見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二話

「そういえば保存食で思い出したんだけど」

 昼飯を食べ終わり、後片付けをしながら、俺はとある事を思い出していた。

 ちなみにアルクは「馬に餌を与えてきます」と言って、この場から離れている。別にここでやってもいいんじゃないかと思ったが、本人がそれでいいなら気にする事でもないだろう。

「保存食がどうかしたんですか?」

 俺の言葉にマリーが反応を示した。

「干し椎茸って作らないのか?」

 ビカーンッ!

 ん? 気の所為か? 何かマリーの方から雷に打たれたかのような音が聞こえてきた気がするんだけど。
 マリーの方に視線を向けると、俺と視線が合うなりおもむろに俺の目の前まで歩いて来て。

「カイトさん。今、何て言いましたか?」

 真剣な眼差しで、俺を問い詰めるかの様に見上げてきた。いや、怖いよ?

「あ、ああ、言ったけど。ほら、出汁とか取るのに使うアレだよ」

 鍋なんかの出汁を取ると良い出汁が出るんだこれが。そう言えばこの世界に「出汁」って概念はあるのか?
 スープはあるけど、出汁を取ってる所は見た事ないな。

「……せん」
「え? ごめん、何だって?」

 マリーが小声で何かボソッと呟いたが、声が小さすぎてよく聞こえなかった。改めてマリーに聞き返してみると。

「知りません! 何ですか、その干し椎茸って  もしかして、オイ椎茸を保存食にする方法があるんですか 」

 ガシッと胸倉を掴まれ、グワンッ、グワンッとマリーに揺さぶられる。
 ま、待って! 出ちゃう! たった今食べた飯が出ちゃうから! ……うっ。

「おいマリー。その辺にしないと、この前の二の舞になるぞ」
「え? ……って、す、すみません! 大丈夫ですか、カイトさん 」

 ありがとうフーリ。おかげでマリーの拘束から逃れる事が出来た。マリーって意外力と強いよね。

「あ、ああ、大丈夫だ。問題な……うっぷ」

 問題ない、と答えようとしたが、思った以上にマリーの揺さぶりが激しかったのか、思わずマーライオンしそうになるのをなんとかこらえた。
 ……ふぅ。よし、落ち着いた。

「もう大丈夫だ。それより、干し椎茸についてだけど」
「はい、それです! 一体何なんですか? その「干し椎茸」って?」

 俺が再び干し椎茸について話題を振ると、今度は反省したのか、マリーは身を乗り出すだけに留まりながら、しかし好奇心を抑えきれない様子で尋ねてきた。

「干し椎茸っていうのは、簡単に言うと椎茸……オイ椎茸を乾燥させた食べ物の事だ」
「オイ椎茸を乾燥、ですか? 乾燥させると、オイ椎茸を保存食に出来るんですか?」

 マリーはイマイチピンときていないのか、首を傾げながらも、オイ椎茸の事なので必死に理解しようとしている様だ。

「んー、まあそれもなんだけど。実はオイ椎茸は、乾燥させる事によって、旨味が増すんだ」
「え? 乾燥させるだけで、オイ椎茸の旨味が? それ、本当ですか 」

 旨味が増すと聞き、瞳の輝きが更に増すマリー。なんていうか、分かりやすいな。

「ああ、そうだ。それに、乾燥させる事によって栄養も増えるし、戻す時に出る出汁で、旨い料理を作る事が出来るぞ」

 俺がマリーに干し椎茸について教えると、最後まで話を聞いたマリーの瞳は、徐々にキラキラと、まるで夜空に浮かぶ星の様に輝き出し始め、期待に満ちた眼差しに変わっていった。

 あ、これは。

「カイトさん! 早速作りましょう! その干し椎茸っていうのを!」

 やっぱり。言うと思ったんだ。そりゃそうだよな。大好物の食材の、全く未知の食べ方。俺が逆の立場でも食べてみたいって思うだろう。
 でも、それは無理な相談なんだよ。

「作ってあげたいのは山々なんだけど。これ、作るのに数日はかかるんだよ」

 なんせ水分を完全に飛ばさないと、カビの原因にもなるのだから、これを手抜きする訳にもいかない。
 だからこそ、数日はかかる訳なんだけど

「……え?」

 数日という言葉に、マリーの表情が変わる。
 さっきまでのワクワクドキドキとした表情から一転。まるで捨てられた子犬の様な、もの悲し気な表情へと変化した。

 いや、そんな顔されても。

「出来ないんですか? 干し椎茸――私の希望の光は?」
「希望の光 」

 そこまでかよ! 思わずツッコんでしまったじゃないか。
 せがまれるだろうなぁ、とは思っていたけど、まさか希望の光とまで言うとは。流石に予想外だったぞ。

 しかもこの表情、態度。まるで悪い事でもしているかの様な気持ちになってくる。

「カイト君。その干し椎茸というのは、どうして作るのに数日かかるのか?」

 そんなマリーの様子を見かねたのか、半放心状態の妹に代わり、フーリが尋ねてきた。

「あー、実は干し椎茸を作るには、オイ椎茸の水分を完全に飛ばす必要があるんだけど、これが数日は干さないとダメなんだよ」

 こればっかりはどうにもならないんだよな。

「そうか。だそうだ、マリー。潔く諦めろ」
「……でも、だって」

 フーリが諭す様にマリーに声をかけるが、それに対して若干涙声で返すマリー……って、涙声  え、もしかして泣いてんの?
 よく見ると肩が少し震えている。えぇ、オイ椎茸で泣くの?

「まさかお前、泣いてるのか?」
「……干し椎茸ぇ」

 ……何だろう。すっごい気まずい。興味本位で聞いただけなのに、まさかこんな事になるなんて。これじゃ完全に俺が悪者じゃないか。
 どうにかしてあげたいけど、そんな都合のいい方法なんて……あ。

「もしかしたら」
「――っ  どうにか出来るんですか 」

 ぼそっと呟いただけなのに、それを耳聡く聞いていたマリーが俺に詰め寄ってきた。
 いや、ガチ過ぎだろ! 何がマリーにここまでさせるんだ?
 ……って、聞くまでもなくオイ椎茸か。

「いや、もしかしたら何とか出来るかもってだけで、やってみない事にはなんとも」
「是非お願いします! その「干し椎茸」には私の希望がかかってるんです!」

 両手で俺の右手を強く握り、懇願してくるマリー。
 普段ならドキッとしてる所だけど、今のマリーの鬼気迫る様子を見てるとドキッとはしない……少しだけしか。

「わ、分かった。とりあえずやってみるから、落ち着いて」

 一度マリーの手を離し、落ち着かせようと試みた。

「あ、はい、そうですね。すみません、私ったら、つい」

 俺の言葉にとりあえず落ち着きを取り戻したマリーは、そのまま俺から少し離れてくれた。だが、その目は期待に満ちている。
 今から俺のやる事が失敗するなどとは、微塵も思っていない様子だ。

 これは、失敗したらとんでもなく気まずいぞ。頼むから成功してくれよ。
 そんな思いと共に、俺はストレージを開いてみた。

 ストレージ内に収納されているオイ椎茸。それを選択し、コマンドを見てみると、そこには「分解」の文字。

「よし、第一段階はクリア」

 とりあえずこのコマンドが反応しない事には、先へは進めないからな。

「それじゃあ早速、分解で確認してみてっと」

 ストレージには「オイ椎茸」を「水」と「干し椎茸」に分解できる旨が表示されている。

 だろうな。今まで一度も干し椎茸なんて単語は出て来なかったのに、今日になって急に現れた。それはつまり、俺が干し椎茸を作りたいと思ったからで間違いない。

 やっぱり予想通り、ストレージは俺に欲しいと思った物を、用意出来る様にしてくれるみたいだ。

「喜べマリー。どうやら成功しそうだ」
「本当ですか  ありがとうございます!」

 俺が成功しそうだと告げただけで、パッと笑顔になるマリー。相当嬉しいみたいだな。

「それじゃあ早速分解を」

 オイ椎茸を選択し、分解を選択。すると「オイ椎茸」の数が一つだけ減り、代わりに「干し椎茸」が増えた。
 一瞬「水分はどこに行った?」と思ったが、よく考えたらストレージ内には既に水が収納されているから、多分そっちに混ざったのだろう。
 とりあえず、出来上がった干し椎茸を取り出してみたが、特に変な所はなさそうだ。

「そ、それが干し椎茸ですか 」

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