見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

四十五話

 陛下が言う勇者以外。それはつまり、私達三人以外って事? 一体何の為にそんな事を言うのだろうか?
 突然の陛下の言葉に混乱しているのは、どうやら私達だけではないみたいだ。

 周囲を見回すと、謁見の間に集まっている貴族の人達も混乱している様で「どういう事ですか?」「何故、勇者様方だけ謁見の間に?」「国王陛下万歳!」と、困惑に包まれている様だ。

 若干関係ない言葉が混ざっていた様な気がするけど、気にしたら負けね。

「聞こえなかったか? 私は退出せよと命じたのだ。それとも、何か異議でもあるのか?」

 陛下の問い詰める様な言葉に、言葉を詰まらせる貴族達。陛下の言葉は決して威圧的ではない。
 でも、有無を言わせない程の圧力の様な物を感じる。これがこの国のトップ。ルロンド王国も国王陛下。

 陛下の言葉に最初は戸惑っていた貴族達だが、次第に一人、また一人と、徐々に謁見の間から退出していき、最後には陛下と私達三人、そしてセバスチャンさんだけが残った。
 あれ? セバスチャンさんはいいの?

「セバス、私は勇者以外退出せよと命じた筈だが?」
「ほっほっほっ。ご冗談を。陛下一人で勇者様方と話をするなど、何をしでかすか分かった物ではありませんからな」
「ふっ、減らず口を」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないわ!」

 ん? 何だか陛下の口調が……。
 私と同じ事を思ったのか、御剣君と橋本さんも訝し気に首を傾げている。

「さて、まずは謝罪からか。すまんな、俺達の都合で勝手に呼び出したりして」
「「「!?」」」

 突然頭を下げる陛下の姿に、思わず言葉を失う。
 まさか一国の王が、こんな簡単に頭を下げるなんて。ふとセバスチャンさんの方を見ると、額を抑えて天を仰いでいた。

「陛下。あなたは一応この国の王なのですから、もっと威厳ある態度でですねぇ」
「何言ってんだ? 俺達の都合で勝手に呼び出したんだから、謝るのは当然の事だろうが。という訳だ。流石に貴族連中の前で頭を下げる訳にはいかねえからな。この通りだ」

 尚も頭を下げ続ける陛下。
 そんな陛下相手に、私達はどう対応すればいいのか分からずオロオロとするばかり。
 こういう時はどうすればいいのかしら。

「頭を上げて下さい、陛下。私はむしろ感謝してるぐらいなんですから」

 考えた末に、私は逆に陛下に感謝している旨を伝えるという選択をした。
 そう、私は怒るどころか、この世界に……兄さんがいるであろうペコライがある世界に呼び出してくれて本当に感謝しているのだから。

「そ、そうですよ! 僕達、別に怒っていませんから!」
「そうですそうです! だから頭を上げて下さい!」

 そんな私の言葉に、御剣君と橋本さんも、これ幸いと乗ってきた。
 けど、二人も即答なんてね。普通はもっと怒ってもいいと思うのだけれど。二人にも何か特別な事情でもあるのかしら?

 それとも単に場の空気に耐えられなかっただけ?
 後で聞いてみようかしら?

「お、そうか? いやあ良かった。こっちの都合で呼び出して、てっきり怒っているとばかり思っていたが、それを聞いて安心したぜ!」

 私達の返答を聞いて一安心したのか、陛下はニッと笑って返してきた。いや、この人謁見の時とキャラ変わり過ぎじゃない 

「それと、今この場には俺とセバス、そしてお前ら勇者の五人しかいないからな。堅っ苦しいのは無しで頼むぜ」
「は、はあ。そう、ですか?」

 いや、堅苦しいのは無しって。一国の王が言うセリフ?

「陛下。いきなりそれは、流石に難しいかと思いますが」
「ん? そうか? お前ら、難しいか?」
「「「えっ?」」」

 せっかくセバスチャンさんがやんわりと止めてくれたのに、まさかのこっちに飛び火するの?

 ここは何て答えるのが正解? チラッとセバスチャンさんの方に視線を向けると、無言でコクリと頷くセバスチャンさん。
 それに私も無言で頷いて返し。

「そうですね。流石に、完全に砕けた態度は難しいかと思います」

 と、無難に答えておいた。
 するとセバスチャンさんは、私の答えに満足したのか、無言で頷いていた。
 良かった。どうやら間違いじゃなかったみたいね。

「そうか。なら無理強いはしない。好きに話してくれ」
「「「はい」」」

 私達は三人同時に返した。別に示し合わせた訳でもないのに、綺麗にハモったのは驚いたけど。
 と、それはまあどうでも良いとして。

「それで、陛下が私達三人だけを残した理由はなんでしょうか?」

 何故あのタイミングで私達だけを残したのか。それがどうしても気になってしまう。
 余程他の人間には聞かれたくない話をするのか。或いは見られたくない物でも見せるつもりなのか。

 それとも、実は私達の存在が邪魔で、極秘裏に始末してしまおうと考えているのか。まあ今のやり取りを見る限り、この線は限りなく薄いだろうけど。

 色々と理由は浮かんでくるけど、陛下の口から出た言葉は、私の予想の斜め上を行くものだった。

「理由? そんなもん特にねえよ? 強いて言えば、お前らに個人的に興味が湧いたからだ」

 興味が湧いた。たったそれだけの理由で、私達を残したっていうの?

「まあ正確には、お前に、だな」

 そう言って陛下は、私の事指差した。

「私に、ですか?」
「そうだ。確か近衛光だったか。お前さっきペコライの事聞いてきたよな? 何でペコライの事知ってんだ? 城の誰かに聞いたのか?」
「いえ、えっと」

 これは何と説明すればいいのかしら? 夢で見たって正直に話すか、それとも適当に誤魔化すか。
 正直、夢で見たなんて言っても信じて貰えるかどうか。最悪頭の心配をされかねない。

 でも、陛下のあの目。下手に誤魔化してもすぐに見抜かれそうだし……。

「実は、この世界に召喚される前、夢を見まして」

 少し考えた末、正直に話す事にした。
 別に隠す意味も無いし、逆に隠していた方が後々バレた時に面倒な事になりそうだから。

「夢だと?」

 夢で見たというと、案の定陛下は眉根を寄せ、怪訝そうな表情になった。

「はい、夢です。その夢で私は、たった一人の家族……半年以上前に行方不明になった兄が、ペコライで冒険者として活動している姿を見ました」
「ほう。それは間違いなくペコライなんだな?」
「はい。この世界のペコライが、私の知っているペコライなら間違いありません」

 夢の中であのマリーという女の子は、あの街の事を「ペコライ」と呼んでいた。それは間違いない。
 でもまあこんな話、普通は信じられないわよね。

「その話、もっと詳しく聞かせてくれないか?」

 しかし、そんな私の予想とは裏腹に、陛下は興味津々と言った感じだった。
 自慢じゃないけど、自分でもおかしなことを言っている自覚ぐらいはあったのだけれど。
 しかし、詳しく聞かせてくれという陛下の言葉を無下には出来ない。

 私は橋本さんと御剣君、セバスチャンさんに注目される中、陛下にこれまでの事について話し始めた。

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