見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

六話

 ガータタタタタタタタッ

 昨日同様、猛スピードで走る馬車。
 景色は流れ、馬車は揺れる。

 だが、我慢出来ない程ではない。ていうか昨日も思ったけど、思っていたよりも全然揺れを感じない。

 もっと乗り物酔いとかする勢いかと思ってたけど、これならそうそう酔うという事はないだろう。

「この馬車、思ったより揺れないよな。てっきりもっと乗り心地悪いのかと思ってた」

 最悪一人だけ下りて、人間ロケットで追いかけるしかないかと思ってたからな。俺にとっては嬉しい誤算だけど。

「そう言って頂けると幸いです。高い金額払った甲斐があったというものです」

 俺の言葉に答えたのは、なんと御者台に座るアルクだった。
 聞こえたのか? 今の声?

「アルクさんだけ話が出来ないのもかわいそうだと思って、私が風魔法で空気の流れを操ってみたんですけど、上手くいったみたいですね」

 そう事も無げに答えるマリーだが、そんな簡単な話じゃないと思うんだけど?

「へえ、これってマリーさんのスキルなんですか?」

 だが、実際にこうやって会話が成立しているって事は、マリーが言う「ちょっと試してみた」が成功したって事なんだよな。
 改めて、マリーの魔力制御の実力を思い知らされたな。

 こうなったら、俺も負けてられない。
 とりあえず、水魔法の練習をしてみるか。

 思い立ったが吉日。俺は頭の中に小さな水玉をイメージする。
 大きさは野球ボールぐらいの大きさで、それを自分の目の前に出現させるイメージで。
 ゆっくり、確実に。

 ぽちゃん

 小さな、本当に小さな、水が弾ける様な音が聞こえ、俺の目の前に野球ボール大の大きさの水の玉が浮かび上がった。

「よし、ここまでは一先ず成功だな」
「あ、魔法の練習ですか、カイトさん?」

 俺が水魔法の練習をしていると、それを見ていたマリーから声をかけられた。

「ほう、いきなりこんなに小さな球体を作れるのか。やはり、君は練習次第ですぐにマリーに追いつけるかもしれないな」

 フーリは俺が作り出した野球ボール大の水の玉を見ながら、感心した様に褒めてくれたけど、小さいと凄いのか?

 ……あ、そうか。デカい分には魔力さえあれば割と簡単に作れるのか。いやでも、そんな大きさの水玉、魔力制御が難しいんじゃないか?
 まあ逆もまた然りって事なんだろうけど。

「折角だから、水魔法も使える様になりたいと思ってな。って事で、こういうのはどうだろう?」

 たった今作ったばかりの水球を馬車の外に放り投げ、新たに水球を作り出す。が、今度はさっきとは少しだけイメージを変えてみる。
 そうして新しく出来上がった水球を床に落としてみると。

「「……え?」」
「おー、これまた上手くいったなぁ」

 落とした水球は、床にぶつかっても周囲に飛び散る事なく、そのまま「ポヨヨン」という擬音でも付きそうな動作で何度かバウンドを繰り返した。まるでゴムボールの様に。

 そう。この水球を作る時に俺がイメージした物。それはゴムボールと水風船だ。

 最初は水風船だけをイメージしようと思ったのだが、それだとどうしても、この跳ね具合が想像出来なかった。
 なので、ゴムボールの様に跳ねる水風船をイメージしながら水球を作ってみたのだ。

 結果は見ての通り、成功だ。
 それを手に取って馬車の壁に向かって投げると、それは壁にぶつかって跳ね返ってくる。それをキャッチして、またぶつける。

 うん、あくまで水球だから、馬車の壁が布でも穴が開くという事もないな。
 それにしても、こうやってると子供の頃の遊びを思い出すな。
 昔はよくスーパーボールなんかでこんな遊びしてたっけ。

「姉さん、カイトさんがまた変な事してる」
「まったく、カイト君は毎度予想の斜め上の事をしてくれる」

 それを見ていた二人から、不本意な事を言われてしまうが、そんな事はないと思う。誰だってこういう遊びの一つや二つ、した事ある筈だ。

「いや、これはそんなに変な事じゃなくない?」
「変ですね」
「変だな」

 だが、二人には即否定されてしまった。
 普通だと思うんだけどなぁ。まあ二人は女の子だし、そもそもボール遊びなんかした事なくてもおかしくないか。

 俺はたった今作り出したプニプニウォーターボール、略してプニボールで遊びながら、ぼんやりとそんな事を考えた。

 その後、途中昼休憩や何度かの休憩を挟み、晩飯を済ませるまでの間、俺はちょくちょく水魔法の練習を繰り返した。



 次の日。

 朝飯を済ませてから出発し、現在は昼飯時。
 三日目ともなると、アルクともある程度会話する機会もあって、それなりに打ち解けられた、と思う。

 まあ、元々アルクが話しやすいタイプだというのもあるのだろうが。

「へえ、それじゃあアルクは貴族様なのか」
「貴族といっても、家督を告げる可能性なんて万に一つもない、側室の四男ですけどね。名目上貴族ではありますけど、実際は平民と大差ありませんよ。まあ、おかげでこうやって好き勝手していられるんですけど」

 そして現在、話はアルクの実家の話になっている。

 アルクの家は、王都の男爵家らしい。といっても、アルクは正妻の子ではなく、側室の、しかも四男だという。
 当然家督争いなんかとは無縁で、その扱いはほとんど平民と大差ないという。

 ていうか、男爵家なのに側室の、しかも四男って……いや、深くは気にするまい。
 一応貴族として最低限の教育は受けたらしいが、あくまで受けただけ。将来的には家を出ないといけないらしい。

「そうか、アルクも苦労しているんだな」
「どこの家でも、そういう問題は付き物って事ですね」

 フーリとマリーがうんうんと頷き、アルクの立場に共感している。
 そういえば、確か二人も貴族家の人間だって話を聞いた事ある気がするな。
 確か酒場で飲んでる時に、さらっと聞いた様な?

 まあだからと言ってなんだって話ではあるんだけど。

「もしかして、お二人も?」
「ああ、アルクと似た様な境遇さ」
「私達は二人で冒険者になる道を選びましたけど」

 アルクと二人の話が盛り上がり始める。
 俺には貴族だのなんだのの話はよく分からない。精々漫画や小説で得た知識が関の山で。本職……本職?

 本物の貴族同士の会話にはなかなか混ざれない。

 三人はお互い似た様な境遇同士、話も合うのだろう。
 邪魔するのも悪いしな。
 ――よし。

「今の内にストレージの整理でもしておくか」

 この二日間と少し。道中でちょこちょこ狩った魔物の素材なんかの整理を全くしていない事を思い出し、丁度いいからこの機会に整理でもしようとストレージ画面を開いた。

「えーっと、狩ったのは大体がホーンラビット。で、ゴブリンなんかが少しと、オーガが一匹か。とりあえず名前毎に素材をソートして、と」

 並び方を五十音順にすると、さっきまでバラバラに収納されていた素材が綺麗に並び替えられる。
 で、魔石は別枠に。魔核は……無いな。

 まあどの魔物もそこまで強かった訳じゃないし、当然といえば当然なんだけど。

「よし」

 とりあえず、これで良いとして。

「カイトさん、そろそろ昼食にしませんか?」
「え? ああ、もうそんな時間か」

 いつの間に話が終わったのか、アルクは既に御者の仕事を始めていた。

「アルク、そろそろ昼食にしよう」
「あ、はい、分かりました。それじゃあ適当に馬車止めますね」

 アルクはフーリにそう答えると、馬車を減速させ始めた。
 さて、それじゃあ俺もそろそろ昼飯の準備をしないとな。

「カイトさん、その……出来れば今日も、アレを」

 アレ? あー、アレか。

「確かまだ残ってた筈だから、昼飯に出すよ」
「ありがとうございます!」

 まあマリーが言うアレは間違いなく、あのなんちゃって豚汁の事だろう。
 こんなに気に入って貰えたなら、後で干し椎茸作り足しとくかな。

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