見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十五話

「来たか、カイト君。早速だが、これがスライムの魔石だ」

 俺とマリーが三人に合流すると、先にスライムの魔石を回収していたのか、フーリが魔石を俺に差し出してきた。

「ああ、ありがとう。でも、ヴォルフ達も一緒に戦ったのに、俺達が貰っても良いのか?」

 スライムは俺達五人で狩ったのだから、当然この魔石も五人の物という事になると思うのだが。

「それなら心配いらない。二人には私から話をつけておいた。この魔石は私達が貰っていいそうだ」
「そうなの、姉さん?」
「ああ、大丈夫だ、問題ない。そもそも討伐報告に使えればいい訳で、魔石自体に価値を見出す者はそうそういないしな」

 それは確かに。俺はスキルを抽出したり、魔導具の材料に出来るから欲しいけど、普通はそこまで固執する人はいないのだろう。

 それにしても、スライムの魔石は初めて手に入れる魔石だ。もしかしたらまだ見ぬ新しいスキルが付与されているかもしれない。
 場合によってはスキル習得も視野に入れたいが、その時はまた二人に相談しないとな。

「とりあえず何のスキルが付与されているか確認してみるか」

 ストレージに魔石を収納し、スキル抽出画面を開き、スライムの魔石を選択する。
 するとそこには「自己再生」「酸魔法」「物理耐性:大」の三つが……。

「いや、酸魔法って何!?」
「うわ! びっくりしたぁ」
「急にどうしたんだ?」
「あ、ごめんごめん、つい」

 あまりに予想外の出来事に、つい声を上げて驚いてしまった所為で、二人まで驚かせてしまったらしい。

「おい、どうかしたか?」
「何か問題でも?」

 いや、二人だけじゃなかったみたいだ。

「悪い悪い、何でもない!」

 近くにいたヴォルフとロザリーさんまで驚かせてしまったらしい。
 一応フォローを入れておくと「そうか?」と一言だけ返ってきて、また二人で話し始めた。

「まあここじゃあなんだから、帰ったら話すよ」
「それもそうだな。とりあえず今日の依頼分は終えているし、少し早いが帰るか?」
「そうだね。一応ロザリーちゃんにも確認を……」
「何だ? もう引き上げるのか?」

 マリーがロザリーさんに確認をしようとすると、ヴォルフ達の方から話しかけてきた。
 こっちの話聞いていたのか。

「ああ、少し早いけど、もう引き上げようかと思うんだが」

 ヴォルフとロザリーさんも一緒にパーティを組んでいるのだし、二人の意見も聞いておかないと。

「私は構いませんよ。もう目的は達したので」

 ん? 目的? 二人の目的って?

「カイトさん、アレですよ。さっき話した」

 俺が考えていると、表情に出ていたのか、ロザリーさんが補足を入れてくれたんだが、アレとは?
 少し考え、先程の会話が思い出された。

「……あ、ああ、アレか! って、えっ、アレ?」

 だが勘違いじゃなければ、さっきロザリーさんとは名前呼びの件しか話していない筈だ。って事は、必然的にそれになるんだけど、目的って本当にそれなの?

「あぁ? 何二人で盛り上がってんだよ?」
「え? あ、いや、別に何でも……」
「あ? 変なやつだな」

 訝し気な視線を向けてくるヴォルフに、俺は曖昧に返す事しか出来なかった。
 いや、だって俺の事を名前呼びしたいが為に一緒にパーティを組んだなんて、俺に一体どう返せってんだよ。

 まあ何はともあれ二人も特に異論はないとの事で、少し早いが俺達はペコライの街に帰る事にした。



「じゃあ私達はこれで。今日はありがとうございました」
「またねロザリーちゃん!」

 冒険者ギルドで報告を済ませ、ギルドの前でマリーとロザリーさんが互いに手を振り、別れの挨拶をしている中。

「……」

 ヴォルフは何か言いたそうな表情で俺の事を凝視している。
 いやいや、何か言いたい事があるなら言えよ。じっと見られている俺の身にもなってくれ。

「おいヴォルフ。カイト君に何か言いたい事でもあるのか?」

 俺がどうしようかと考えていると、フーリが助け舟を出してくれた。
 ありがとうフーリ! あのままじゃ別れるに別れられない所だった。

「あ? いや、あーっ……」

 しかしヴォルフの歯切れは悪い。
 二人で軽く話していたマリーとロザリーさんも、いつの間にか黙ってヴォルフの事を見ている。そして当然俺も。

 四人の視線がヴォルフに集まる。

「……ああ、もう! おい、カイト!」
「は、はい?」

 突然頭を掻き毟り、やけくそ気味に俺の名前を呼ぶヴォルフ。

「負けねえからな!」

 それだけ言い残し、ヴォルフは足早にこの場から立ち去ってしまった。
 後に残された俺達四人は状況に着いて行けずに呆けている。
 と、次の瞬間。

「はっ! ちょっ、ボルフ!? すみません、私はこれで! ちょっと、待ってよヴォルフ!」

 一足早く我に返ったロザリーさんが、慌ててヴォルフの後を追いかけて行った。

「……俺っていつヴォルフと勝負したっけ?」

 我ながら的外れな事を言った気がするが、どうしてもそれが気になったから聞かずにはいられなかった。

「いや、負けないっていうのは、多分そういう意味ではないと思うが」

 え、負けないって勝負に負けないって意味じゃないの?

「多分違うでしょうね」

 マリーまで違うという。
 勝負じゃないなら何に負けないというのだろうか?

「まあヴォルフにも色々思う所があるのだろう」
「ヴォルフさんって負けず嫌いだからね」

 二人にはヴォルフが言った「負けない」の意味が分かっているらしい。
 え、分かってないのって俺だけ?

「当のカイト君がこの調子では、ヴォルフも大変だな」
「だね。全然自覚がないんだから」

 そして何故か二人に呆れ気味な視線を向けられる俺。
 いやいや、二人して分かってるなら教えてくれよ。

 しかし、そんな俺の願いも空しく、二人はそのまま宿に向けて歩き出し、俺もそれに続いて歩き出した。
 解せぬ。



「あ! お兄ちゃん、おかえり!」

 宿に帰り着くと、アミィの元気な声と笑顔に出迎えられた。
 うん、いつものアミィだな。

「アミィ、ただいま」

 俺は近くまで寄ってきたアミィの頭を撫でながら返事を返した。
 俺が接する時ぐらいは、アミィの事を子供扱いしてあげよう。本来ならまだ沢山遊んでいる筈の年齢なんだから。

「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん!」

 俺が一通り撫でると満足したのか、顔を上げたアミィにお礼を言われた。

「あ、フーリさんとマリーさんもおかえりなさい!」
「私達はついでか?」
「酷いなぁ、アミィちゃん」

 ついでの様に扱われたフーリとマリーは、お返しとばかりに拗ねてみせているが、その口元は笑っている。

「いやいや、そんな事はありませんよ」

 そしてそれはアミィにも分かっている様で、二人に笑顔のまま返していた。

「あのね、お兄ちゃん。お母さん、今日はお昼ごはん全部食べてくれたの! 最近はほとんど食べられてなかったのに。これもお兄ちゃんのおかげだよ!」
「お、そうなのか。それは良かった」
「うん!」

 俺が渡した魔導具と治癒魔法でイレーヌさんが少しでも元気になったのなら、これ程嬉しい事はない。

「アミィ、イレーヌさんはやはり寝たきりなのか?」

 フーリが尋ねると、アミィは少し複雑な表情をして。

「そうですね。最近は自分で起き上がるのも難しいみたいだったんですけど」
「けど?」

 アミィの言葉にマリーが反応して聞き返した。

「いえ、今日のお昼は自分で起き上がって、ご飯も全部食べられてたんで、驚いてしまって」

 おお、いいじゃないか。
 もしかしたら活性化で正解だったのかもしれない。

「もしかしたら、このまま良くなるかも……なんて思っちゃって。解呪しないと無理だって分かってはいるんですけどね」

 こればっかりは何も言えない。
 変に期待させてぬか喜びでもさせたら……それはあまりにも残酷すぎる。

「ねえお兄ちゃん、今朝の魔導具って、結局何の魔導具だったの?」

 俺がそんな事を考えていると、アミィが俺に尋ねてきた。
 あれ? そういえば言ってなかったっけ?

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