見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

九話

「大丈夫か?」
「え、ええ、何とか」

 誰のせいだと思ってんだよ! と、そんな心の叫びは表に出さず、俺は話を続けた。

「それで、俺なら面談しなくても問題ない、とは?」

 実力に関しては、多分オーガエンペラー――シンを倒したから問題ないって事なんだろうけど、面談すらしなくても問題ないとはどういう事だろうか?

「ああ、それは簡単だ。お前、人を殺した事なんてないだろう?」
「はい? いやそりゃあ、ある訳ないじゃないですか」

 人殺しなんてする訳ないし、したいとも思わない。そんなの当たり前だ。

「だろ? で、ギルド規約も破った事はないし、前科もない。パーティを組んでの活動も充分やってるし、腕っぷしだって、オーガエンペラーを討伐出来る時点で、Cランクとしては充分過ぎる程。ほらな、何の問題もない。今すぐCランクに昇級しても誰一人文句は言わんだろうさ」
「は、はあ、ありがとうございます?」

 何か怒涛の勢いで誉められた気がするけど、まあ言ってる事は全部正しかった。まさかギルド長にこんなに認められてるとは思いもしなかったけど。
 でも、だとすると俺は何でここに呼ばれたんだ? 形式上?

「何でここに呼ばれたんだ? って顔をしているな」
「ええ、まあ。実際俺がここに呼ばれた理由って何なんですか?」

 俺はギルド長に素直に聞いてみた。

「お前をここに呼んだ理由か? そうだな。単刀直入に言うと、この間の礼を言いたかったからだ」
「この間って言うと、オーガエンペラーの件ですか?」
「ああ、そうだ。結局あの後、お前と話す機会もなかったからな。丁度良かったから、昇級の面談ついでに、ちょっと話でもしようかと思ってな」

 ギルド長は俺の質問に丁寧に答えてくれた。オーガエンペラー、つまりシンを倒した礼、か。

 確か、あの後俺が目を覚増した時には、ギルド長は用事でペコライにいなかったんだったな。
 なるほど、そういう事か。

「にしても、お前よくオーガエンペラーを倒せたな。あの時はモーヒも強制転移させられて、いなかったみたいだし。いや、まったく大したもんだ!」

 ギルド長がやたらと褒めてくるのがむず痒い。 確かに俺はシンを倒したけど、改めて言われると、よく倒せたなと思う訳で。

「いえ、そんな。ただの偶然ですよ。運が良かっただけです」

 実際あの時、ナナシさんから貰った魔導具が無ければ、一人でシンを倒す事なんて出来なかっただろう。それは間違いない。
 つまり、運が良かったのだ。

「運が良かった、か。だが、お前がオーガエンペラーを倒したのは事実だ。これはもっと胸を張っていい事なんだぞ?」

 俺が偶然だというのを強調して言うと、ギルド長が諭す様な口調で語りかけてきた。

「それに、こんな事をしでかした奴が「偶然」だの「運が良かった」だの言って胸を張らなかったら、他の冒険者はどうすればいい?」
「他の冒険者?」
「そうだ。お前がそんな事を言ってると、偶然でもオーガエンペラーを倒せない冒険者は、何をすれば胸を張れる? 堂々と出来る? 出来ないさ。お前が胸を張らない限り、な」

 言い方こそあまり上手くないが、ギルド長の言いたい事は何となく分かった。
 確かに、ギルド長の言う通りかもしれない。例え偶然でも、誰かの力を借りていたとしても、俺がシンを倒したのは事実なんだ。

 ……もっと自信を持ってもいいのかもしれないな。
 そう考えた途端、胸の奥にあったつかえの様な物が取れた気がした。

 ……そうか。俺は今まで、自信が持てなかっただけだったんだな。それに気付かせてくれたのは、このギルド長だ。

「ギルド長、ありがとうございます。おかげで少しだけ自信を持てました」
「……そうか? それなら良かった」

 俺がギルド長に感謝の言葉を述べると、ギルド長は満足気に頷いていた。



 その後もギルド長との話は続き、三十分程すると、さっき出て行ったエレナさんがギルド長室に戻ってきた。

「お待たせしました。ギルド長、カイトさんの新しいギルドカードです」
「お、もう出来たのか。早かったな。ほら、カイト。これがお前の新しいギルドカードだ」

 エレナさんからギルドカードを受け取ったギルド長は、それに一通り確認してから俺に手渡してきた。

 新しいギルドカードは、今まで茶色い縁取りだったのが、黒に変わっているのと、冒険者ランク表示がDランクからCランクに変わっただけで、他は特に大きな変化は見られなかった。

「残念だな。もう少しゆっくり話したかったんだが」

 対面に座るギルド長は、名残惜しそうにそう言うと、すっと立ち上がり。

「その内ゆっくり、飯でも食いながら話したいものだな」

 俺に向かって手を差し出してきた。
 それを見て、俺も席を立ち。

「こちらこそ、今日はありがとうございました」

 その手を握り返した。



「二人共お待たせ」

 ギルドの待合室で待っていた二人に声をかけると、二人は俺の方を見て、一度顔を見合わせると。

「……カイト君、何かあったのか?」

 フーリが不思議そうな視線を向けてきた。

「ん? 何かって?」
「なんだか、憑物でも落ちた様な顔をしてますよ?」

 隣のマリーも俺の事を訝し気に見ながら尋ねてきた。
 憑物というか、胸のつかえが取れたのは確かだけど。よく気が付いたな。そんなに顔に出てたか?

「面談で、ギルド長とちょっと話したんだけど、そのおかげかな。なんだか胸のつかえが取れた気分だよ」

 流石はギルド長、という感じだ。すごくためになる面談だった。

「なるほど。そういう事か」

 フーリは一人何かに納得しているみたいだったが、何が「そういう事」なんだろうか?

「カイトさん、今とても良い表情してますよ。ギルド長との面談のおかげですね」

 良い表情か。確かにそうかも。おかげで今は、清々しい気分だ。

「で、その様子だと、無事Cランク冒険者にはなれたみたいだな」
「ああ、この通りだ」

 俺は面談中に新しくなった冒険者カードを二人に見せてみた。

「黒い縁取りの冒険者カード。間違いなくCランクに上がっているな」

 フーリが俺の冒険者カードを眺めながら言い。

「改めて、おめでとうございます、カイトさん!」

 マリーがまるで自分の事の様に喜んで祝ってくれた。
 そんなに喜ばれると、何だか照れるな。

「二人共ありがとう。改めて、これからもよろしくな」

 俺が二人に改めてそう言うと。

「ああ、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 二人は快く受け入れてくれた。ありがたい事だ。

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