見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十八話

 一回限定?
 一度失敗すると二度と同じ方法は使えなくなるって事よね?
 それってどんな……

【死んで異世界転移を……】
「ふざけんじゃないわよ!!」

 心からの叫びだった。そりゃ一回限定でしょうよ! 人間一度死んだら終わりなのよ! と、肩で息をしながら考えていたけど、ふと冷静に考えてみた。

 一度死んで異世界に転移? ならば何故このブログの主は、生きてこの世界でブログなんて書いているのだろうか?
 普通に考えれば、このブログが何の役にも立たない詐欺サイトだという事になる。

 だけど、もしもここに書かれている事が全て真実だとしたら?
 もしかしたら兄さんは、事故に遭った直後に異世界に転移してしまったのかもしれない

 それなら、当時の状況にも説明がつく。
 見つからない兄さん。車の中に残された血痕。事故当時、確かに兄さんが乗っていたとしか思えない状況証拠。

 その全てに説明がついてしまう。
 でも、こんなオカルトじみた現象、本当に起こり得るものなのかしら?
 兄さんがいなくなって、自分でも気付かない内に気でも触れてしまったんじゃないか。

 そんな考えが脳裏をよぎるが、今はそんな事を考えるよりも。

「……とにかく続きを見ないと」

 このブログを最後まで読み進める方が重要だ。

【以上の二つが、運の絡む方法です。皆さんも運が良ければ、上の二つのどちらかの方法で異世界転移出来るかもしれませんね。それでは最後に、とっておきの、方法をお教えしましょう。お祈りも、命を賭ける必要もない、三つ目の方法です】

 その文章を見て、私は無言で先に進めた。

 これこそ私が求めていた物。
 最初は「いい情報が見つかれば儲けもの」ぐらいの感覚で見始めたブログだが、気付いたらどんどん先を促す様になっていた。

 何となくだが、この先に兄さんを取り戻す重要なヒントが隠されている気がする。
 そんな予感と共に、ブログを進める。

【この方法は至ってシンプルで、かつ分かりやすい方法です。その方法とは……】
「ほ、方法とは?」

 無意識に声が上擦る。

【スキルを習得する事です】
「……はい?」

 スキル? スキルって、ゲームでよく見るあのスキル?
 そんな物を習得しろと? この科学が発達した現代日本で? これから?

「……馬鹿々々しい。何がスキルよ」

 折角ここまで読み進めたのに、どうやら無駄骨で終わりそうね。
 それもそうよね。この現代日本で異世界転移だなんて、あり得ないにも程があるか。
 はぁー、時間を無駄にしちゃったな。

 そう思い、パソコンを閉じようとして、ふとさっきの夢を思い出す。
 明らかに日本どころか、世界中どこを探しても見つからない様な異形の生物と戦う兄さん。

 そして、地球上のどこを探しても見つかりそうにない人種の人達。そして冒険者ギルド。
 アニメや漫画の見過ぎだって言われてもおかしくない内容の夢だが、私にはどうしてもアレがただの夢だったとは思えない。

 もしもアレがただの夢じゃなかったとしたら? このブログの内容は私にとって、とても重要な手掛かりになるのでは?

「――ああっ、もう! 最後まで読めばいいんでしょ! 読めば!」

 結局私はこのブログを閉じる事無く、最後まで読み進める事を選択した。

【こんなバカげた話、信じられるかと思ってブラウザバックをしなかったそこのあなた】
「え、わ、私?」

 いや、これはあくまでこのブログをまだ読んでいる人間全員にむけた言葉であって、私個人に言っている訳ではない。
 それは分かっているのだけれど、つい反応してしまう。

【随分とハッピーな頭をしていますね。一度病院にでも……】
「やかましいわ!」

 なんなのこのブログは! 人の事おちょくってるの 
 いやいや、たった今このブログを最後まで読むと決めたばかりじゃないの。
 ここで取り乱してはいけない。落ち着くのよ光。冷静になるのよ。

 すぅ、はぁ……よし!

【ですが、そんな皆さんだからこそ、私もこの方法をお教えしたいと思います。お待たせしました。スキルを習得する方法です】

 そうそう、それよ! 私が知りたかったのはそれなのよ!
 ようやくこのブログを読み続けた意味が、少しだけ出て来たみたいね。

【この世界でまともにスキルを習得する方法は、残念ながら存在しません。ですがご安心を。私ならその問題を解決出来ます】

 この世界でスキルを習得出来ないと聞いて、流石に本気でキレそうになってしまったけど、そこは流石にこのブログの主にも考えがあるようだ。

【この世界でも、魔導書を使えばスキルを習得する事が出来ます。幸い私は魔導書を作り出す技術を持っておりますので、このブログを最後まで読み進めて下さった皆さん限定で、魔導書を販売させて頂こうと思います】

 ……何だか怪しくなってきたわね。
 魔導書を販売? しかもこのブログを最後まで読み進めた人限定? 何それ、新手の詐欺の一種かしら?

 そう思ってしまう程、胡散臭さが際立っている。

【そこのあなた、今胡散臭いと思いましたね?】
「いや、普通そんな怪しい通販番組みたいな事書かれていたら、誰だって胡散臭いと思うに決まってるじゃない」

 ただでさえ、このブログが既に胡散臭さの塊みたいなものなんだから。

【では、そうですね。実際に私が転移した異世界について少しだけ語りましょうか。異世界がどういう所かが分かれば、少しは皆さんにもこのブログを信じてみようという気持ちが生まれる事でしょう】

 ……確かにそれは一理あるかもしれない。異世界と一括りに言われても、そこがどんな所なのか。更に言えば、兄さんが本当に異世界にいる可能性があるのか。
 もし兄さんが異世界にいなければ、そもそもスキルなんて覚える必要性すらないのだから。

【詳細は省きますが、異世界転移する直前、私は交通事故で死んだ筈でした。ですが、とある方の力で私は十歳も若返り、ガイアーラと呼ばれる異世界に転移させられたのです】
「とある方?」

 とある方というのが誰の事か気になったが、残念ながら詳細は省いてあるみたいだ。

【その世界の文明は中世ヨーロッパ風で、多種多様な人種が存在していました】
「確か夢の中の兄さんもそんな世界にいた筈よね。これは単なる偶然?」

 さっき私が調べたサイトのほとんどが、似た様な事を書いていた。

 どこも自分の妄想を書き殴った様なサイトばかりだったけど、そのほとんどが共通して「中世ヨーロッパ風の世界」と書いていたし、エルフだの獣人だのという多種族の存在を示唆していた。

【私が最初に訪れた街ペコライも……】
「ペコライですって!?」

 予想外の単語の出現に、私は声を上げて驚いた。
 これは偶然? 夢の中の兄さんも、マリーという女の子に連れられてペコライという街を訪れていた。

 偶然名前が同じ? それとも私が聞き間違えただけで、兄さんが訪れた街は実はペコライじゃない、別の名前の街だった?
 その可能性もある。あるのだけど。

 もし、このブログ主のいう異世界と、夢の中の兄さんがいた世界が同じ世界なのだとしたら。

「これはもしかして、当たりかしら?」

 今日、何かが進展する。そんな予感を胸に秘めながら、私はそのままブログを読み進めた。

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