見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十話

 その日はそのまま宿に戻り、また明日ギルドで依頼を受けようとなった。
 スライム戦での疲れからか、俺達は賢者の息吹で夕飯をとった後は、そのまま部屋で爆睡してしまった。

 そして次の日。

「とりあえず、冒険者ギルドに行くとしようか?」
「そうだね。ついでに果ての洞窟関連の依頼も受けないと」

 フーリの提案にマリーが乗り、二人が俺の方に視線を向けてきた。
 俺はどうするのか、確認しているのだろう。

「俺も行くよ。果ての洞窟にも行ってみたいし。何より本物のミスリルを見てみたい!」

 日本――というより地球上どこを探したとしても、まず間違いなく存在しないであろう鉱石「ミスリル」。
 それをこの目で直に見れる折角のチャンスなのだ。これを逃す手はない!

「本当にいいんですか? カイトさんの防具だけなら、別に無理してミスリルを取りに行かなくても、ガンツさんの所ですぐに見繕って貰う事も出来るんですよ?」
「それでも、俺は二人に着いて行くよ」

 マリーが再度確認してくるが、俺の意志は変わらない。
 そういう意味も込めてマリーの言葉に答えた。

「無駄だ、マリー。カイト君のこの目を見てみろ。純粋な好奇心に満ち溢れているぞ?」
「……確かに。まるで新しい玩具を前にした子供みたいな目だね」

 二人は俺の目を見ながらそんな事を言うが、それ俺の事軽くバカにしてない?
 暗に、俺は子供だって言われているみたいで微妙なんだけど。

「ま、まあ、そういう事だから。あまり気にしないでくれ」

 若干不本意ではあるが、今は特に否定はしないでおこう。
 その方が都合が良さそうだ。

「まあ、そういう事なら別にいいんですけど」

 俺の言葉に、マリーは納得したかの様に頷き、俺達はギルドに着くまでの間、他愛ない雑談に花を咲かせた。



 ギルドに着くと、そこには見覚えのある金髪のイケメンがいた。
 確か花屋の……そうだ、ランさんだ!
 ランさんはリヤカーの様な物にいくつもの花を載せ、たった今ギルドに着いたといった雰囲気を醸し出していた。

「ふぅ……おや? あなたは確か、カイト・コノエさん、でしたっけ? それに氷炎のお二人も」

 ランさんは俺達の姿に気が付くと、額の汗を拭いながら声をかけてきた。
 ただ額の汗を拭っているだけなのに、様になってるなぁ!
 もしこれが俺なら、誰も見向きもしないだろう。だが、ランさんは違う。

 ランさんはただ汗を拭っているだけで、道行く女性たちの内何人かは振り返っている。
 くそっ、これだからイケメンは!

「ああ、花屋のラン君か。いつもご苦労さま」
「こんにちは」

 二人が各々ランさんに挨拶を済ませる。
 どうしよう、どう返そう?

 挨拶するか? それとも俺も労いの言葉を? 特に面識もないのに気さくに話しかけると引かれないか?
 頭の中を色んな意見が飛び交うが。

「あ、どうも初めまして。近衛海斗です」

 結局無難に挨拶をするだけになってしまった。
 仕方ないだろ。俺は元々そんなに喋る方じゃないんだから。
 むしろ今までは比較的話しやすい相手に恵まれていただけだ。断言できる。

 俺をパーティに誘ってくれたキノコジャンキーのマリーと、常識人だけど脳筋のフーリ。賢者の息吹の看板娘で明るく元気なアミィ。気難しそうに見えて、実は気さくなガンツさん。

 口は悪いが根はいい奴のヴォルフと、その幼馴染のロザリーさん。初心者狩りのモーヒさんに、受付嬢のエレナさんと、とても良い……いや待って、よく考えたらキャラ濃い人多くない?
 二人に一人は一癖も二癖もある様な人ばかりだ。

「どうしてこうなった?」
「ん? 何か言いましたか?」
「いえ、別に何も!」

 ランさんが不思議そうな表情で尋ねてきたが、俺はそんな事よりもっと重大な事に気付いた。
 マリーが笑ってないのだ。

 いや、表情は笑顔なのだが、目が笑っていない。
 全てとまではいかないだろうが、どうやら思考を読まれてしまった様だ。

「それより、ランさんはこんな朝早くにギルドに何の用で?」

 俺は話題を変えようと――まあ挨拶しかしてなかったが、ランさんが何をしに来たのか尋ねてみた。

「私ですか? 私は見ての通り、花の納品ですけど?」

 ランさんは当然の事の様に答えてきた。
 まあ確かに花屋がする事なんて、普通に考えれば一つしかない。

「それでは、私は仕事があるのでこれで」

 そう言うと、リヤカーの中からいくつかの花を手提げバッグの中に入れ、ギルドの中に入っていってしまうランさん。
 後に残される俺達三人。

「さあ、俺達もギルドに入るか!」

 早く依頼を受ける為にも。
 一刻も早くこの空気から逃げ出すためにも。

「「……」」
「冗談だって。この世界に来て右も左も分からなかった俺をパーティに入れてくれた二人には、これでも感謝しているんだから」
「カイトさん……」
「カイト君……」

 俺が照れ臭く感じながらも二人に感謝の意志を告げると、二人の視線は柔らかい物になった。
 確かに癖は強いけど、二人には感謝している。

 俺は若干の気恥ずかしさを感じながら、冒険者ギルドの扉を開いた。

「今回はそういう事にしておいてあげます」

 完全に許された訳ではない様だ。

「それで、今日はどんな依頼を受けるんだ?」
「そうだな。果ての洞窟の依頼なら、やっぱり鉱石採取系がいいだろう。討伐系なら、やはりオークの討伐が一番人気があるな。オークの肉は人気があるからな」
「……え?」

 オークって、もしかしなくてもあのオーク? あれを食べるのか?
 確かに見た目は豚みたいだし、肉も旨いのかもしれないけど。
 でも、アレを食べるのは絵面的にちょっと……。

「ん? どうしました、カイトさん?」

 俺が突然無言になった事を不思議に思ったのか、マリーが声をかけてきた。

「なあ、マリー。オークって食べられるの?」
「はい、食べられますけど? って、ああ、そういう事ですか」

 マリーは何かを察したのか、一つ頷くと。

「召喚勇者は、オークが食べられるって言われると、言葉を失うって聞いた事がありましたけど、本当だったんだすね」
「まあ召喚勇者ではないけど、俺達の世界の漫画……物語を読んでいると、オークが食べられるなんて思いもしないのは確かだな」

 だってオーク――というよりも、魔物全般は食べ物だという認識がない筈だ。
 異世界漫画を読んでいた人間程こういう認識があるんじゃないだろうか?

「そうか、カイト君は異世界人だったな。ならオークを食べるという習慣に戸惑うのも無理はない」

 フーリはうんうんと頷いて納得してくれた。
 二人共、俺の事情を理解してくれ……。

「なら今日の夕飯はオーク肉で決定だな」
「だね、カイトさんにオーク肉とオイ椎茸の組み合わせを味わって貰わないと」

 分かった上で食べさせようというのですね分かります。
 いや、確かにこの世界にいる以上、食べられるに越したことはないよ? 出来れば俺も早くこの世界の文化に馴染みたいと思っているし。

 でも、最初は心の準備という物が必要だと思う訳ですよ俺は。
 だが二人の中では既にオーク肉を食べる事で決定しているみたいだ。
 まあ見た目豚っぽいだろうし、きっと豚肉みたいな味がする筈だ。

「カイトさんもきっと気に入る筈ですから、一緒に食べましょうね!」
「……ああ。楽しみにしとくよ」

 満面の笑みでそう言われると、俺もそう答えるしかなかった。

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