見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二話

 気配探知。

 これは自分の周囲にいる生物の気配を探るスキルだが、基本は奇襲対策なんかに使うのがセオリーだろう。でも、それをあえてこっちから攻撃を仕掛ける為に使うとしたらどうだろう?
 隠れて油断している敵に、逆にこっちから奇襲を仕掛けられるとしたら?

 正直今まで気配探知はあまり使ってこなかったが、こうやって使うのもアリだな。

「奇襲を仕掛ける為に気配探知を使うんですか? 面白い使い方ですね」
「だろ?」

 コーカトリの素材――ていうか肉は欲しいけど、だからといって俺が一人で勝手に奇襲を仕掛けるのは良くない。
 ちゃんと二人の意見も聞いておかないと。

「ふむ、悪くない手だ。この階層なら私の魔法も思う存分使えるし、いいんじゃないか? マリーはどう思う?」
「私もアリだと思う。どうせ放っておいても、その内向こうから襲ってくるだろうし。だったら先に奇襲を仕掛けるのには賛成かな」
「そうか、ならこの作戦で行くか」

 二人も俺の考えに賛同してくれたので、奇襲を仕掛ける事に決定。
 と、そんな事を考えていたら、早速気配探知に反応があった。
 距離はそこそこ近い。大体百メートルぐらいか? 場所は……あの茂みか。

「二人共、気配探知に反応があった。ここから大体百メートルぐらい先の茂みなんだけど、見えるか?」

 二人に気配探知に引っかかった対象の場所を、指差しながら伝えてみたのだが、伝わったか?
 俺はスキルで分かるけど、二人には見えないかもしれない。

「あそこか。分かった、戦闘準備をしよう」
「先手必勝って言いますし、私の弓で先に攻撃を仕掛けましょうか?」

 そう、思っていたのだが、そこは流石のフーリとマリー。このぐらいの距離、把握出来て当然だとでも言いたげだ。
 ていうか、二人はそもそも俺とは地力が違うんだから当然か。

 俺はストレージからオーガの金棒を取り出して右手に握り、茂みに意識を向ける。
 オーガの金棒は先日、ストレージの生産で修理済みだ。なので、現在は新品同様になっている。これなら無理してトレントの棍棒を使う必要もない。

「マリー、頼めるか?」
「分かりました。任せて下さい」

 マリーは背中に担いだ弓を手に取り、水魔法で氷の矢を精製すると、それを茂みに向けて放った。相変わらずマリーの氷の矢って便利だよな。
 弓を使うのに矢筒が要らないとか。

 茂みに向かって放たれた氷の矢は、途中で三本に分裂し、その全てが茂みを射抜く、と。

「ゴ、ゲェェェェ!」

 鶏を絞め殺したかのような声が辺りに響き、茂みから何かが飛び出してきた。
 それは真っ白な羽毛、真っ赤なとさか、黄色いクチバシを持つ、日本の標準的な鶏の姿をしていた。

 だが、あの特徴、間違いない。あれが噂のコーカトリだろう。
 コーカトリは胴体に三つの風穴を空け、よろよろと数歩程歩いた後、ドサリとその場に倒れ込んだ。

「は?」

 え? あのコーカトリ死んでね?
 俺がマリー達の方に視線を向けると、二人は油断する事なく、周囲への警戒を強めていた。

「気を付けろ、カイト君。コーカトリの厄介な所はここからだぞ」
「ん? 一体どう……?」

 どういう事? という言葉は続かなかった。
 気配探知に突然、かなりの数の魔物の反応が引っかかったからだ。
 この数、少なくとも五十以上はいるぞ!? 急にどうして!?

「さっきの悲鳴を聞きつけて、コーカトリの群れが集まってきたんです。これがコーカトリの厄介な所なんですよ」

 と、マリーが冷静に説明してくれたけど、よくこの状況で落ち着いてられるな。正直俺はかなり焦っているんだけど?

 なんなら、興味本位で奇襲を仕掛けようとか考えなければ良かったと、絶賛後悔中ですらある。

「大丈夫ですよ、カイトさん。幸いコーカトリ単体の戦闘能力は大した事ないので、油断せずに戦えば何も問題ありません。ちょっと数は多いですけど」

 いや、それが厄介なんだって言ってたよね? 本当に問題ないの?

「幸いまだ群れのボスは現れていない様だ。ボスに統率される前に、早めにケリをつけるぞ」

 フーリはそう言うと、近くにいたコーカトリに向かって横薙ぎの一閃を振るった。すると、それだけでコーカトリ三羽の頭が胴体とさよならバイバイする事となる。
 あれ? 何か思っていたほど強くない?

 試しに俺も近くのコーカトリに金棒を振り下ろしてみたら、コーカトリはそれを避けきれずに叩き潰されていた。
 えぇ、マジか。これなら何羽束になってきても問題ないわ。

 攻撃も、ただ真っ直ぐに突っ込んでくるだけで単調だし。威力もさほど強くない。強いて言えば速いぐらいか。
 これなら二人が落ち着いていたのにも納得だ。

「言ったでしょう? コーカトリはあまり強い魔物じゃないって。コーカトリの厄介な所は群れのボスに率いられた時なんですよ」

 言われてみれば、さっきフーリも「ボスに統率される前に」って言ってたな。

 その「群れのボス」とやらがどんな奴かは分からないけど、このままいけば群れのボスが出る前にケリをつけられるんじゃないか?
 そんな事を考えている時だった。

「っ!?」

 気配探知に突然何か大きな物が引っかかった。

「コーケコッコー!」

 そして突然響く、最早騒音と言って差し支えない程の大きさの、巨大な鶏の鳴き声。そのあまりのうるささに、俺達は思わず耳を塞いだ。

 すると、さっきまでバラバラに攻撃を仕掛けてきていたコーカトリ達が一斉に動きを止め、突然同じ方向に向かって駆け出して行った。
 その方向は、たった今巨大な鶏の鳴き声が聞こえた方向だ。そっちに視線を向けると。

「な、何だアレ?」

 そこには、体調五メートル以上はありそうな巨大な鶏が、コーカトリ達を侍らせて悠然と立っていた。

「出たな。あれがこの群れのボスだ」
「出来ればボスが来る前に、もう少しコーカトリの数を減らしておきたかったんですけど」

 と、二人は巨大な鶏を見ながら呟いた。
 アレがこの群れのボスか。確かに、アレはひと目で普通のコーカトリじゃないって事が分かる。

 太く逞しい足。どっしりとした胴体。真っ白に輝く羽毛。真っ赤な雄々しいとさか。鋭いクチバシ。巨大な体躯。
 まさに群れのボスに相応しい姿だと言えよう。だが、一つ気になる事がある。

「あんなに巨大なコーカトリ。今までどこに隠れてたんだ?」

 ていうかあの大きさで、隠れる場所なんてあったのか?
 この階層にそんな場所はないと思っていたけど、俺の思い違いか?

「カイト君、アレは元々あんなに巨大な姿をしている訳じゃないんだ。アレはスキル「巨大化」で大きくなっているだけで、普段は他のコーカトリより一回り程大きい程度の大きさしかない」
「巨大化……なるほど、巨大化ね」

 俺がボスコーカトリを見ながら隠れられる場所がないか探していると、フーリが俺の疑問に答えてくれた。
 巨大化か。ていう事は、あの個体はスキル持ちっていう事になる。

 つまり、巨大化のスキルを持って生まれた個体が成長して、次の群れのボスになるって事か?
 それとも群れのボスになったから巨大化のスキルを習得したとか?

「コッコ……コケェェェェ!」

 と、今はそんな事を考えている場合じゃないか。
 ボスコーカトリの声を合図に、コーカトリ達が俺達に向かって一斉に飛び掛かってきた。

 俺はそれを迎え撃つべく、金棒を横薙ぎに振るったが、それをコーカトリ達は上下に分かれる事で躱し、俺の金棒はそのまま空を切った。

「躱した!?」

 さっきまで攻撃を躱すなんて器用な真似はしてこなかったのに。
 と、今度はコーカトリの突進が俺に迫ってきたので、慌てて金棒を構えて迎え撃つが。

「重っ!」

 さっきまでとは比べ物にならない威力に、思わずそんな言葉が漏れる。
 それを何とか受け切り、逆にカウンターを決めようとしたが、コーカトリはそれを素早く躱し、またしても俺の金棒は空を切った。

 何だこいつら? 急に動きが良くなった?

「気を付けろ、カイト君。群れのボスに統率された今のコーカトリは、さっきまでとは比べ物にならないぞ」

 と、声がした方を見ると、フーリがコーカトリの攻撃を受け流しながら、流れるようなカウンターでその首を切り落としている所だった。

「相変わらず凄い腕だな、フーリは」

 俺も負けてられないな。と、その時だった。

 ……フッ。

 ボスコーカトリが、俺の方を見て、鼻で笑った気がした。

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