見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十六話

 橋本さんの案内の元、御剣君の部屋に着くと、丁度御剣君が部屋から出て来る所だった。

「おや? 早かったですね」
「はい、特に用意する物も無かったので」
「ははっ、まあそれもそうですね」

 御剣君はそう言いながら、私の方に顔を向け。

「改めて自己紹介しておきますね。僕の名前は御剣圭太。十七歳、高校生です。よろしくお願いします」

 と、軽く会釈しながら挨拶をしてきた。
 良く出来た高校生ね。流れる様な挨拶からの、相手を不快にしない爽やかな笑み。
 思わず感心してしまった。

「私は近衛光。二十二歳の大学生です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 私もそれに応える様に挨拶を済ませると、御剣君は少し考える様な仕草を見せた。
 あれ? 私、何か変な事を言ったかしら?
 もしかしてさっきの件、実はまだ納得してなかったとかかしら?

 まあ確かに、猫が人間に変身するなんて普通は信じられる筈ないもんね。
 さあ、どう説明しようかしら?

「近衛さん。僕の方が年下なんで、タメ口で結構ですよ?」
「え? ああ、何だその事ね」
「その事とは?」
「いや、こっちの話。それじゃあこれから敬語は使わない。これからよろしくね」
「はい、こちらこそ」

 御剣君が手を差し出してきたので、それを握り返して握手をする。
 良かった。ユキの事を深く聞かれなくて。

「あ、それなら私も。光さん、私も御剣君と同い年なので、敬語は必要ありませんよ」
「え? 橋本さんも?」

 ていうか、この二人って実は同じ学校の同級生だったりするのかしら?
 何というか、二人共会って間もないとは思えない感じなのよね。雰囲気とでもいうのかしら?

 御剣君は結構誰とでもすぐに打ち解けそうな感じはするけど、橋本さんはどちらかと言うと人見知りしそうだし。

「分かった。それじゃあ改めて、これからよろしくね、智子ちゃん」
「はい、よろしくお願いします、光さん」

 私は二人と改めて挨拶を済ませ、御剣君に声をかけた。

「所で、国王様との謁見って、どこでするの?」
「謁見ですか? 確か「謁見の間」とかいう所でやるらしいです」

 謁見の間。そのまんまの名前ね。まあどんな名前でも別にいいけど。

「それじゃあ、実際に行って確認しましょうか」

 そう言うと、御剣君は私達の前に立ち、先導するように歩き始めたので、私達もそれに続いて歩き始めた。



 私達が謁見の間に着くと、扉の両サイドに二人の兵士と、執事服に身を包んだ初老の男性が扉の前に立っていた。

「お待ちしておりました、勇者様方。本日より皆様のお世話役を仰せつかりました、執事のセバスチャンと申します」

「「「ぶふっ!」」」

 私達三人は、同時に吹き出した。
 いや、執事のセバスチャンって。あまりにもベタ過ぎない?

「どうかされましたか?」
「「「いえ、別に!」」」

 これまた三人同時に話を誤魔化した。
 だって、流石に「ベタな名前していますね」なんて言える訳も無いし、これは仕方がない。

「それでは、皆様にはこれから国王陛下と謁見をして頂きますが、あまり気負い過ぎませんように。皆様が異世界から召喚されたばかりだという事は、皆様充分理解されていますので、余程無礼な事を言わない限りは問題ありません」

 セバスチャンさんは、柔和な笑みを浮かべて私達の事を気遣ってくれる、とても良い人の様だ。

「それでは、私の後に着いて来て下さい」

 セバスチャンさんがそう言うと、扉の両サイドに控えていた兵士の人達が、謁見の間の扉を開いてくれた。

 セバスチャンさんに続いてそのまま中に入ると、そこには真っ赤な絨毯が敷かれており、その両サイドにずらりと並ぶ、見るからに高価な服を身に纏い、背筋を伸ばす貴族然とした人達。

 そして、絨毯が伸びるその先には、頭に王冠を乗せた三十代前半ぐらいの男性が一人、豪奢な椅子に腰かけていた。
 多分、あれが国王様でしょうね。

「うわぁ、なんだかすごいですね。私、緊張してきちゃいました」
「ええ、そうね。両側に立っている人達はこの国の貴族か何かかしら?」

 周囲に聞こえない様に、小声で智子ちゃんとやりとりをしているけれど、これは確かに緊張する。

 そのまま進んでいると、セバスチャンさんが国王陛下の少し手前の位置で立ち止まったので、私達もそれに合わせて歩みを止めた。

「陛下、召喚勇者の方々をお連れしました」
「ふむ、ご苦労。私はルロンド王国国王、ギルガオン・K・ルロンドである。歓迎するぞ勇者諸君」

 セバスチャンさんに一言声を掛けた後「ニカッ」と野性的な笑みを浮かべながら歓迎の言葉を述べる国王様……いや、国王陛下か。
 短く切り揃えられた茶髪と、服の上からでも分かるぐらいの筋肉質な体。

 玉座に座っている為正確な事は分からないが、少なくとも百八十以上はありそうな身長は、王というよりも戦士という言葉が似合いそうだ。
 何だか想像していた国王様と大分雰囲気が違う。

「お招き頂き光栄です、陛下。私の名前は近衛光と申します」

 ここは一番の年長者である私が率先しないとね。

「私は御剣圭太といいます。お招き頂き光栄です、陛下」
「わ、私は橋本智子といいます。よ、よろしくお願いします!」

 私に続いて御剣君、そして智子ちゃんがそれぞれ挨拶を済ませ、国王陛下の次の言葉を待つ。

「うむ。今日集まって貰ったのは、私とこの国の貴族、そして勇者諸君の顔合わせの為。そして、一月後に行われる勇者歓迎パレードの打ち合わせの為だ」

 やっぱりこの人達はこの国の貴族だったのね。でも「勇者召喚パレード」? というのはいったい?

「陛下、勇者歓迎パレードとは?」
「ん? おお、そうであったな。まずはその説明をせねば。セバスチャン」
「はっ。かしこまりました」

 陛下がセバスチャンさんの名前を呼ぶと、その声に応え、私達の方を向き。

「勇者召喚パレードとは、此度の勇者召喚で召喚された勇者――つまり皆さんを、文字通り歓迎する為のパレードでございます。これは国民への勇者様の顔見世の意味もございますので、七日七夜かけて盛大に行われる予定でございます」
「と、いう訳だ。何か質問はあるか?」

 陛下の言葉に、私達は顔を見合わせる。ずいぶんざっくりとした説明だったけど、特に分からない所とかは思い浮かばない。というより、もっとこの世界の事を知らなければ、質問も何もないと思う。

 それなのに、いきなり質問と言われても、特に何も思いつかない。
 そしてそれは二人も同じようで、特に何か質問をする事も無い様だ。
 それを見て「特にないです」と言おうとして、ふと思いついた。

「そういえば」
「うん? 其方は確か、勇者ヒカリだったな」
「はい、陛下。パレードについてではないのですけど、一つ質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 私の言葉に、陛下は少し驚いた様な顔をしたが、それもほんの一瞬の事で、すぐに元の表情に戻り。

「申してみよ」
「ありがとうございます。それでは陛下、この国に……いえ、この世界にペコライという街はありますか?」

 そう質問すると、周囲から小さなざわめきが起こった。

「ペコライだって?」「城の者に聞いたのでは?」「勇者様方は召喚されたばかりの筈」「何故ペコライなのだ?」

 周囲からはそんな言葉が聞こえてくる。
 これは、不味かったかしら?
 そう思い、陛下の顔を見ると、陛下は目を丸くして驚いていた。

「皆、静粛に」

 陛下の言葉に、それまでざわめきだっていた貴族の人達はすぐに静かになっていった。流石は国王陛下、という事なのかしら。

「ふむ、ペコライならルロンド王国の最北端に存在しておるが、何故其方がペコライの名前を知っておるのだ? 城の者にでも聞いたのか?」
「っ!?」

 陛下が何か私に尋ねているが、今の私にはそれに応えるだけの余裕がない。
 ペコライが存在する。それはつまり、あの夢は現実で、兄さんがそこにいる可能性がグッと上がったという事。

 そして、私は運良く兄さんと同じ世界に転移する事が出来たという事だ。

「どうした、勇者ヒカリ? 何を笑っておるのだ?」
「え? 笑っている? 私がですか?」
「そなた以外に誰がおるというのだ?」

 陛下に言われ、自分の頬に手を当ててみると、確かに口角が少し上がっている様だった。どうやら兄さんの手掛かりを掴んだ事で、無意識の内に顔に出ていたみたいだ。
 でも、それも仕方がないわね。待ってて兄さん。もうすぐ会いに行くから

「申し訳ありません。なんでもありませんので、どうかお気になさらず」
「……ふむ、そうか。今は深追いはすまい」

 私が無難に返事をすると、陛下は何か思う所があるのか、それ以上追及してくる事はなかった。

「さて、他にはないか? 遠慮せずに何でも聞いてよいぞ」

 陛下が再び私達全員に視線を向けて質問を促すが、私はもちろん、智子ちゃんと御剣君も特にないのか、場が静寂に包まれる。

「ふむ、特に無い様だな。では、私からの話は以上だ。この場はこれにて解散とする。勇者以外の者は謁見の間から退出するように」

 静寂を破っての陛下の言葉。それはその場にいる誰一人予想していない言葉だった。

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