見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十三話

「今まで俺が手に入れてきた特殊個体の魔石や魔核をストレージに収納すると、必ず(特殊個体)って表記がされてたんだけど、ワ―タイガーにはそれがないんだ。魔石も魔核も、どっちも表記がされてない。それが少し引っかかってな」

 俺が感じた違和感を、二人にも説明してみた。偶然という可能性もあるにはあるのだが、それはほぼ無いと考えていいだろう。

「何? カイト君、それは間違いないんだな?」
「ああ、間違いない。シンについては何とも言えないけど、他の特殊個体は間違いなく(特殊個体)って表記されてた。ていうかされてる」

 こんな違和感、一笑に付されるだけかもしれない。気にしすぎだ、と。でも、これはスルーしてはいけないと、俺の本能が告げている。

「ワ―タイガーという名前は気になりますけど、今は置いておくとして、つまりカイトさんはこう言いたいんですか? 今のマッスルキャットの特殊個体は、実は特殊個体なんかじゃなくて、もっと別の何か……そう、例えば通常個体なんじゃないかと」
「え? あ、ああ、確かにそうなるか」

 そういえばそうだ。こっれが特殊個体じゃないのだとすれば、それは必然的に、さっきのワ―タイガーは通常個体だと言っている様な物だ。
 だが、ストレージに特殊個体と表記されてない以上、そういう事になる。

「アレが、通常個体? でも、ワ―タイガーなんて名前のモンスター、聞いた事ありませんよ? 何かの間違いじゃないんですか?」
「いや、多分それはないと思うけど」

 そもそも、特殊個体と表記されてるかどうかに、間違いも糞も無い。どっちかというと、これは間違いというよりも……。

「進化してるとか?」
「「進化?」」

 俺はその可能性について口にした。

「進化。つまり、九層に生息しているマッスルキャットという魔物そのものが、種として一つ上の段階に進化し始めてるんじゃないかって話だ。さっきも言ったけど、この魔石も「ワ―タイガーの魔石」じゃなくて「マッスルキャット(特殊個体)の魔石」って表記されてないとおかしいんだよ」

 そう表示されないという事は、俺のストレージが、このワ―タイガーという魔物を一つの種族として認識しているという事になる。

「魔物として、一つ上の段階に進化している、か。だが、果たしてそんな事があり得るのだろうか?」
「少なくとも私は聞いた事ありません」

 二人は未だに納得がいっていないらしく、首を傾げている。

「まあ、あくまで可能性の一つだ。二人が言った様に、もしかしたら俺の気にしすぎって可能性もあるし、あんまり深く気にしないでくれ」

 俺は二人に誤解されない様に説明しておいた。
 あんな事を言っておいてなんだが、俺自身未だにストレージを完全に使いこなせているとは言い難い。

 俺の勘違いという可能性も充分あり得るだろう。

「だが、放っておく訳にいかない情報なのも確かだ。一応その話もギルドにしてみよう。何か関係のある話が聞けるかもしれない」
「そうだね。とりあえず、ここで話してても埒が明かないし、一度ギルドに帰ろう? カイトさんもいいですよね?」
「そうだな。とりあえず、今は急いでギルドに戻らないとな」

 ここにいても探索する以外、特に出来る事はないし。
 とりあえずこの件はギルドに話をするという事で決まり、俺達は一度探索を中断してギルドに戻る事にした。



「その話は本当か?」

 ギルドに戻って早々、エレナさんに九層の異変について説明すると、俺達はそのままギルド長室へと通され、そこでギルド長に直接九層の異変を説明した。

「はい、間違いありません。特殊個体の数についてもそうですが、もう一つの可能性も、放っておくには明らかに危険かと」

 まあ実際に説明しているのは、ほとんどフーリなのだが。
 フーリは今まで何度も、ギルド長に直接報告をした事があるみたいで、こういう状況には慣れているらしい。

 ちなみにマリーはあまりこういう経験は無いらしい。あったとしても、フーリがほとんど一人で報告を済ませてしまうから、実質未経験なのだと。
 確かに、こういう時のフーリって頼りになるんだよな。つい全部任せてしまうぐらい。

「そうか。分かった、この件はギルドが責任を持って調査しよう。報告ご苦労だった。また何かあったら報告を頼む」

 ギルド長に一通り話し終えると、ギルドが直接調査をする事が決まり、俺達はそのままギルド長室を後にした
 ギルド長室から受付に戻った俺達は、既に精算が終わっていた報酬をエレナさんから受け取る事になった。
 あんな事があって、のんきに報酬なんて貰ってる場合じゃないのかも……。

「特殊個体の爪三十本で、金貨三十枚。マッスルキャットの爪五十本で、金貨一枚です」
「ワ―タイガーの爪高っ!」
「ワ―タイガー?」
「あ、いえ、こっちの話です」

 ワ―タイガーという名前は、まだ誰も知らないんだったな。

 それにしても、あまりの金額に直前までのシリアスな空気はどこかへと吹っ飛んで行ってしまった。

 いや、マッスルキャットの爪が五十本で金貨一枚なのに、ワ―タイガーの爪は一本で金貨一枚もするのかよ!

 ん? って事は、マッスルキャットは一匹で銀貨二枚って事か。いや、正確には他の素材もあるから、もう少し稼げる筈だけど。

 それに対してワ―タイガーは一匹で金貨十枚。これは果たして高いと見るべきか、それとも安いと見るべきか。
 命がけで金貨十枚……うん、安いな。

 安定して狩れるなら高いと思うけど。命を賭けるには安すぎる。

「特殊個体の爪は、ちょっと加工するだけで強力な武器が作れますからね。このぐらいはしますよ」

 あー、確かにあの爪は武器にピッタリだろうな。強度と鋭さも申し分ないし、槍なんかいいかもしれない。
 マリーの言う通り、武器の素材に欲しがる人は多そうだ。

「それから、他の素材の買取も合わせて、合計金貨四十二枚が今回の報酬となります」

 エレナさんが金貨の入った袋を差し出してきたので、俺はそれを受け取ろうとしたが、直前で躱された。

「カイトさん、知ってますか? マッスルキャットの特殊個体って、凄く危険な魔物なんですよ?」
「え? ええ、そうですね。よく分かります」

 実際に戦ったのだから、よく分かっている。
 だが、いきなり満面の笑みで言われてしまい、俺は咄嗟にそう返す事しか出来なかった。
 あれ? 俺の気の所為か? なんかエレナさん怒ってない?

「カイトさんはまだCランクになりたてで、登録して一ヶ月しか経ってない新人ですよね?」
「はい、仰る通りです」

 あ、何を言われるか分かった。これ多分、怒られるわ。

「確かにカイトさんは新人とは思えないぐらい強いのかもしれません。いいえ、強いです。それは間違いありません。ですが! あまり無理をしていては、いつか本当に命を落としますよ! 果ての洞窟の攻略ペースも異常ですし!」
「え? なあフーリ。俺達の攻略ペースって異常なのか?」

 俺は隣のフーリに尋ねてみた。だって、これまでのペースが異常かどうかなんて俺には分からないし。

 エレナさんから聞いた話で「多少早いのかな?」ぐらいには思ってたけど、異常だとは思ってなかった。

「そうだな。私達とパーティを組んでいると言っても、このペースは異常だぞ。下手すると一層攻略するのに一ヶ月かかった、なんて話も聞くぐらいなんだし」
「一ヶ月!?」

 それはいくら何でもかかり過ぎじゃないか!?

「極端な話をすると、だ。だが、それでも普通は一層攻略するのに、一週間ぐらいはかかると考えておいた方がいい」
「それでも一週間か……」

 知らなかった。七層までは一日一層ペースで攻略してたから、こういうものだと思っていた。
 八層からも、イレーヌさんからは「八層からは何日かかかるのが当たり前」としか言われてなかったから、異常だとは思ってなかったし。

「とにかく、あまり無理はしないで下さいね?」
「はあ、分かりました」

 エレナさんにここまで念を押されたら、素直に頷くしかないよな。俺の事を心配してくれてるんだし、それを無下には出来ない。

「皆、少し集まってくれ!」

 そんな事を考えていた時だった。突然ギルドの奥からギルド長が姿を現し、ギルド職員全員に招集をかけたのは。

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