見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十一話

 早めの昼飯を終えた俺達は、そのまま八層探索を再開した。

 カーン! カーン!

 アイアンゴーレムがどこにいるかは分からないが、他の魔物とは結構な頻度で遭遇するし、そろそろ出てきてもおかしくない筈だ。

 カーン! カーン!

 もしかしたらミスリルが出るかもしれないと、数分前から始めたこの採掘。

 カーン! カーン!

 だが、流石にそんな簡単にミスリルが出る訳もなく。

 カーン! カーン!

 俺達はひたすら岩肌に向かってつるはしを振り下ろし続けている。

 カーン! カーン!

 鉱石や名前のよく分からない宝石の原石なんかはそれなりに出て来るんだけどなぁ。

 カーン! カキンッ!

「ん?」

 ずっと同じ場所を掘っていたら、つるはしを握る手の平に今までとは違う硬く鈍い感触が伝わってきた。

「何だ今の? やけに硬かったけど」

 俺はつるはしを脇に置いて、たった今掘ったばかりの壁を調べてみると、そこには岩や地面とは明らかに違う、銀色の輝きを放つ大きな塊が埋まっていた。
 ……ん? これ、もしかして鉄か?

「カイト君、何かあったか?」
「何だか変な音が聞こえてきましたけど」

 今まで別の場所で採掘をしていた二人も今の音が聞こえたのか、近くまで駆け寄ってきて尋ねてきた。

「ああ、何か変なの掘り当ててな。見た感じ鉄っぽいけど、二人はどう思う?」

 俺が二人に尋ねると、二人は俺が掘った壁の中を覗き込んできた。

「うーん、確かに鉄っぽいですね」
「だろ? でも普通、こんな精錬したのかってぐらい綺麗な鉄が埋まってるもんかね?」

 マリーは俺と同じく鉄だと思ったみたいだが、もしそうなら今言ったような疑問が残る。

「これは……いや、まさかな。だが、こんなに綺麗な面をしているという事は……」

 フーリは目の前の鉄(仮)を見ながら何か呟いている。もしかしたら何か心当たりがあるのか、その表情は真剣そのものだ。

「姉さん、どうかしたの?」

 マリーも同じ考えに至ったのか、フーリの様子を窺いながら尋ねていた。

「……マリー、カイト君、念の為戦闘準備をしていてくれ。私の勘違いならそれでいいんだが、念の為、な」
「戦闘準備?」

 今まで何かを考え込んでいたフーリの口から、突然物騒な言葉が飛び出してきた。
 何でいきなり戦闘準備? これってそんなにヤバい物なのか?

「戦闘準備って……あっ」

 マリーも最初は訝しんでいたみたいだが、何か思い出したかのように、ハッとなっていた。

「思い出したか、マリー?」
「うん、今思い出した。そういう事。でも、そう簡単にアレが出て来るかな?」
「分からん。だが、これを見ろ。こんな綺麗な状態で鉄が発掘できるなんて普通はありえないだろ?」
「うん、それは確かに。という事は、やっぱり?」
「ああ、その可能性はある」

 ……何か二人だけで通じ合ってるみたいだけど、俺は何一つ理解してないからね? 俺の知らない所で一体何が起こってるの?

「あ、すみません、カイトさん。何の話か分かりませんよね。とりあえず少し離れて戦闘準備をしておきましょうか。詳しい話は後でしますから」

 マリーはそれだけ言うと俺の手を取り、鉄(仮)から距離を取り始めた。
 大体十メートルぐらい離れただろうか。マリーはフーリに向かって。

「姉さん、そろそろいいよ!」
「ああ、分かった!」

 そんな短いやり取りがなされた後、フーリが鉄の塊に向かって。

「爆炎!」

 突然爆炎を放った。

「え? 何で?」

 俺は突然の事態に焦りを隠せないでいた。何でフーリはいきなり爆炎なんて放ったんだ?
 と、その時。

 ゴゴゴゴゴゴッ

「っ!?」

 突然の地鳴りと共に、世界が揺れた。

「な、何だっ!? 地震か!?」

 慌てて周囲を見回すと、そこには神妙な顔つきで正面を見据えるマリーと、いつの間に移動してきたのか、ミスリルの剣を構えるフーリの姿があった。
 何で二人共落ち着いてるんだ?

「な、なあ、急いで避難した方がいいんじゃないか?」

 俺はマリーに向かって訴えてみたが、当のマリーはというと。

「大丈夫です。落ち着いて下さい、カイトさん」

 特に慌てた雰囲気はなく、未だに正面を見据えている。
 そういえば、戦闘準備をしておくように言われてたけど……え? って事は、もしかしてこの地震って魔物のせいなのか?

「どうやら当たりの様だ」

 フーリは短くそれだけ言うと、マリーと同様剣を構えたまま正面を見据える。その視線の先には、さっき俺が掘り当てた鉄(仮)の塊があるだけ……ではなかった。

 さっき壁に埋まっていた塊はいつの間にか無くなっており、代わりに俺の身長と同じぐらいはありそうな巨大な腕が壁から突き出していた。

「な、何だよあれ!?」

 俺は驚き慌てながらも、咄嗟にストレージからトレントの棍棒を取り出して構える事が出来た。
 あれが一体何なのか俺には分からないが、何だかヤバそうだ。

 試しに気配探知を使ってみると、さっきまで何の反応もなかったのに、そこには明らかに魔物の反応が出ていた。

 あれ魔物なのか? 雰囲気的にゴーレムの様に見えるけど……いや、鉄の塊と、ゴーレムの様な雰囲気。
 もしかして、これって……。

「気を引き締めろ、カイト君。あれはアイアンゴーレムの特殊個体だ」

 フーリからもたらされた、聞きたい様で聞きたくなかった情報。でも必要な情報。
 そう、さっきの鉄の塊。アレはアイアンゴーレムの体の一部だったんだろう。
 だがフーリは今、あのアイアンゴーレムの事を「特殊個体」だと言った。

 特殊個体。読んで字の如く、通常とは違う力を持った特殊な個体の事だ。そしてあのアイアンゴーレムも特殊個体。
 いや、俺まだ通常個体すら見た事ないんですけど? いきなり特殊個体ですか?

 と、そんな事を考えていると、徐々にその全身が露わになってきた。が、アイアンゴーレムの特殊個体は、俺が思っていた程大きくはなかった。
 全長は多分俺の三倍ぐらい。いや、三倍もある時点で充分大きいけれども。

 全身がごついというか、重量感がある体をしている。腕や足なんかも相当太い。まるで巨大な丸太だ。
 そして顔の中心には、大きな丸い物体が一つ、真っ赤な光を放ちながら輝いていた。もしかしてアレが目か?

 なんかアイアンゴーレムってちょっと不気味だな。

「フーリ。あれと戦う時に注意すべき点は?」
「そうだな。奴の攻撃は鋭く重い。しかも体は魔鉄と呼ばれる素材で出来ているから、硬度も通常の個体より遙かに硬い。並みの武器ではひとたまりもないだろう。私が前に出るから、二人は援護してくれ」
「うん、分かった」

 フーリはミスリルの剣を構え、俺達は援護に回る様に頼んできた。

 確かに、そんなに硬いのなら、ミスリルの剣を持つフーリが前に出るのは自然な流れだ。マリーも二つ返事で了承していた。でも、そんなに厄介な相手に一人で前に出るなんて、大丈夫だろうか?

「……無理はするなよ?」
「ああ、分かっているさ。じゃあ二人共、援護は任せたぞ!」

 言葉尻を強めに、アイアンゴーレムに向かって飛び出すフーリ。
 アイアンゴーレムは突然攻撃を仕掛けられた事に驚いたのか、反応が遅れているみたいだった。

「まずは腕だ」

 フーリが宣言すると共に、アイアンゴーレムの右腕目掛けてミスリルの剣を振り下ろす。すると、まるでバターでも切ったかのように滑らかな切断面を作り出し、アイアンゴーレムの右腕は一瞬で切り落とされた。

 え? 確かさっきフーリは、アイアンゴーレムの特殊個体はとにかく硬いって言ってなかったっけ?

「流石はミスリルの剣ですね。まあ今のは突然の攻撃で、アイアンゴーレムが「硬化」する前に攻撃出来たからっていうのもありますけど」
「硬化?」

 硬化というと、あのアイアンゴーレムは、自分で自分の体の硬さを調整出来るって事なのか?

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