見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十一話

 魔法って最高!

 あの後、俺は火魔法を使って中二病ごっこに勤しんだ。
 青い炎をイメージし、全身からゆらゆら立ち昇らせて「俺の本気を見せてやろう」とか、黒い炎をイメージして右手に纏わせ「くっ、沈まれ俺の右手」とかやってみた。

 マリーには「一体何をやってるんですか?」と呆れ半分に聞かれ、フーリには「炎に色を付けるのには何か意味があるのか?」と、素で聞かれたりもした。

 一応フーリには「黒はともかく、赤い炎より青い炎の方がより温度が高いから、意味ならあるぞ」と言っておいた。
 いや、これはマジです。

 それはさておき。リアル中二病ごっこが出来て大満足し、意気揚々と街に帰ろうとした時に、それは唐突に現れた。
 ズシンッという、力強い重低音の足音と共に。

「「「ゲギャギャギャッ」」」

 聞き覚えのある、嫌な笑い声を発する複数の魔物。この笑い声には聞き覚えがある。
 全身緑色の、所々にイボの様な突起がある、醜い鬼の様な魔物。依頼の討伐対象、ゴブリンで間違いない。間違いない筈なのだが。

「なあ、俺の気のせいかな? なんかゴブリンの群れの中に、巨人が一匹紛れてる気がするんだけど」
「残念ですが、気のせいじゃありませんね」
「ああ、帰り際になってようやく現れたと思ったら、まさかオーガまでいるとはな」

 やっぱり俺の気のせいじゃなかったみたいだ。
 オーガと呼ばれたその魔物は、全長三メートルはありそうな筋肉質の大きな体躯と、その体と同じぐらい大きな金棒を担いだ、鬼の様な魔物だった。

「っ!?」

 それを見て、俺は驚愕に目を見開いた。
 なんて事だ、あり得ない。信じられない。
 だって、だって……

「あの金棒、完全に俺の棍棒の上位互換じゃん! 嘘だろ?」
「いや、気にするのそこですか!?」

 咄嗟に構えた俺の棍棒とオーガの金棒を見比べ、がっくりと肩を落として落ち込んでいると、隣からマリーのツッコみが入った。
 いや、だって、魔物以下の武器とか悲しくない?

「しかし妙だな。こんな見晴らしの良い平原。オーガなんかいたらすぐに気づく筈なんだが。帰ったらその辺も含めて、ギルドに報告しないとな」

 確かに、言われてみればそうだ。普通あんなにデカい魔物に気付かない筈がない。
 ゴブリンは子供みたいな体格であまり大きくないし、気付かなかったとしても不思議ではないが、オーガは別だ。

「まあ理由はどうあれ、見つけた以上ここで始末させて貰う。丁度物足りないと思っていたところだ。マリー、カイト君。すまないが、ゴブリンの相手は任せたぞ。私はオーガを仕留める」

 そういうや否や、フーリは鞘から剣を引き抜き、オーガに向かって飛び掛かっていった。

「はぁぁぁっ! 爆炎!」

 上段から剣を振り下ろす瞬間、オーガがその攻撃を金棒で防ごうとした。が、フーリの剣が当たった瞬間、小規模の爆発が起こり、オーガは爆風と共に後方に吹き飛ばされてしまった。

「何アレ、カッコいい!」
「カイトさん、こっちもきますよ!」
「おっと、そうだった」

 こっちはゴブリンの相手に集中しなくては。
 数は全部で五匹。武器は持っていないけど、一斉に飛び掛かられると危ないな。
 ちらっと隣のマリーに視線を送ると。

「私がカイトさんに合わせてサポートしますから、自由に戦って下さい」

 だ、そうだ。最初から息の合った連携なんて出来る訳ないし、経験豊富なマリーにサポートして貰うのが無難か。
 どうでもいい事かもしれないけど、経験豊富って、なんかいやらしい響きがあるよね?

「カイトさん」
「サポート、お願いしますよ、先輩!」
「まったくもう、カイトさんは。分かりました、先輩に任せて下さい!」

 相変わらずの勘の良さを発揮するマリーに軽口を叩き、目の前のゴブリン達を見る。
 オーガがいきなりフーリに吹き飛ばされたのを見て、その仲間である俺達を警戒しているのか、ゴブリン達はなかなか攻めてこない。これはチャンスでは?

 物は試し。こんなのはどうだろうか? 一度棍棒をストレージに仕舞い。

「じゃあ、行くぞ! くらえゴブリン共!」

 両手の計十本の指先に、それぞれ小さな炎の玉が出来上がるのをイメージし、それをゴブリン共に向けて一斉に放った。名付けるなら「指先ピストル」だろうか? いや、正確には「指先ショットガン」か?
 どっちにしても、我ながらいいネーミングだ。

「ゲゲッ!?」

 それらはゴブリン達の体を掠めただけで、大したダメージは与えられなかった。が、それに驚いたゴブリン達は、各々バラバラに動き回り、散り散りになっていった。

 そして、これこそが俺の狙い。多対一が厳しいなら、一対一の状況を作ればいいじゃない。
 ということで、後は各個撃破だ。

 ストレージから再度棍棒を取り出し、近場のゴブリンから始末していく。
 一匹目は脳天目掛けて思いっきり棍棒を振り下ろし、二匹目は後頭部に叩きつける。二匹とも一撃必殺だ。
 そして三匹目に向かおうとしたその時。

「ゲェー!」

 いつの間にか後ろに回り込んでいたゴブリンが、俺に向かって飛び掛かってきた。
 不味いと思い、咄嗟に後ろを振り返り、両腕で防御しようとした時。

「させません!」

 マリーの声が聞こえてくるのと同時に、半透明の氷の矢が横から数本飛んできて、ゴブリンの頭を貫いた。

「サポートは任せて下さいって言いましたよね? さあ、残りは二体です。気を引き締めて下さい!」
「ああ、助かった!」

 ようやく落ち着きを取り戻した二匹のゴブリンは、自分達以外がやられてしまったのを見て、怒りに顔を歪めていた。
 だが、さっきといい、今といい、俺は不思議と怖いとは微塵も思わなかった。これは、成長しているのか?

「そうか。お前らはただのゴブリンだもんな」

 賢者の森で戦ったゴブリンは特殊個体、これは普通のゴブリン。比べるまでもなかったって事か。

「「ゲギャァァァァァァ」」

 ゴブリン二匹が怒りのままに突っ込んできたが、動きは単調。これなら二対一でも充分対処出来るな。

 一匹目の攻撃を、体をひねって躱し、二匹目は攻撃を躱すと同時に、頭に棍棒を叩きつける。ただそれだけで、ゴブリンはピクリとも動かなくなった。まあ、頭が潰れてるんだから当たり前だけど。

 そして最初の一匹は、マリーのアイスアロー(命名:俺)に全身を貫かれ、息絶えていた。うわぁ、えぐっ。

「ふう、お見事でした、カイトさ――って、何ですかその目は?」
「いや、べ、別にナンデモナイヨ」

 危ない危ない、またマリーの勘の良さが……いや、もしかして俺って顔に出やすいのか?

「それよりマリー、ケガはないか?」
「はい、というより、今回私はほとんど戦ってませんから」
「いや、そんな事は無いと思うけど?」

 現に二匹はマリーが仕留めた訳だし。
 それに、それとこれとは話が別だと思う。

「ふふ。心配してくれて、ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

 二コリと微笑み、お礼を言うマリーは、ドキッとしてしまう程かわいらしく、俺は顔が赤くなるのを感じた。

「そ、それなら良かった! あ、そうだ。フーリの方は大丈夫かな?」

 俺は赤くなった顔をマリーに気付かれないよう、フーリの方を見ながら話題を変えた。
 あのオーガはかなり強そうだったけど、フーリ一人で本当に大丈夫だろうか? もし厳しそうなら、援護しないと。
 そう思い、俺はフーリが戦ってる方に視線を向け……言葉を失った。

「ほら、お前の力はそんなものか? もっと頑張って見せろ!」

 金棒を根元から斬られ、左腕を失い、体中至る所から血を流し、所々焼け焦げ、膝をついて息も絶え絶えになった、瀕死のオーガと、汗一つ掻いていないフーリの姿があった。

 えぇ、一方的じゃん。オーガってそんなに弱いの?
 なんだか弱い者いじめの現場みたいになってるけど、相手は魔物なんだよなぁ。

「姉さん、今日はカイトさんもいるのに」
「なあマリー。フーリってもしかして普段からああなのか?」

 俺が尋ねると、マリーは恥ずかし気に俯く。

「はい。それなりに強い魔物と戦う時は、大体あんな感じです」
「そうか……」

 マジか。あれって絶対に戦いを楽しんでるよな? 見れば分かる。
 もしかしなくても、フーリってバトルジャンキーなのか?

「でも、あくまで対処可能な範囲内だけですからね。それに、普段はもっとまともなんですよ」

 いやまあ、確かにホーンラビットの時はすごく丁寧だったし、あっちの方が素なのだろうとは思うけど。

「やはりオーガではこれが限界か」

 フーリは剣を上段に構え、オーガの頭に一気に振り下ろした。対するオーガは満身創痍の体でフーリの剣を最後の瞬間まで見つめていた。

 体の真ん中から真っ二つになるオーガ。
 今(一方的な)戦いは終わった。



「すまない、こんな所でオーガと戦えるとは思ってなかったから、ついはしゃいでしまった」

 戦いが終わり、俺達がジーっと見ている事に気付いたフーリは、バツが悪そうに頬を掻きながらいい訳染みた事を言っているが、今のを「はしゃいだ」と表現するのは間違いなのでは?

「でも、この通り。私は全くの無傷だ。心配しなくてもいいぞ」
「うーん、確かにそうだな。ケガをしてないならいい、のか?」

 フーリも女の子だし、痕になる様なケガをしていないのが一番だけど。でも、そういう問題じゃない気がするんだけど。
 まあ、あまり深くは問うまい。

「さて、それじゃあカイト君、回収を頼めるか?」
「ああ、分かった」

 今倒したゴブリンとオーガの死体をまとめてストレージに仕舞い、残る魔石も同様に収納すると、さっきまでオーガの死骸があった場所に、ビー玉の様な物が落ちていた。
 あれ? これって……。

「鑑定」

 俺が鑑定を使うと、二人の視線が俺に集まった。それと同時に鑑定結果が出る。結果は……ですよね。

「えっと、オーガの魔核が出たんだけど」

 案の定、それはオーガの魔核だった。

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