見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十話

 そのまましばらく二人と話をしていて分かったのだが、冒険者カードは縁取りの色でランクが分かる様だ。

 Dランクまでは茶色い縁取りで、Cランクが黒。Bランクが赤で、Aランクが銀。そして最上級のSランクが金色になっているらしい。まあ割とありがちな配色だな。

 実際に二人の冒険者カードを見せて貰ったが、二人の冒険者カードは当然赤の縁取りだった。
 っと、そろそろいい時間じゃないか?

「さて、それじゃあ果ての洞窟に向かおうか」

 俺が二人に声をかけようとしたタイミングで、逆にフーリの方から声をかけてくれた。

「そうだね」
「ああ。チャチャッと準備してから行くか」

 今日は八層の探索、そしてアイアンゴーレムの素材集めだ。こう、いかにも異世界、いかにも冒険者って感じがして、今から楽しみで仕方ない。

 俺達はいつも通り、賢者の息吹で昼飯を購入し、ガンツさんの店でツルハシなんかの道具を購入した。
 今日潜る八層は鉱石が多く取れるらしいからだ。

 それを抜きにしても、いい加減採掘道具の一つも持っておきたかったというのもある。
 折角ストレージを持っているのだし、こういうちょっとした道具も徐々に揃えていきたいものだ。

 諸々の準備を整えたら、いよいよ出発の時間。俺達は果ての洞窟へ向けて出発した。

 そして現在、俺達は八層の入り口に立っている。
 昨日転移魔法陣に登録を済ませておいたおかげで、入口からここまでは一瞬で転移する事が出来た。

 それにしても、暗い。いや、洞窟の中なんだから、暗いのは当たり前なんだけど。
 でも、七層が明るかった分、八層は特に暗く感じる。まあ七層はそもそも洞窟内であるのかさえ怪しい階層ではあったんだけど。

「さて。二人共、魔石ランプは持っているな?」
「もちろん」
「ああ、持ってるぞ」

 左手に魔石ランプを手に持ったフーリに尋ねられ、俺とマリーはお互い自分の魔石ランプを手に持った。

 魔石に魔力を流す。たったそれだけで、ランプの中の魔石が光を放ち、周囲を明るく照らし出してくれる。

 これ便利だな。電力……もとい、魔力を流すだけで光源として利用できる上に、魔石に込めた魔力さえ尽きなければ光も弱くならないなんて。

 マリーとフーリも自分の魔石ランプに明かりを灯し、正面を照らす。
 魔石ランプ三つ分の明かり。それはかなりの明るさがあり、目の前の八層の光景がさっきとまるで違って見えてくる。

「さあ、先に進もう。早いところアイアンゴーレムが出てきてくれればいいのだが」
「そうだな。ところでフーリ」
「ん? 何だ?」

 俺達の前を歩くフーリの姿を見て、俺は今まで気になっていた事を尋ねてみる事にした。

「腰のそれ。それが例のミスリルの剣なのか?」

 そう。フーリは今、昨日までの物とは違う剣を腰に差している。恐らくアレが、ガンツさんに打って貰ったミスリルの剣なのだろう。
 俺が尋ねると、フーリは少しだけ口の端を上げ。

「ああ。想像通り、これが昨日打って貰ったばかりのミスリルの剣だ。今日の標的はアイアンゴーレムだからな。早速これが活躍するだろう。期待していてくれ」

 フーリは喜びを抑えきれないといった様子で腰のミスリルの剣に手を当てて答えた。
 余程嬉しいのか、全身から喜びのオーラが立ち昇っている……気がする。いや、態度で丸わかりなだけか。

「姉さん、余程ミスリルの剣が嬉しかったんでしょうね。あんなにはしゃいじゃって」
「なあ、ミスリルの剣ってそんなに凄いのか?」

 イメージ的に凄い剣だっていうのは分かるんだけど、肝心の切れ味というか、性能がイマイチ分からない。
 確か、魔力伝導率だかが高いって言ってた様な?

「凄いですよ。単純な切れ味だけでも、昨日までの鉄の剣とは比較になりません。今日の討伐対象であるアイアンゴーレムなら、魔力を使わなくても簡単に切り捨てる事が出来るぐらいです」
「マジで? アイアンゴーレムって、確か全身鉄で出来てるんだよな? それを簡単に切れるのか?」

 それって相当切れ味良くない? だって鉄だぞ? 日本でいうなら、人の力で鉄骨を切れるって事だろ? そんなの異常だろ。
 つまりミスリルの剣は、単純に剣としても一級品って事か。

「はい、そうです。だからミスリルは高値で取引されますし、貴重なんですよ。数もあまり出回りませんし」

 なるほど。それは確かに価値があるのにも頷ける。
 もし鉄の剣でミスリルの剣と斬り合う場合、鍔迫り合いは許されないって事だもんな。
 なんならミスリルの剣で受けられただけで鉄の剣が真っ二つにもなり得るだろう。

 それに、もしミスリルの防具を使っていた場合、鉄程度の武器の攻撃は完全に防いでくれるって事にもなる。
 控えめに言ってチートじゃん。

 やっぱり武具の素材は重要って事だな。いい加減俺の棍棒もまともな素材で作らないと。
 俺は改めて、フーリが持っているミスリルの剣の恐ろしさを理解した。



 その後、八層の探索は順調に進んだ。

 開けた空間に出ては採掘をして鉱石を入手し、通路内で遭遇した魔物「ロックリザード」や「ストーンゴーレム」なんかも三人で危なげなく倒した。
 ゴーレムなんて初めて見たけど、結構大きいんだな。

 オーガよりも更に一回りは大きかった気がする。
 八層は洞窟内って感じの階層なのに、何故かやたらと広かったのだが、これで納得出来た。
 あんな大きな魔物が生息している階層なら、そりゃその分広くもなるか。

 いや、逆か。こんなに広い階層だから、あんなに大きな魔物が生息しているのか。
 ただ、それはあくまでストーンゴーレムの話だ。アイアンゴーレムはまた違うのかもしれない。

 ちなみにストーンゴーレムからも魔石が手に入った。魔物なんだし、当然といえば当然なんだけど、なんかゴーレムの見た目って魔物って感じがしないんだよな。
 ぶっちゃけ魔物というより、人工物って感じがするし。

「なかなか出ないね、アイアンゴーレム」
「そうだな。いい加減一匹ぐらい出てきてもおかしくないのだが」

 確かに。八層の探索を開始してから、既に二時間は経っている筈だ。
 それなのに、未だにアイアンゴーレムとは遭遇していない。アイアンゴーレムって、そんなにエンカウント率低いのか?

 そのままアイアンゴーレムに遭遇しないまましばらく歩き続け、やがて今までよりも更に広い空間に辿り着いた。

「未だに遭遇しない、か。仕方ない。先に昼食を済ませてしまおうか」
「そうだね! 腹が減ってはっていうし、賛成!」
「そのことわざって、こっちにもあるの!?」

 マリーの発言につい驚いてしまった。
 まさか異世界でそんなことわざを聞く事になるなんて思わなかったし、仕方ないと思う。

「という事だ。カイト君、頼めるか?」
「ああ、分かった。ちょっと待っててくれ」

 フーリに頼まれ、俺はストレージからいつもの昼食セットと今日の昼飯を取り出して並べ、コーカトリの串焼きを取り出した。もちろん柚子胡椒も。
 昨日は味気ない串焼きだったが、今日は一味違う。

 昨夜マリーと話合った結果、まずは柚子胡椒を付けて食べてみようという話になった。
 その結果次第でコーカトリの調理方法を考えようという訳だ。

 単に俺がそうやって食べてみたいというのもあるが。
 とにかく三人分の串焼きを用意し、それも柚子胡椒と共に並べた。
 これで準備完了。

「出来たぞ」

 二人に席に着く様促し、俺も自分の席に腰かけた。
 全員座ったのを確認し。

「さあ、食べようか」
「ああ」
「待ってました、オイ椎茸!」

 俺の言葉と共に、二人が昼飯に手を伸ばす。
 ……二週間程経つが、未だにこの習慣には慣れないな。やっぱり飯の前には「いただきます」だよな。

 郷に入りては郷に従え精神で今まで過ごしてきたが、次からは俺だけでも言おうかな。
 そんな事を考えながら、俺も目の前の串焼きに手を伸ばした。

 コーカトリの串焼きは、柚子胡椒で食べると旨かったのだが、やはりイマイチ味気なかった。
 それは二人も同じだった様で、共に微妙な表情をしていた。

 これは、またマリーと相談しないとな。

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