見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

四話

「と、鶏肉だ!」

 回収したコーカトリの死骸を分解したら、鶏肉を入手する事が出来た。
 コーカトリの肉なのに「鶏肉」と表示されてるとか、そんな細かい事は気にしてはいけない。

 この世界に来て、それなりに料理は食べたが、未だに鶏肉を食べた記憶はない。串焼きの肉も鶏肉じゃなかったし。

 ていうか、鶏肉に限らず豚肉、牛肉も食べた記憶はないけど。だって、この世界の肉って何肉かよく分からないし。
 とりあえず皆普通に食べてるから俺も食べてるけど、今度聞いてみようかな。

 まあ今はそれは置いといて。正直前世では鶏肉が一番好きだった身として、これはどうにかしたいと密かに思ったりもしていたので、非常にテンションが上がる。

 焼き鳥、から揚げ、チキンステーキ……想像しただけで腹が……。

「カイトさん、こっちの回収も……ど、どうしたんですか? ニヤニヤして?」

 残りのコーカトリを片付け終えたマリーが話しかけてきたが、その言葉は途中で途切れ、俺がニヤついている顔を見て若干引き気味に尋ねてきた。
 ニヤついてる自覚はあるので、特にツッコミはしない。

「いや、別に何も! それより、もう終わたのか?」
「え、ええ」
「いつも通り、回収を頼む」

 っと、そうだった。とりあえず鶏肉の事は今は置いといて。

「分かった。それじゃあ、収納っと」

 フーリ達が片付けたというコーカトリの方に視線を向け、その死骸をストレージに収納する

 さて、これで全部か。魔石は……コーカトリの魔石が全部で五十八個、ボスコーカトリの魔石と魔核が一つずつ、か。
 結構な数になったな。それに魔核まで。

 コーカトリの魔石には、特にスキルは付与されていないみたいだ。まあ妥当な所だよな。実際に戦っていても、スキルを使ってた感じはしなかったし。

 なら、ボスコーカトリの方は?

「えーっと「巨大化」に「強化付与」それと「指揮」の三つか」

 巨大化と強化付与は何となく分かる。だが、指揮っていうのは? このスキルだけ、何か曖昧じゃない?

 味方を指揮するとか? 軍隊レベルの人数を細かく指揮出来る、なんて可能性もあるけど。
 でも、そもそも指揮するのにスキルは必要ないのでは?

「はあ、何だかお腹が空いちゃった。姉さん、カイトさん、そろそろお昼に……」
「任せろ!」
「わっ! ど、どうしたんですか急に?」

 マリーがお腹が空いたと言ったので、俺は二つ返事で了承した。ちょっと食い気味になってしまい、マリーが驚いていたが、今は許して欲しい。
 折角鶏肉を手に入れたんだから、これを食べない手はない!

 とりあえずボスコーカトリのスキルの確認は後回しでいいや。

 まずはいつも通り、ストレージからテーブルを一つとイスを三つ取り出して並べ、そこに今日の昼飯を並べた。
 そしてここからが本番!

 俺はストレージ内から薪を取り出して着火し、次に串と鶏肉で串焼きを生産した。

「カイト君、それは?」
「これか? 折角だし、さっきのコーカトリの肉を焼いて食べようかと思ってな」

 フーリの問いかけに、俺は焚火の周りに鶏の串焼き――焼き鳥を刺していきながら答えた。

「コーカトリをか?」
「カイトさん、コーカトリの肉を食べるんですか?」

 俺が意気揚々と答えると、二人が意外そうというか、微妙な表情で俺に問いかけてきた。
 何だ? 俺何か変な事言ったか?

「前の世界では鶏肉が一番好きだったし、こっちにもないかなって思っていたんだ。だから、ちょっとテンション上がってる」
「そ、そうか。私はコーカトリの肉は硬くて食べ辛いから苦手だな」
「私も。噛んでも噛んでもなかなか飲み込めないからちょっと……」

 硬くて噛んでも噛んでもなかなか飲み込めない……それって!?

「もしかして、コーカトリって地鶏?」
「「じどり?」」

 俺の呟きに、二人は頭に疑問符を浮かべている様だった。
 あ、こっちには地鶏って無いのか。まあ普通の鶏肉も市場に出回って無さそうだし、地鶏なんてある訳ないか。

「あー、地鶏っていうのは、俺達の世界にあった食材で、噛み応えのある食感が人気の食材だったんだ」

 そう、少なくとも俺は大好きだった。

「人気? あの硬い肉が?」
「想像出来ません」

 二人は俺の説明にイマイチ納得出来ないのか、首を傾げている。旨いんだけどな、地鶏。

 そもそもこの世界では養鶏とかしてないのか? 卵は普通にあるみたいだし、どこかでやっててもおかしくないと思ってたんだけど。
 実は鶏肉が高級食材で、市民の口に入らないとか?

 いや、そもそもこの世界の卵が鶏の卵じゃない可能性もあるのか。

「っと、そろそろ良いみたいだな」

 二人と会話をしている内に、コーカトリの串焼きが良い感じに焼きあがってきたのを見て、俺は焚火の周りから串焼きを抜き取って皿に盛り、焚火をストレージに収納した。
 こうしておけば、次は火を起こす必要もないから便利なんだよな。

「さて、待たせて悪かったな」

 そう、焼きあがるまでの間、二人は先に食べずにわざわざ待ってくれていた。

「なに、構わないさ」
「ご飯はみんなで食べた方が美味しいですからね」

 俺が鶏肉を食べたいが為に二人を待たせてしまったのに、二人は全く気にした様子はなかった。
 な、なんて優しいんだ! これは是非お礼をしないとな!

「ありがとう! そんな二人には、このコーカトリの串焼きを!」
「「結構です」」
「なんでやねん!」

 どう考えても今の流れは受け取る流れだろう? 何で断るんだよ!

「いや、だってそれ、コーカトリだろう?」
「コーカトリはちょっと……」

 二人は顔を引き攣らせながら串焼きを見つめている。
 くう、食べてもいない……訳でもないだろうけど、思い込みだけで……という訳でもないんだろうけど。とにかく、これを食べずに判断するなんて。

「後で分けてって言っても分けないからな!」
「大丈夫だ。気にするな」
「はい、安心して食べて下さい」

 俺が二人に宣言したのを合図に、二人が目の前の昼食に手を伸ばし、俺も焼きたての串焼きに齧り付いた。

 ……うーん、不味くはない。不味くはないけど、これは。

「味がしないな」

 食感はまんま地鶏みたいな食感だった。硬さも。
 だが、下味をつけてないコーカトリの肉は、ただ硬いだけの、味のしない肉になっていた。

 おかしいな。オーク肉の時は食べれば食べる程旨味が溢れてきたのに。コーカトリは全然そんな感じがしない。

 いや、違うか。旨味自体はある。ただ、それがオーク肉みたいにあからさまな旨さを持っていないだけで。

 これじゃあ微妙って言われるのにも納得だ。味付けもしなかった俺が悪いと言えばそれまでなんだけど。

「どうだ、カイト君?」
「あんまり美味しくないでしょう?」

 二人からこっちを伺う様な、同情的な視線を向けられる。

「うーん、不味くは無いんだけどな。ただ、きちんと下味をつけないと。これじゃあこの肉本来の旨さを引き出す事は出来ないんだろうな」

 まあ俺は別に料理人って訳じゃないから、この肉を上手く扱える自信はない。
 誰か料理が得意で、この肉の旨さを引き出せる人にお願い出来ればいいんだけど、そんな人、都合よくいる筈が。

「あの、良かったら……」
「あ、そうだ! アミィに頼んでみよう!」

 アミィなら、日本で食べてた味を詳しく説明すれば、地鶏料理を再現してくれるかもしれない。
 そうだ、それがいい! 帰ったらアミィに相談してみよう。

「……アミィちゃんに、ですか?」

 俺がアミィに相談しようと考えていると、マリーが俺に尋ねてきたのだが、気のせいじゃなければ、機嫌が悪いような?

「え? うん、そのつもりだけど?」

 だってアミィなら毎日酒場で料理を作ってるし、安心して任せられると思う。
 俺がマリーにそう答えると、マリーは。

「そうですか……アミィちゃん、お料理上手ですもんね! カイトさんなんて、もう知りません!」

 それだけ言うと、自分の昼飯を食べるのに集中し始めた。
 え? 俺今怒られた? 何で?

「カイト君、君は天然だと言われた事はないかい?」
「天然? いや、そんな事はないけど」

 俺が混乱していると、隣に座るフーリに尋ねられたから、正直に答えた。
 確か覚えている限りでも、俺は天然なんて言われた事無い筈だ。

「そうか……」

 そんな俺に対し、フーリは短くそれだけ答えると、マリーと同様、自分の昼食を食べるのに集中しだした。
 ええ……二人共どうしたっていうんだよ一体。

 俺は腑に落ちないと思いながらも、そのまま昼飯を再開した。
 ……やっぱり味薄いな。

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