見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十二話

 その後、賢者の森にて。

「はぁぁぁぁっ! 人間ロケット!」

 火魔法を使って地面すれすれを低空飛行し、推進力を利用したドロップキックをオーガの顔面に叩き込む。

「ガッ!?」

 俺のドロップキックはオーガの顔面に深々と突き刺さり、一瞬の内にオーガの生命を刈り取る事に成功した。
 思った以上に勢いがつき過ぎてしまったが、まあ結果オーライだろう。

「ふっ、またつまらぬものを蹴ってしまった」
「何言ってんだ、お前?」
「え? ああ、いや、別に何も!」

 いかんいかん、ヴォルフ達が一緒にいる事を忘れ、ついはしゃいでしまった。
 いや、人間ロケットってマジで楽しいんだって。
 自分の好きなように飛び回るのは、本当に「楽しい」の一言に尽きる。

「あ? 変なやつだな。にしても、その……」

 俺の人間ロケットについて深く言及せずに聞き流してくれたヴォルフだが、代わりに何か言いたそうな顔をしている。

「何だ?」
「カイ……お前の戦い方って、本当変わってるよな! まさかアイテムボックスをこんな風に使う奴がいるなんて、考えもしなかったぜ」

 まるで何かを誤魔化すかの様にヴォルフが指差すのは、先程オーガに向けて放った串マシンガンの弾――もとい串の山。
 ここ数日、俺はオーガとの戦闘で、条件反射で串マシンガンを撃つようになってきている。

 ダメだな。もっと色んな戦い方をしないと。このままじゃ戦い方が単調になってしまう。

「あれ、どうすんだ?」
「もちろん回収するぞ。折角の串が勿体ないし」

 使った道具はきちんと回収。コレ常識。場合によっては修復してしまう様にしている。
 素材さえあれば「合成」で修復出来るのだから、ストレージは本当に便利だ。

「……なあ、カ、カイ――「ヴォルフ、終わった?」っ!? お、おお! 今終わった所だ! じゃあまた後で合流すっから、しばらく休憩でもしていてくれ!」

 後ろからロザリーさんの声が聞こえ、ヴォルフは手を振りながらそっちに走っていってしまった。
 ていうか今、何か言いかけたよな?

「カイト君、そっちは終わったか?」
「ん? ああ、今終わった所。そっちは?」
「こっちも今終わった所です」

 顎に手を当て、ヴォルフが何を言おうとしていたのか考えていると、少し離れた所でゴブリンの群れと戦っていたフーリとマリーが近寄ってきた。

 まあ、一緒に戦っていた筈のロザリーさんがヴォルフに声を掛けていたのだから、二人の戦闘も当然終わっててるだろうけど。

「カイト君……君は一体どんな戦い方をしたんだ?」

 フーリが顔面に風穴を空けて倒れているオーガを見て、俺に訝し気な視線を向けながら問いかけてきた。
 いやいや、別に普通に戦っただけですよ?

「普通にオーガの顔面を蹴り抜いただけだけど?」

 俺がそう答えると、フーリは盛大な溜息を吐き、マリーは苦笑いを浮かべた。

「カイトさん。蹴り抜いたってだけって言いますけど、普通蹴りで顔に風穴は開かないと思いますよ?」
「そうか?」

 一つや二つぐらい簡単に開きそうなものだけど。

 例えば剣で顔を突き刺すとか……風穴って程の大きさじゃねえな。
 他にも、魔法で顔を打ち抜くとか……オーガの顔面を貫通して風穴を開ける程の魔法か。いや、これはありそうだぞ?

「それにさっき「人間ロケット!」って聞こえてきたんですけど?」

 俺の声を真似るマリーは、若干呆れ気味だ。あれ聞こえていたのか。

「……フーリも火魔法を使えるんだし、同じ事を――」
「私はそんな戦い方はしない」
「あ、はい」

 ピシャリと言いきられ、俺は何も言えなくなってしまう。
 便利なんだけどな、人間ロケット。

「でも、火魔法を利用して空を飛ぶ、か。その発想はなかったな」
「フーリもやってみるか? 使いこなすと結構楽しいぞ」

 自分の力で空を飛ぶというのは、存外に楽しいものだ。
 それに、戦闘にも応用が利く。別に人間ロケットをしろとは言わないけど、空を飛べて損はない筈だ。

「もし興味があるなら、コツとか教えるけど?」
「そうだな……いや、また今度にしよう。私は魔法の制御があまり得意ではないからな。複雑な魔法を使おうとすると、失敗して賢者の森を大火事にしてしまいかねない。大規模で大雑把な魔法なら得意なんだがな」

 フーリは魔法の制御が苦手との事で遠慮したが、正直意外だ。
 俺の中では、フーリは何でもそつなくこなすイメージがあったんだけど。

「魔法の制御なら、私よりマリーの方がずっと上手いぞ」

 フーリの言葉にマリーの方を見ると。

「まあ、一応後衛の魔法使いですからね。姉さんより上手い自信はありますよ!」

 マリーは胸を張って、自信満々に答えるが……うん、張る程の大きさは。

「カイトさん? 怒りますよ?」
「あ、はい、すみません」

 マリーに思考を読まれてしまったので、素直に謝っておいた。
 いやだって、圧が凄かったんだもん。
 今までの圧の中でもダントツだったわ。シンのプレッシャーより凄かったんじゃないか?





「それでヴォルフ、カイトさんの事を名前で呼べたの?」
「……うっせぇな。呼ぼうとしたらお前が声かけてきたんだろうが」

 コイツ――ロザリーがあそこで声をかけてこなければ、俺はアイツの名前を呼べていたんだ。俺は悪くねぇ。

「はぁ? まだ呼べてないの? カイトさんの事を名前で呼ぶって言ったのはヴォルフなのよ。折角二人で狩りが出来る様に協力してあげたのに」

 そうだ! こいつさっきは余計な事をしやがって!

「何が「男女別で狩りをしてみよう」だ。不自然過ぎるだろうが!」
「そう? 別に誰も怪しんでなかったわよ?」

 賢者の森に入ってすぐの事だった。
 ロザリーの奴が「折角だし、たまには男女別に狩りをしてみない?」とか言い出しやがったんだ。

 たまにはも何も、俺達がパーティを組むのは初めてだろうが!

 それをあいつ等、揃いも揃って「別にいい」だとか「面白そう」だとか「たまにはいいかも」だとか言って、全く反対しやがらねえ!
 少しは変だと思わねえのか?

「そんな事より、さっさと名前呼んじゃいなさいよ。カイトさんなら全然気にしないと思うわよ?」
「るっせーな。わぁーってんだよ、そんな事! だがな、何事にも段取りってもんがあんだよ!」

 今まで「ルーキー」としか呼んでなかったから、今更名前呼びとかやり辛ぇんだよ!
 だが、俺達が勝てなかったシンに勝ったアイツをいつまでも「ルーキー」だなんて呼ぶ訳にもいかねぇし。

「……ああ、もう! めんどくせぇ!」

 何でアイツの事でこんなに悩まねえといけねえんだ! もう知らん! 名前だろうが何だろうが呼んでやるよ!

「それよりロザリー」
「ん? 何?」
「お前のアイテムボックスで、あいつと同じ事出来るか?」

 あいつの戦い方は明らかに異常だ。どこの世界にアイテムボックスをあんな風に使える奴がいるってんだ?
 少なくとも俺は見た事も聞いた事もねえ。

「アイツって、カイトさんと? 冗談言わないで。あんな事出来る訳ないじゃない」
「だよな。やっぱりアイツがおかしいんだよな」

 そりゃそうだ。アイテムボックス持ちが全員あんな事出来んなら、俺も最初にアイツに突っ掛かったりしなかったしな。

「ねえ? カイトさんのスキルって、本当にアイテムボックスなのかな?」
「あぁ? どういう意味だ?」

 俺も今日近くで見ていたが、アレがアイテムボックスじゃないなら、なんだってんだ?

「何ていうか、アイテムボックスとはまた別のスキルに見えるっていうか。本当にアイテムボックスなのかなって……ごめん、何言っているか分からないよね」
「……いや、言いたい事は何となく分かるが」

 要はアイテムボックスによく似た別のスキルに見えるって事だろうが、言いたい事はよく分かる。
 むしろアイテムボックスじゃないと言われた方が納得出来るかもしれねえ。

「ま、何にしても――っ!! 後ろだロザリー!」
「え?」

 ロザリーの方に向き直ると、その場所――正確にはその頭上の木の上から、ドロリとした半液体状の生物「スライム」がロザリーの肩に乗り移ろうとしていた。
 ちっ、間に合え!

 スライムがロザリーの肩に乗り移る寸前、俺は何とかロザリーの肩を抱き、そのまま二人で転がりながら、その場を離れる事に成功した。

 次の瞬間、スライムはロザリーがいた場所にドサッと落下してきて、その場にあった物を「ジュゥゥゥゥ」という音を立てながら体内に取り込んで捕食していた。

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