誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

誘惑の延長線上、君を囲う。【1】

日下部君とは土日祝の休みの日も一日中一緒に居て、クリスマスも年末年始も一緒に過ごした。クリスマスにおいては高級ホテルのクリスマスディナーを予約してくれて、夜景の見える広い部屋にお泊まりした。年末年始は一緒に年越しそばを作って食べて、一緒のベッドで朝を迎えてから初詣に行った。

あんなにも悩んでいたのに気持ちを伝えた途端、歯車は動き出した。もっと早く、私から行動していたら……伊能さんも傷付けずに済んだのに。臆病な私は自己保身しか考えていなかった為、あんなに良い人を傷付けてしまった。

しかも、私の為に高額なお金も使わせてしまった。あの水色の小さな紙袋は女性の憧れのブランドだから、高かっただろうなぁ。私は受け取る事は出来ないけれど、使い回しみたいになってしまって元カノさんにもプレゼント出来ないだろうし……重ね重ね、私は失礼な事をした。後ろめたさを感じつつも、私は日下部君との日々を満喫していて、つくづく自分は嫌な女だなぁ……と思っている。

せめてもの罪滅ぼしに神様に伊能さんの恋路が上手く行きますように、と願うばかりだ。

さて、年明け二日目の今日はというと……、昨年の12月初めにお誘いがあった同窓会に二人で参加している。久しぶりに担任の先生や同級生達と会えて喜ばしい。

「琴葉と日下部君が一緒に来たって事は、まさか……!二人はできてる?」
「えー、こないだ会った時に琴葉は日下部君と連絡とってないって言って無かった?いきなりの急展開じゃん?」

担任の先生の挨拶と乾杯の挨拶が終わった後、同窓会の会場の居酒屋に二人で一緒に来た私達は同級生達の格好の餌食となっている。次々に質問攻めにされる私達。

私が学生時代から日下部君を好きだと知っている友人にも、一緒に住んでいることなどは一切伝えていなかった。知ってたのは親友ただ一人。今日は都合により来れなかった親友。日下部君との事は親友にだけは、言わずには言われなかった。楽しい事も苦しい事も共にしてきた親友だからこそ、全てを受け止めてくれている。

「えっとね、」と話をしようとした時に日下部君は間髪入れずに「俺達、近いうちに籍入れる事になったから」と言った。周りの皆は歓喜し、高校時代の担任の先生も喜んでいる。

「日下部と佐藤は本当に仲が良かったけど、お互いに恋愛感情じゃないのかな?と当時は思ってたんだ。教師という立場上、そんな事を口には出さなかったけどな。本当におめでとう!」

先生はうっすらと涙を浮かべていた。久しぶりに会う先生は白髪混じりになっていて、おじさんになっていた。高校時代の時は30代前半だったのにな。会わない年月は色んな変化がある。日下部君と私の関係性が変わった様に、皆も結婚して子供が居たり、出世していたり、既に離婚している同級生もいるみたいだった。

「先生、日下部はずっと佐藤に片思いしてたって知らなかったの?」
「それを言うなら、琴葉も片思いしてたよね!なのに、二人共、告白もしないで卒業しちゃってた!」

男性陣は日下部君側の事情を女性陣は私の事情をバラしていた。嘘でしょ?日下部君が私に片思いしてたなんて……!

「……っるせーな、黙ってろよ!そんな事は今更言わなくていーんだよ!」

日下部君は照れくさいのを隠す様にジョッキのビールを飲み干していた。

「今更隠す事でもないじゃん!日下部はいつも佐藤を目で追ってたし、佐藤も同じだった。気付いてないのは本人達だけだったんだよ!それなのに……お互いに素直じゃないから、そのまま何も無く卒業しちゃったくせに……今頃、結婚かよー!遅いんだよ!俺だって、佐藤狙ってたのによー。お前に遠慮してたんだぞー!」

同級生も酔いだして、日下部君と私に絡み出す。けれども争いになる訳ではなくて、皆が笑っていた。

「とにかくおめでとう!」
「琴葉、日下部君、おめでとう!結婚式、絶対に呼んでね!」

沢山の祝福を受け、同窓会は終了した。仲人は担任の先生になり、結婚式の段取りまで決めていた同級生もいた。

私達は二次会には参加せずに自宅まで帰る。冷え込んで寒い夜空の中、手を繋いで帰路を歩く。

「日下部君が高校時代、私の事を好きだった……って本当?」

酔った勢いで聞いてみる。

「んー?琴葉こそ、本当?」

「あー、ずるい!はぐらかした!」

私はずっとずっと好きだったよ。

「確かに好きだった。でも、あの頃に付き合ってたら……結婚してたかなぁ?素直になれないままで、喧嘩別れしてたかもしれないな。だから、遠回りしたけど……今の方が幸せになれるよな」

「そう、かもしれないね」

高校時代、私達は子供だった分、上手くいかなかったかもしれない。再会したきっかけは何にせよ、私達は一生を共にすると決めたのだから、どんな困難があろうとも幸せになるんだ、絶対に。

「っわ、何、いきなり、どうしたの?」

4階建て位のブラウン系の建物の前で、ヒョイッと持ち上げられ抱き上げられる。

「帰るのめんどくさい。ここに泊まろう」

ビジネスホテルかな?入口がガラス張りでオシャレなイメージ。外からエントランスが見える限り、照明も暗めでシックな感じがする。入口付近には休憩、とか宿泊とか書いてある!

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