別に怪しい者じゃない。何とかしてアンの誤解を解きたいけど。
「あの、アンちゃん、話を聞いて欲しいんだけど」
俺がどうやって誤解を解こうかと考えていると、それよりも先にマリーがアンに話しかけながら、一歩アンに近づく。
「何で私の名前を?」
マリーが一歩近づいた事により、今度は子供達の前で片腕を上げ、守る様な姿勢になった。
まだ名乗ってもいない自分の名前を、見ず知らずの相手に知られているという事実に、警戒心は更に深まってしまった様だ。
これには流石のマリーも「しまった」という表情になる。
「私達は別に怪しい者じゃなくて」
姿勢を低くして、アンの目線に自分の目線を合わせるマリー。出来るだけアンから警戒されない様にしているのだろう。
「実は私達、渡り鳥亭に泊まってて」
「え?」
マリーの口から出た「渡り鳥亭」という単語に反応を示すアン。自分が知っている、しかもお世話になっているであろう場所の名前が出てきたのだから、この反応は至極当然だ。
「それで、さっきあなたがニーナさんにお礼を言ってるのを見て、何か力になれないかと思ってね。ニーナさんに事情を説明して、ここまで来たの」
マリーは少し考えた後、ここに来る事になった経緯を大雑把に説明した。正確には俺が行きたいからって言って、二人がそれに着いて来てくれたんだけど、今ここでそれを言う意味はない。
なので、マリーの話を黙って聞く事にした。
「……証拠はあるんですか?」
「え、証拠?」
一瞬だけ考えるような間が空いた後、アンの口からはそんな言葉が出て来る。
マリーの説明を聞いて、さっきよりも多少警戒心が薄らいだのか、子供達を守る様に上げていた腕を下ろしたアンだが、それでもまだ完全に警戒を解いてはくれないらしい。
「証拠は……ないけど。でも、本当の事なの」
残念ながらここで証拠を見せろと言われても、どうしようもない。いっそニーナさんがここにいてくれれば話が早かったんだが、今更それを言っても後の祭りだ。
「マリー、カイト君。残念だが、ここは一度出直そう」
フーリの言葉に周りを見回すと、部屋の中にいる子供達が不安そうな顔で俺達の事を見ている事に気が付いた。
多分、年長者であるアンの態度に感化されたのだろう。これ以上ここにいても、子供達も不安にさせてしまうだけだ。
仕方がない。
「そう、だね」
「確かに、それが良さそうだ」
ここまで警戒されている以上、いつまでもここにいても話は進まない。残念だけど、ここはフーリの言う通り、一度出直した方が賢明だ。
「ごめんな、怖がらせるつもりはなかったんだ。今日の所は出直すよ」
「……別に怖がってなんか」
アンはぶっきらぼうに答えたが、体の震えを見ていればそれぐらいは分かる。自分よりも大きな、しかも見ず知らずの大人を三人も相手にしたのだ。
子供のアンが怖がっても仕方がない。
次に来る時は、事前にニーナさんに話を通しておいて貰おう。
そう考え、俺は足元に水桶を置き。
「フォレ、これはここで良いか?」
「あ、うん。大丈夫」
フォレは突然声をかけられた事に驚いていた様だが、何とか一言だけ答えてくれた。
うん、やっぱり長居はしない方が良さそうだ。
だが、帰る前にせめてこれだけは置いて行かないと。
「最後に、コレ。良かったら皆で食べてくれないか?」
俺はストレージからオーク肉の塊を取り出し、近くのテーブルの上に置いた。
すると部屋の中にいた子供達は、驚きながらもテーブルの周りに集まり、オーク肉を眺めている。
アンはあまりに突然の出来事に、口をポカンと開けて言葉を失っている。
うん、これで最低限の目的は果たせたな。出来れば皆とも仲良くなれれば良かったんだけど、それはまたの機会だ。
「それじゃあ、俺達はこれで」
オーク肉も無事渡せた事だし、今度こそ帰ろう。
肉に気を取られている孤児たちを一度眺めた後、俺達が部屋から出ようとした時だった。
「あの……ありがとう、おじちゃん」
後ろから俺に向かってお礼を言うフォレの声が聞こえてきた。
その言葉に振り返ると、フォレがアンの後ろに隠れながら、小さく手を振っていた。
「また、ね」
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