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誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

日下部君の家族【5】

陽翔君は幼い頃に見た事があるが、その時は名前も知らない。

高校一年の時、男女入り交じりの仲良し友達何人かでの帰り道の出来事。アイスを買って食べながら歩いていた時、日下部君の義理のお母さんと買い物に来ていた陽翔君に偶然に会ったのだ。日下部君は気恥しそうにしていたけれど、まだ上手く言葉が話せなかった陽翔君は『お兄ちゃ、お兄ちゃ』と呼んで懐いていた。その時まで日下部君に弟が居るなんて知らなかったし、義理のお母さんだと言う事も誰も知らず。

日下部君は、義理のお母さんが自分達よりも10歳位上の、言わばお姉さん的な存在だった事と、年の離れた小さな弟が居る事がバレるのが嫌で友達同士にも隠していた。日下部君は茶化されたりすると思っていたが、誰もそんな事はせずに陽翔君が可愛いと撫で撫でしたりして可愛いがった。それからは私達に陽翔君の事や家庭の事情を少しずつ話してくれて、私達は更に打ち解けた気がした。

幼い頃に見た陽翔君がこんなに大きくなったとはね。その下にも愛音ちゃんという妹も居たし……。時の流れと共に知らない事実も増えてくる。

「そうだ、お兄。有澄君は元気?有澄君の彼女にまたデザインを見て欲しいんだよね……」

有澄君の彼女?……だとすれば、彼女は秋葉さん?

「あー、有澄は今、忙しいみたいだな。社内で秋葉に会った時に伝えとく」

やっぱり、そうなんだ。日下部君は私の事をチラリと見たが、直ぐに目線を外した。連絡先も知っているはずだけれど、私を気付かっているのか、今ここでは連絡をしないみたいだ。

「うん。あと、美大目指す事にしたって伝えて」

「そうなのか?デザイン系の専門学校ではなくて?」

「美大に行けば、進路先に幅が出ると思って」

「分かった。父さん達にもきちんと話せよ」

二人だけの会話だから、私は余計な事も言わずに黙って聞いている。陽翔君は美大を目指しているのか。顔は似ていても、やはり、中身は別人で、それぞれの得意分野や興味が違うらしい。……けれども、日下部君も雑貨を扱う仕事をしているから、全く興味がない訳でもなさそうだな。

日下部君と再開してから、目の前に広がっていく景色が目まぐるしい程に変化していく。仕事も、人の繋がりも、そしてその関係性も。

夕飯を食べ終えて、陽翔君と日下部君は再び、ゲームを始めた。自分用の買い置きのアイスを陽翔君に渡すと、すんなりと受け取って、ペコッとかるく頭を下げた。嬉しそうにアイスを頬張る陽翔君が可愛らしい。高校生って、無邪気な子供だな。

陽翔君に高校時代の日下部君の面影を探しながら、私はキッチンで片付けをしていた。その後に二人をそれぞれに浴室に送り出し、二人の入浴後に私もようやく入浴した。

陽翔君に「おやすみ」と言って、今日は自分自身の部屋に戻って布団でゴロンと横になる。普段は日下部君と二人で寝ているから、何だか寝付けない。そんな時に日下部君からメッセージが届いた。

『今日はありがとう。明日は帰らせるから』

私は確認して直ぐに返信を入れた。

『大丈夫だよ。陽翔君が気が済むまで居させてあげて。私は陽翔君に会えて嬉しかったよ。おやすみなさい』

近距離に居るのに壁越しなだけで、こんなにも寂しい思考が膨れ上がる。日下部君からは文字の返信は無く、おやすみのスタンプのみが送られてきた。文字は無くても返信してくれたことに対して、感慨深く思う。離れて居ても私のことを気にしてくれたことが嬉しくて、胸の前でスマホを握りしめたまま、眠りについた。

翌朝、目が覚めると……隣には日下部君が寝ていた。

「ふあぁ、おはよう……琴葉」

布団の中から、欠伸をしている日下部君を目の前で見つめる。

「お、おはよう。い、いつの間に寝てたの?」

「ん?陽翔が寝たのを確認してから来た。だって、眠れなかったから」

向かい合わせの体制でゴロンと寝転んでいたが、私はいつの間にか、日下部君の胸元に抱きしめられていた。

「琴葉も眠れないのかな?って思ってたのに、ぐっすり寝てたからちょっと残念な気持ちになった……」

「わ、私は、日下部君が寝る前に連絡くれたから……、だから安心して寝られたの」

こんなことを言うつもりなんて無かったけれど、たまには素直になるのも良いもんだ。日下部君は柔らかな笑顔を浮かべる。朝から日下部君の笑顔が見られるなんて、役得だ。日下部君の体温が温かくて心地好い。昨日の分を補うかのように背中に手を回し、力強く抱き着く。

お互いの温もりを確認後、名残惜しくも起きなければならず、眠さの残る身体を無理矢理に叩き起して朝食を準備した。三人で朝食をとった後は陽翔君と別れ、仕事に出向く。

夜、仕事が終わり、日下部君のマンションに着くと……何だか賑やかだった。それもそのはず、妹ちゃんが来ていたから。僅かな差で先に帰っていた日下部君を襲撃し、抱き着いたりしていた。

「郁弥兄の彼女さんですか?キレー!肌ツヤツヤですね。何のコスメ使ってるの?今度、愛音の家にも遊びに来て下さいねっ」

玄関先で私を見るなり、愛音ちゃんはテンションが更に上がったようだった。奥には陽翔君も居て、ソファーに座ってゲームをしている。

「お前、うるさいからそろそろ帰れ!」

「えー!ヤダヤダヤダ!夕飯奢ってくれたら帰るよ!」

「分かった、分かった!琴葉、今日は外食で……」

「キャーッ!ことはだって、ことは!呼び捨てだぁっ!」

こんな騒ぎの中、動じない陽翔君に感心するよ。私はスーツを着たまま外食に出かけ、日下部君の車で二人の自宅付近まで送った後に帰宅した。愛音ちゃんの話を聞いて、久しぶりに大笑いした感じ。日下部君は帰りの車内で「連日ごめんな」と謝っていたけれど、私は仕事は疲れたけど、疲れが吹き飛ぶ位に楽しい外食だった。また二人に会いたいなと思う。

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