見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十五話

「これが魔鉄バットか」

 それはどこからどう見てもただの金属バットだった。
 重量感があり、長さも充分。持ち手にはきちんとグリップテープらしき物も巻かれており、手からすっぽ抜けるという事も無さそうだ。
 ただ、一つだけ疑問がある。

「このグリップってどうやって作られたんだ?」

 ストレージの中にはこれといって素材になりそうな物なんて……。

「あ、もしかしてこれか?」

 ストレージの中を確認してみると、オーガの服が無くなっていた。まあオーガの服といっても、ただの麻布だったのだけれども。
 それはともかくとして、つまりこのグリップテープは麻布で出来ているって事か。

 他に無くなった物は特に無いし、多分間違いないだろう。

「それが魔鉄バットという物か。何というか、棍棒みたいだな」

 フーリが魔鉄バットを眺めながら、そんな感想を漏らす。

「うん、確かにそれは分かるかも。実際棍棒とよく似てるし」

 確かにフーリの言う通り、この魔鉄バットは棍棒とよく似ている。ていうか、棍棒自体がバットと似た形をしているのだから当然だけど。
 おかげで「使い慣れない武器」という事にはならなそうだ。

「相変わらずカイトさんの武器は鈍器なんですね」
「ぐっ」

 マリーの容赦のないツッコミに、俺は反論できずに口籠る。
 俺だって好きで鈍器を使ってる訳じゃないやい!

 ただ、ストレージで武器を生産しようとすると、棍棒だとかバットだとかの鈍器になるだけで。俺だって剣や槍を使って戦ってみたいんだよ。
 でもストレージで作った武器は、恐ろしく手に馴染むんだよな。

 まるで昔から使ってる相棒みたいな感じに。これを捨ててまで新しい武器を使う必要なんて……あ。

「とりあえず今はそんな事より、目の前のアイアンゴーレムだな」

 魔鉄バットの話に気を取られて、アイアンゴーレムの存在をすっかり忘れていた。
 気を取り直して、俺は鉄鉱石を吸収し続けるアイアンゴーレムに意識を集中する。
 気の所為かこのアイアンゴーレム、さっきより少しだけ大きくなってる様な?

 もしかしたらアイアンゴーレムは鉄を吸収すると大きくなっていくとか?
 でも、減った鉄鉱石の量と大きさがイマイチ噛み合ってない気が……まあ今は気にしても仕方ないか。この戦いが終わったら二人にでも聞いてみよう。

 俺は魔鉄バットを構え、アイアンゴーレムから視線を二人に移した。

「これの試し殴りをしたいんだけど、いいか?」

 一応確認してはいるが、正直ダメだと言われても飛び出そうと思っている。

「ま、まあ棍棒に比べれば」
「マシ、なのかな?」

 二人は悩む様な仕草で俺の魔鉄バットに視線を向ける。
 いや、マシってどういう事? やっぱりこれじゃあ色んな意味でダメだった?

「……行ってきまぁす!」
「「あっ!」」

 二人が悩んでいる隙に、俺は人間ロケットで一気にトップスピードまで加速する。

「全くカイト君は。マリー、私達も行くぞ」
「本当にカイトさんは。戻ってきたらお説教です!」

 後ろから二人の声が聞こえた気がするが、気のせいだな!
 魔鉄バットを握りしめ、アイアンゴーレムまで接近。目の前で急停止して、思いっきり振りかぶる。

 突然の事態に反応出来ないのか、アイアンゴーレムはこちらを見るだけで防御すらしようとしない。

「貰ったぁ!」

 硬度を上げるべく、魔鉄バットに魔力を注ぎ込むと、魔鉄バットは真っ赤な光を放ちながら輝きだした。
 おお、なんかすごそう!

 真っ赤に輝く魔鉄バットをアイアンゴーレム目掛けて思いっきり叩きつける。

 ガギィィィィンッ!

 金属同士がぶつかりあう時独特の甲高い音が聞こえ、魔鉄バットがアイアンゴーレムの頭から腰の半ばまでめり込んでいった。
 ……ん? あれ? 気の所為かな? なんか、えげつないぐらいめり込んだんだけど?

 恐る恐る後方に視線を向けると、俺を追いかけてきていたであろう二人が「絶句」という言葉がよく似合いそうな顔をして固まっていた。

「カイト君、一体どれだけの魔力をそれに注ぎ込んだんだ?」
「え? どれだけって、適当だけど?」

 とりあえず適当に注いどげば大丈夫かと思ってたから、どのぐらいとか全く意識してなかった。

「カイトさんの適当は、絶対適当じゃないです。それ、真っ赤になってるじゃないですか。真っ赤な輝きは魔鉄の最高硬度を示す色ですよ」
「マジで?」

 マリーの言葉に俺はもう一度魔鉄バットに視線を向けた。
 それは俺が魔力を注ぎ込んだ事によって、真っ赤な光を放っている。
 これが最高硬度。でもそんなに大量の魔力を注いだ記憶はないけど。マリーの勘違いじゃないか?

「それにしても凄まじい威力だな。あのアイアンゴーレムを、こうも簡単に殴り倒すとは」

 フーリはアイアンゴーレムの残骸を手に取って眺めながら、驚きの声を上げている。
 その手に握られているのは、魔核よりもいくらか大きい丸い玉。

 恐らく俺がアイアンゴーレムを殴った時の衝撃で飛び散ったのだろう。魔核よりもいくらか大きい、アイアンゴーレムの核だ。
 核にはひび割れる様に亀裂が走っており、今にも砕けてしまいそうな状態だ。

 フーリはそれを床に置くと。

「カイト君、その魔鉄バットでこれを砕いてくれ。そうすればアイアンゴーレムの討伐は終了だ」
「分かった。砕けばいいんだな?」

 ちょっとオーバーキルな気もするが、確実に仕留めとかないと。
 俺は魔鉄バットを振りかぶり、アイアンゴーレムの核に向かって振り下ろした。

 パリィン

 というガラスが割れるような音を響かせながら核は砕け散り、ピクピクと痙攣していたアイアンゴーレムは「ピタッ」と、その動きを停止。

 俺の完全勝利だった。いや、そもそも不意打ちで倒すってどうなんだろう? 本当に良かったのか?



 大量や! 鉄が大量や!
 アイアンゴーレムの残骸を回収して手に入った鉄の量は凄まじかった。その上嬉しい誤算まで。
 なんと、砕いた核から、大量の鉱石が出てきたのだ。

 鉄鉱石はもちろん、金鉱石や銀鉱石。少量ではあるがミスリルなどの希少な鉱石や魔鉄まで。減った鉄鉱石とアイアンゴーレムの大きさが噛み合わないなぁ、とは思っていたが、なるほどそういう事か。

 要はこの核が、アイテムボックスみたいな役割も果たしていたという事だろう。だから、砕いた時にこんなに大量の鉱石が飛び出してきたって事か。
 それらを全てストレージに回収し、俺達は昨日の探索の続きを始めた。

 八層は三層と雰囲気が似ていて、鉱山という感じの階層だ。
 だが、その広さは三層とは比べ物にならない程広い。

 この広さを一日で探索し終えるとか考えていたのがそもそもの間違いだったと、改めて思い知らされる程に。

「八層って、今までの階層とは比べ物にならないぐらい広いんだな。知らなかったよ」

 俺が二人に率直な感想を述べると。

「ああ、驚くのも無理はない。果ての洞窟は七層から急に広くなるからな」
「ここは七層からが本番ですからね。それまでは準備運動みたいなものです」

 と、二人共当然の様にそう答えた。確かに七層も広さは凄かった。見晴らしが良かったから、攻略そのものは比較的早く終わったけど。

「ちなみに、七層のボスコーカトリは、Cランク昇級試験の討伐対象でもあるんですよ」
「そうなのか……ん? ちょっと待って、今何て言った?」

 俺は聞き捨てならない言葉をマリーから聞いた気がした。俺の聞き間違いじゃなければ「Cランク昇級試験」って言った?

「今というと、Cランク昇級試験の事ですか?」

 マリーの言葉に俺は頷く。もしそれが本当なら、俺は試験を受けずにCランクになったって事だろ? それってルール違反なんじゃ……。

「カイトさんは既にボスコーカトリを倒していますから、特に試験もなくCランクに昇級出来たんですよ」

 俺が考えている事が分かったのか、マリーが俺の疑問を答えてくれた。
 ……本当に心読んでないよね? 時々気になってるんだ。

「本当にいいのかなぁ?」

 いくら先にボスコーカトリを倒していたといっても、俺以外の冒険者は試験を受ける訳だろ? しかも、俺の場合一人じゃなく二人と一緒にだ。
 なんか裏口入学みたいで気が引けるんだけど。

「カイト君の実績を知らない冒険者なんてペコライにはいないだろうから、誰からも文句は出ないと思うぞ」

 フーリの言葉に、俺は自分の実績を思い出してみた。
 ゴブリンの特殊個体に、オーガエンペラーの特殊個体だったシン。そしてスライムとボスコーカトリ。目立った実績はこのぐらいか。

 ゴブリンの特殊個体については俺以外誰も知らない筈だけど。

「討伐した魔物だけじゃない。果ての洞窟の踏破期間もだ。いくら七層までとはいえ、一日一層のペースで攻略出来るのは、充分すごい事なんだぞ」
「そうなのか? いつも二人と一緒に探索してたから考えもしなかったよ」

 二人共平然と攻略を進めてるから、てっきりこれが普通なのかと思ってたわ。

「それらを鑑みれば、試験を受けなくても問題ないって判断されてもおかしくないです」

 マリーに言われ、確かにそうかもしれないと、俺自身思ってしまった。
 まあもし分不相応だと思ったら一度相談してみればいいだけか。

 俺はそう考え、そのまま二人と八層の探索を続けたが、今日も八層の探索は終わらなかった。
 いや、マジで広すぎだろ八層。

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