見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十七話

 予定外の買い物もあったが、充実した一日だったと……あれ? ウマイタケ買って、拷問パフェ事件があって、表通りでアクセサリーの買い物。
 そこまで充実していたか?

 最後のアクセサリーの件しか充実してなくない?

「ふんっふふーん」

 だが、隣で上機嫌のマリーを見るに、きっと充実した一日だったのだろう。うん、きっとそうだ。そうに違いない。そうだと言って!
 俺は自分に言い聞かせるように何度もそう呟いた。

「カイトさん、今夜はウマイタケ三昧ですね!」

 マリーは余程ウマイタケとやらが楽しみなのか、さっきからウマイタケの話ばっかりしている。

「ウマイタケって、そんなに旨いのか?」

 ウマイタケだけに?

「何を言ってるんですか! 美味しいに決まってるじゃないですか! 侍の国の特産品だから、普段は市場にすらほとんど出回らない、貴重な物なんですよ!」

 何の気なしに俺からウマイタケの話題を振ってみたら、いきなり熱く語り出すマリー。しまった、振らなきゃよかった。

「おかえり、二人共。その様子だと、無事に買えたみたいだな」

 マリーのウマイタケ談義が始まろうという所で、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。その声に後ろを振り返ると。

「ああ。ただいま、フーリ」
「ただいま、姉さん」

 今日一日、俺達とは別行動をとっていたフーリの姿がそこにあった。

「そういえばフーリは今日一日何してたんだ?」

 一応朝からフーリも一緒にどうかと誘ってはいたんだが、用事があるからと断られていたんだ。
 だからこそ、余計に勘違いをした訳だが……うん、忘れよう。それがいい。

「私か? それは……内緒だ」

 フーリは一度考える様に顎に手を添え、天を仰いでいたが、やがて悪戯っぽい笑みを浮かべて内緒だと答えた。
 何だろう? めっちゃ気になるな。

「人気者は辛いな、カイト君」
「何が?」

 いきなり訳の分からない事を言い出すフーリ。それとフーリの今日の行動がどう関係あるっていうんだ?

「さて、立ち話もこれぐらいにして、カイト君はそのまま酒場の手伝いに入るか?」

 だが、俺のそんな疑問に、フーリが答えてくれる事は無かった。

「……そうだな。俺はこのまま酒場に行くよ」

 何だか腑に落ちないけれど、多分聞いても教えてくれない気がするんだよな。勘だけど。
 なので俺は特に聞き返す事もせずに酒場に行くと答え、二人とはそこで別れると、そのまま酒場へと足を向けた。

 俺の場合「部屋に荷物を部屋に置いてから」という行動が必要無いからな。そのまま直行できる。

 着替え? こっちに来てからはストレージで浄化して着回してますが何か? 多少のほつれなんかは浄化の時に勝手に直るし、特に不満を感じた事は無い。

 まあ流石にずっとこのままという訳にもいかないのは、俺も分かっている。今は気候も丁度いいから何も問題ないが、これから徐々に気温が下がってきたら、今の服だけじゃ心許ない。

 二人に聞いた話だと、もう一か月もすれば本格的に冷え込み始めるらしいし、近い内に服でも買いに行かないといけないだろう。

「そうですか。なら私と姉さんは、一度部屋に荷物を置いて来ますね。姉さん、行こう?」
「そうだな。という訳だ、カイト君。また後でな」

 二人はそれだけ言うと、急いで自分達の部屋へと戻って行ってしまった。
 二人の荷物も俺が預かっても良かったんだけど、女には「お化粧直し」なる時間が存在している事を俺は知っている。だから変に何か言うよりも、黙って見送る事にした。

「さてと、行きますか」

 二人を見送った後、俺はそのまま酒場へと向かった。



「おかえりなさい! 待ってたよ、お兄ちゃん!」
「おう、ただいま。今日は一段と元気だな」

 酒場に入るや否や、アミィからの出迎えがあったのだが、心なしかいつもより何割増しかで元気な気がする。
 元気がいいのは問題ないが、何か良い事でもあったのだろうか?

「あら? おかえりなさい、カイトさん」

 アミィの声につられる様に、酒場の奥からイレーヌさんが姿を現した。

「はい。戻りました、イレーヌさん」

 俺はイレーヌさんにも返事を返しながら、ストレージからエプロンを取り出して身に付けた。
 うん、最近はこうする事で、気持ちを仕事モードに切り替えられるな。良い傾向だ。

「よし!」

 両頬をパンと両手で叩き、気合を入れ直す。
 最近はイレーヌさんの調子もかなりよくなってきてるし、俺がお役御免になる日も近いかもしれないな。

「お兄ちゃん、今夜も頑張ろうね!」
「ん? おお、そうだな」

 アミィがやたらとやる気に満ちているんだけど、本当にどうしたんだ?

「それじゃあ早速始めましょうか」
「うん!」
「はい、イレーヌさん」

 アミィの事は少し気になるけど、今は目の前の仕事に集中しないとな。俺達はイレーヌさんの言葉で、各々開店準備を始めるのだった。



「ふぅ、今日は濃い一日だったな」

 酒場での手伝いを終え、晩飯も済ませた俺は自室で一人呟いていた。
 マリーが実はオイ椎茸ジャンキーじゃなく。キノコジャンキーだったという事実が判明したり、オイ椎茸パフェなるゲテモノ料理の存在に驚いたり。

 表通りではスノウドラゴンの魔石という、珍しい物も手に入れた。
 フーリにお土産としてイヤリングを買って行ったら、随分喜ばれたな。丁度こういうのが欲しかったって言ってたから安心した。

 アミィのお土産はすっかり忘れていて、むくれられたなぁ。次から気を付けよう。
 ……さて、現実逃避はこのぐらいにして。

「何だこのスキル。ただの人間が持つにしては規模がおかしい事になる気がするんだが」

 俺は今、昼間手に入れたスノウドラゴンの魔石のスキルを確認して驚いている所だ。
 何故なら、スノウドラゴンのスキルは「天候操作」「氷雪魔法」「風魔法」「自己再生」「威圧」「ドラゴンブレス」の計六つも付与されていたからだ。

 数も凄いが、内容も凄まじい。どれを取っても相当強そうだ。

「……うん、これも保留だな」

 今まで一番付与数が多かったスライムの魔石ですら、スキルは三つしか付与されてなかったというのに、その倍も。こんなの持て余すに決まっている。
 俺はスノウドラゴンのスキルを保留にする事を決め、ストレージ画面をそっと閉じた。

 そして「ふぅ」っと溜息を一つ吐く。

「結局フーリは今日一日何してたんだろう?」

 何度聞いても「さあ」とか「まあいいじゃないか」とか言って話をはぐらかされるばかりで、まともに返事は返ってこなかった。まあ予想通りではあったけど。

「もしかしてアミィと何か関係あるのかな?」

 今日はやたらとテンションが高かったアミィ。普通に考えれば二人で何かしていたって考えになるよな。

 でも、仮に二人が俺に内緒で何かしているとして、一体何を? フーリには「人気者は辛いな」としか言われていないし。

「……これは、考えても答えなんて出なさそうだ」

 俺に何の心当たりもない以上、これ以上は考えるだけ時間の無駄だろう。

「ふぁ、あ~。そろそろ寝るか」

 色々考えていたら段々と眠気が襲ってきていた。
 まあ、なる様になるだろう。そう考え、俺は布団を被り、そのまま眠りの世界へと誘われていった。

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