見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十二話

 仮に、仮にだ。もしも特殊個体が魔核を確実に落とすとして……落とすとして?
 あれ? よく考えたら俺にはあんまり関係ないのか?

 だって、今の所俺に魔核の使い道はない。精々が売って金に換えるぐらいか。フーリとマリーなら使い道はあるのかもしれないけど、正直微妙だろう。
 魔導具なら魔石さえあれば俺が作れるし。

「なあ、一つ聞きたいんだけど」
「はい? 何ですか?」
「特殊個体って、確実に魔核を落とすものなのか?」

 もしこれで「はい、そうですよ」と返ってきたら、それはそれで構わない。仮説が仮説じゃなくなるだけだ。

「いえ、そんな話は聞いた事ありませんけど」
「マジか……」

 確実に落とす訳じゃないのか。て事は、今まで魔核を落とさなかった特殊個体もいるって事だよな?
 じゃあこれは単なる偶然? 確かに可能性もあるんだけど。

「どうした、カイト君? 何か気になる事でもあるのか?」

 俺が考え込んでいると、それが気になったのか、フーリが尋ねてきた。

「いや、実はマッスルキャットの特殊個体の魔核が出てきたんだけどさ」
「う、うむ。さらっととんでもない事を言うな、カイト君は」
「姉さん、もう諦めよう。カイトさんは常識をどこかに置き忘れてきたんだよきっと」

 おや? これはもしかしなくても馬鹿にされているのでは?
 ていうか、ドロップ品は俺とは関係なくね?

「それで? その魔核がどうかしたんですか?」

 まるで何事も無かったかの様に先を促すマリー。
 ……うん、まあ、ね? いつかマリーには問い質すとして、今は話を進めよう。

「いや、今まで倒した特殊個体は全部魔核を落としてるから、もしかして特殊個体は魔核を確実に落とすものなのかなって思って」

 俺が話を進めたら、二人が訝し気な視線をこちらに向けてきた。

「確かカイトさんって、この世界に来て一ヶ月ぐらいでしたよね?」
「ああ、そうだけど?」

 マリーの言う通り。俺がこの世界に来て大体一ヶ月ぐらい経つ。

「君はこの一ヶ月で、そんなに特殊個体を倒してきたのか?」
「え? うーん、そうだなぁ」

 俺がこれまでに倒してきた特殊個体か。

「まず、ゴブリンだろ? オーガだろ? オーガエンペラーに、アイアンゴーレム、そして今のマッスルキャットだから……」
「いやいや、ちょっと待って下さい!」
「合計五体。週一以上のペースで特殊個体と遭遇しているのか?」

 俺が声に出して数えていると、二人が声をあげて慌て始めた。
 週一以上、か。言われてみれば確かにそうだな。考えもしなかった。特殊個体とかいいながら、実は意外と数が多いとか?

「まるで特殊個体のバーゲンセールだな」
「ばーげんせーる?」
「いや、何でもない! 忘れてくれ!」

 ついあのセリフが口をついて出てきてしまい、それをマリーにばっちり聞かれてしまった。
 いや、別に聞かれて困る訳じゃないけど、なんか恥ずかしいじゃん?

「まあそれはいいとして、だ。さっきの口振りからして、それだけの数の特殊個体と遭遇し、全て倒したというのなら、毎回出てきたのだろう? 魔核が」
「正確にはオーガエンペラー以外だな。流石にあの爆発だったんだ。シンの魔核は行方不明だよ」
「ああ、そういえばそうだったな」

 でもまあ、フーリの言う通り、俺のストレージの中には現在四つの魔核が収納されている。
 オーガは俺が倒したというよりも、ナナシさんが倒したという方が正しいけど。

「だが、そうか。シンは一旦置いておくとして、四体は全て魔核を落としているのか。それは確かにそう考えても仕方がないだろうな」

 フーリは納得がいった様に頷いている、が。

「だが、魔核が出なかったという前例がある以上、残念だがカイト君の仮説は間違っている可能性がある」
「あ、やっぱりそう?」

 まあ今の話を聞く限りだと、確かにそうなんだろうなと思ってたけど。

「……けん」
「「ん?」」

 俺が納得しかけていると、隣のマリーがボソッと何かを呟き、俺とフーリが同時にそれに気が付いた。

「どうかしたのか、マリー?」
「いえ、あの、もしかしたらなんですけど」
「うん」

 マリーが一度言葉を区切ったので、俺はその先を静かに待つ。

「魔核を出すには、何か条件の様な物があるんじゃないかと思って」
「条件……そうか条件か!」

 なんでもっと早くその可能性に気が付かなかったんだろうか?
 可能性が二つ以上あのなら、何か条件があるという可能性もある筈なのに。

「なるほど、条件か。確かにその可能性はあるな。カイト君がその条件を満たしているから、毎回魔核が出て来るのか、過去に魔核が出なかった者が、何かの条件に当てはまっていたのか」

 あ、そうか。フーリの言う通り、逆の可能性もあるのか。
 そう考えると、俺の仮説もまだまだ否定出来ない。
 つまりは最初と同じく、仮説段階に戻る訳か。

「分かった。その話に関しては私もその内知人に聞いてみるとしよう。だが、魔核が出ないという前例があった事は覚えておいた方がいい」

 それは確かに、フーリの言う通りだ。街に戻ったら、少し調べてみるのもいいかもしれない。

「さて、長々と話し込んでしまったな。探索を再開しようか」
「そうだね。少なくとも、今話してどうこうなる物でもないし」
「ああ、そうだな」

 確かに二人の言う通り、この話をこれ以上続けても仕方がない。そう判断し、俺は二人と共に探索を再開した。



「……どうなってるんだ?」

 俺は今日三体目となるワ―タイガーの死骸を収納しながら呟いた。
 確か特殊個体って、そうそう出会う様な存在じゃないんじゃなかったっけ?

 だが、今日だけで既に三体目。これはちょっとおかしくないか? それとも、実はワ―タイガーだけは例外で数が多いとか?

「特殊個体が既に三体も出てきているなんて、どう考えても異常だぞ。アイアンゴーレムだって二体しか出てこなかったのに」

 と、思っていたが、フーリの口振りからして、これは異常な事なのだと分かった。

「姉さん、これは一度ギルドに戻って報告した方が良くない? これじゃあ九層が危険すぎるよ」

 マリーがフーリに、一度ギルドに戻ろうと言い始めた。
 もしこれが異常事態で命の危険があるというのなら、マリーの言う通り、一度街に戻るべきだ。

 少なくとも、個人で勝手に判断して対応するのは良くないだろう。

「確かにそうだな。これが果ての洞窟その物の異常なら、一刻も早くギルドに知らせた方がいいか。よし、今日の探索はこれで切り上げよう。二人共、いいか?」
「うん、大丈夫」
「俺もいいぞ」

 フーリに言われ、俺は特に異論を挟む事もなく返事を返した。
 ワ―タイガーの死骸を回収し、素材にする為に分解をかけてみたのだが……何だ、この違和感?

 ストレージには「ワ―タイガーの魔石」「ワ―タイガーの魔核」「爪」「骨」「肉」「毛皮」「血液」等々、いくつかの素材が表示されているが、別段変わった所は……。
「あ、そういう事か」

 何がおかしいのかしばらく考えた末、俺はある事に気が付いた。そうか、違和感の正体はコレか。

「ん? どうかしたか、カイト君?」
「ああ、大丈夫、何でも……いや、何でもなくはないのか?」

 これは今の内に確認しておかないと、後で後悔しそうな気がする。

「どうしたんですか? 何か気になる事でも?」

 マリーが俺の顔を下から覗き込みながら尋ねてくる。

「ああ、ちょっとな。さっきのワ―タイガー……魔物なんだけど、あれってマッスルキャットの特殊個体で間違いないんだよな?」
「え? はい、そうです……ワ―タイガー?」
「それがどうかしたのか?」

 二人は訝し気に首を傾げ、頭に疑問符を浮かべているようだ。
 だが、これで確信した。このワ―タイガーは何かがおかしい。

 今まで、特殊個体を倒して手に入る魔石や魔核には、必ず(特殊個体)と表示されていた。だが、ワ―タイガーにはそれがない。

 ストレージには「ワ―タイガーの魔石」と「ワ―タイガーの魔核」と表示されているが、「マッスルキャット(特殊個体)」とは表記されていなかったのだ。

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