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誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

日下部君の家族【3】

「暑い?寒い?」

帰って来たと同時に冷房のスイッチを入れた。何時に帰れるかも、毎日まちまちなのでタイマーもかけておけない。新しい空調設備なので、部屋は瞬く間に涼しくなる。陽翔君に問いかけたが、返事はない。ゲームに夢中だから、聞こえないのかな?

「飲み物を置いておくね。アイスカフェオレ飲めるかな?」

くつろいでいる陽翔君の元にアイスカフェオレを差し出す。陽翔君はコクン、と頷いただけでお礼も言わずにストローに口をつける。スティックの粉を牛乳で溶かすだけのアイスカフェオレだから、それなりの甘みはある。喉が乾いていたのか、ゴクゴクと八割形、一気に飲んでしまった。

高校生の日下部君に似ているけれど、性格は違うようだ。あの時の硬派な日下部君ならば、『ありがとうございます』と微笑み返してくれたのだろうな……。先程といい、二回も無視をされてしまった。私はやるせない気持ちも芽生えたが、陽翔君はきっと思春期だし、知らない女性なんかと話をしたくもないよね?……と思う事にした。

そんな事を考えながら、夕飯の支度をする。日下部君と二人分の材料しかないから、明日使おうとしていた食材も今日に回さなきゃ。陽翔君は男子高校生だから、やっぱり肉が良いのかな?鳥のもも肉があるから、唐揚げも作ろうか?

「苦手な食べ物ってある?」

陽翔君は好き嫌いがあるかどうか確認しようと思って、カウンターキッチンからソファーに視線を向ける。返事がないのは思春期特有のものかと思っていたら、スヤスヤと寝ていた。手にスマホを持ったまま、腕をだらんと伸ばし、ソファーいっぱいに背を伸ばして寝ている。ソファーから、はみ出した足は見るからに長い。

冷房のせいで、お腹が冷えないようにとタオルケットを持ち出して、かけてあげる事にした。今時の男子高校生は女子同様にスタイルも気にしているのか、痩せすぎな位にほっそりしている。

寝顔がまだおどけない。素っ気ない態度をとっていても、している事は子供そのものだ。

私はキッチンに戻り、夕飯の支度を再開する。お風呂の準備と夕飯作りが完了し、日下部君が帰宅しても尚、陽翔君は寝ていた。

「うわっ、玄関先に男物の靴があったと思ったら、陽翔が来てるのかよ」

日下部君は帰宅して直ぐに、玄関先の見慣れないスニーカーに気付いて陽翔君を確認した。

「私が帰って来たら、玄関前で待ってたの。何時から待って居たかは分からないけれど、暑い中、待ってくれて居たから、中に通したよ。日下部君には泊まりは駄目だと言われたって言ってたけど……、可哀想だったからね」

「メールとか電話をくれれば良かったのに」

日下部君は、私に向かって不貞腐れたように言った。

「ごめんね、夕飯の支度とかで忙しくて……」

本当はいつだって、チャンスはあったけれど、一度断りを入れている日下部君ならば、追い返すに違いないと思い、あえて連絡をしなかったのだ。事情があってお兄ちゃんを頼って来てくれたのに、追い返す訳にはいかない。

「琴葉が嫌がるんじゃないかと思ったから断ったんだけど……、大丈夫?無理してない?」

「驚いたけれど、大丈夫だよ。気にしないで。陽翔君にとっては、私の方が居候だろうから」

あれ?待てよ?一緒に住んでいる事、知らないんじゃないの?

「陽翔君は、ど、……同棲?いや、同居してるって知ってるの?」

「知らないよ。……と言うか、家族の誰にも言ってない。そう言えば、琴葉の家族は知ってるの?」

私は、ブンブンと首を横に振った。結婚前の同居を私の両親が受け入れるとは思えないので、次の良さげな賃貸物件が見つかるまで友達宅にお世話になっていると伝えてある。

同棲は好きあっているカップルがするものだし、同居の方が、関係性がハッキリしない私達に相応しいと思ったので、言い直した。

「そうだよなぁ、その辺は見切り発車みたいに一緒に住んじゃったからなぁ……。近い内にキチンとしような。御家族に御挨拶をさせて下さい」

そのキチンととは一体……?彼氏でもないのに、どういう挨拶をしにくるの?それも気にはなっているが、それよりも目先の事をどうにかしなければならない。

「今日は私、ビジネスホテルにでも泊まろうか?」

連日、ダブルベッドで日下部君と一緒に寝ている。そんなだから、夜は流石に陽翔君が居るのに二人では寝づらいよね。

「ん?大丈夫だよ。琴葉は自分の部屋で寝て。俺は一人で寝るし、陽翔はソファーで寝てもらう」

日下部君が私に一部屋貸してくれてるけれど、寝る時はいつも日下部君のベッドだから、あまり使用していない。部屋に布団もあるし、明日も仕事だから今からビジネスホテルに向かうのはキツイし、日下部君の言う通りにしようかな?

「陽翔君には申し訳ないけど、ソファーで寝てもらうしかないか……」

「だな。だって、二人で抱き合って寝てるベッドに寝せる訳にいかないじゃん」

ボソボソと私の耳元で呟く日下部君。聞こえた言葉で顔が真っ赤になり、耳まで熱を帯びる。






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