見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十七話

 誰も踏破した事がない洞窟。それを攻略してみたいと思ってしまうのは、男なら仕方がない事だろう。

 現時点では実力不足かもしれないけど、この果ての洞窟の踏破って奴を目標にして活動するのも面白いかもしれない。

「どうしたんですか、カイトさん? 急にニヤニヤしだして」
「え? 俺ニヤニヤしてたか?」
「はい、少し気持ち悪いぐらい」

 はっきり「気持ち悪い」と明言するマリー。その言葉のナイフに俺の心は軽くダメージを負ってしまった。
 どうやら溢れ出るワクワクを抑えきれてなかったみたいだ。

「悪い。実は今の話を聞いて、果ての洞窟の踏破を目標に活動するのもいいなと思って」
「え、この洞窟の踏破ですか?」
「ああ。だってまだ誰も踏破してないんだろう? そういうのってワクワクしないか?」

 男心をくすぐるというか。
 いや、命がかかった冒険者業でワクワクするっていうのは不謹慎なのかもしれないけれども。でも、仕方がないじゃないか。冒険は男のロマンなんだから。

「……かる」
「え?」

 俺が「冒険は男のロマンだ」的な事を考えていると、フーリが何かを呟いたのが聞こえてきたが、イマイチよく聞き取れなかった。

「なあ、今何て……」
「分かるぞカイト君! 未踏破の洞窟、ダンジョン! それらを踏破したいという気持ち、私にはよく分かる!」
「うぇ!? ちょ、ちょい、フーリ!?」
「ね、姉さん!?」

 何て言ったか聞き返そうとすると、突然目を輝かせ、俺の両手を掴んで同意するフーリ。

「まだ見ぬ階層、まだ見ぬ素材や鉱石、それにレアアイテム! それらを自らの手で開拓し、見つけ、手に入れる。これ程心躍る事など他に無いからな!」

 俺とマリーの驚きの声も届いていないのか、フーリは未踏破の洞窟やダンジョンについて語り出し始めたが、今の俺にはそれに応えられる程の余裕はない。
 何故なら。

「フ、フーリ!? 当たってる! 当たってるから!」

 フーリの胸元に寄せられた俺の手は、形のいい二つの山に当たっていた。
 いや、フーリは普段依頼に出掛ける時は軽鎧を身に付けているから、性格には鎧の上からだけど、そんなの関係ないんだって!

「ん? 当たっている?」

 俺の言葉にフーリはキョトンとした顔をし、今の様子を確認しだした。
 両手を掴まれる俺。それを胸元に寄せるフーリ。軽鎧越しに当たる俺の手。

「……ふむ、鎧越しだからセーフだな」
「「セーフ!?」」

 俺とマリーの声が見事にシンクロする。
 いや、そりゃ確かに直に触った訳じゃないから、セーフと言えばセーフなのかもしれないけど、そんなあっさりと……。

「直に触られていたら、流石に私も困ったが、軽鎧越しだし、何より私がした事だからな。そんな事より今の話だ!」
「あ、はい」

 これは何を言っても無駄だと察した俺は、素直に話を聞く事にした。
 いやまあ軽鎧越しだから、金属の感触しかしなかったけど。それは女の子としてどうなんだろうか?

「はあっ、もう。姉さんったら」

 マリーの諦めた様な呟きが聞こえてきたが、それをフーリが気にする様子はない。
 初めてオーガと戦った時も思ったけど、フーリってこういうの好きだよな。所謂男のロマンという物を。

 その後、二層から三層に降りるまでの間、フーリに未踏破の洞窟やダンジョンについて熱く語られた。
 あ、もちろん手はもう放してあるからな?



「今までで一番洞窟っぽい件について」

 三層に降りた俺が最初に口にした言葉は、どこぞの掲示板サイトで出てきそうな言葉だった。
 いや、本当に今までで一番洞窟っぽいんだって。

 小石交じりのざらっとした質感の、泥とはまた違う地面や、岩肌の壁面、トンネルの様に続く通路は少し先で枝分かれしているようで、まさに「ザ・洞窟」といった感じだ。

「何か言いましたか?」
「いや、なんか今までで一番洞窟っぽいなって思ってな」

 特に二層が森の中という衝撃的な造りだった為、てっきり三層も変な造りになっているんじゃないかと疑っていたんだが。

「ああ、なるほど。確かに一層も二層も全然洞窟らしくありませんもんね」

 そう、二層だけでなく一層も石畳が敷き詰められた床と、ブロックを積み上げて作ったかのような壁と、人工的な空気が漂う階層だったからな。
 ちなみにあれは人工物ではなく、天然物らしい。

 そんな事ある? と考えてしまったが、魔法が存在する異世界だ。その程度の事は些末な問題なのかもしれない。

「三層はこういう感じの通路や広間が入り組んでいて、ちょっとした迷路みたいになってるんです。だから、迷子にならない様に気を付けて下さいね」
「ちなみにここは、例のロックリザードが生息するフロアでもある」
「ぶふっ!」

 マリーに言われ、改めて洞窟っぽいと思っていると、フーリから突然爆弾を投下され、思わず吹き出してしまった。
 ロックリザードと言えば、前にマリーが殴り殺したという魔物だった筈だ。

「姉さん! その事はもう忘れてよ!」

 マリーにもフーリが言わんとしている事が伝わったのか、顔を赤くしてあたふたとしながらフーリに詰め寄っていた。

 まあ後衛で魔法使いでもあるマリーがロックリザードを「殴り殺す」など、普通はあり得ない話なのだろうからな。

「いや、忘れないな。何ならマリーの武勇伝として語り継いでもいいぐらいだ」
「そんなに!?」

 それに対してフーリは、忘れるどころか武勇伝にするとまで言い出している。
 おや? と思ったが、すぐにその理由に心当たりがある事を思い出した。
 フーリの奴、さっきの「いい感じ」を地味に根に持ってるな。だからあんな事言って。

 一瞬「止めた方がいいか?」とも思ったが、別にこれで二人の仲が険悪になるとも思えなかった為、事の成り行きを見守る事にした。

「まあ今はそんな事は置いておいて、だ」
「そんな事で済ませないで!」

 マリーの叫びを軽くスルーし、フーリは俺に視線を向けてきた。

「さっきも言ったが、三層にはロックリザードが多く出現するから、今の内にロックリザードについて軽く説明しておこうか?」
「あ、ああ、頼む。でも、いいのかアレ?」

 マリーがこっちを見て何か言いたげにしているが、大事な話をすると分かっているからか、口を挟んでくるような事はしないみたいだ。
 すっごく不服そうだけど。

「ああ、大丈夫だ、問題ない」

 語尾に「キリッ」とでもつきそうな言い方だった。

「それでロックリザードだが、こいつを分かりやすく説明すると、とにかく硬い。それはもう、岩と戦ってるんじゃないかって程硬い」
「硬い、か」

 フーリが殊更硬いという言葉を強調している事から、相当硬いのだろうと推測される。それこそフーリが言う様に、岩と戦っていると思うぐらい。

「棍棒は……流石に折れるよなぁ」

 ストレージから棍棒を取り出し、それを手に取って眺める。
 岩と木。ぶつかり合えばどちらが強いかなんて火を見るより明らかだ。

「いや、シンの攻撃にも何発かは耐えてたし、もしかしたら……お?」

 棍棒とストレージを眺めながらそんな事を考えていると、ストレージ画面に「強化」と出ていた。
 それをタップしてみると、「トレントの棍棒」と出てきた。

「ん? トレントって……」

 そういえばさっき二層でトレントの素材と魔石を手に入れてたっけ。
 フーリの爆炎の練習ですっかり忘れていた。

「えーっと、必要なのは素材の方か。棍棒と、トレントの木材……トレントの木材? 何だそれ?」

 気になってストレージを確認してみると、トレントの死骸からトレントの木材が生産出来る様だった。
 とりあえず死骸を一つトレントの木材に変えてみると、五つ程生産出来た。

 それを使ってトレントの棍棒を生産し、取り出してみたのだが。

「え、気持ち悪っ!」

 取り出した棍棒を見て素で気持ち悪いと思ってしまった。
 トレントの棍棒は、見た目大して変わってないのに、何故か棍棒にトレントの顔が浮かんでいるという不気味な代物になっていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品