誘惑の延長線上、君を囲う。
理解不可能な領域【5】
日下部君は黙ってしまった。私の余計な一言が原因だったのは分かっている。私自身にも辛い内容の言葉でしかなかった。素直になれない、私が憎い。
高校時代から言い出せなかった『好き』の二文字。あの日、慰めるだなんて言わずにいたら、抱かれなかったら、……ただ単に再開した同級生のままでやり過ごせていたら、私達はどうなっていたのかな?
日下部君がせっかく一緒に住もうと言ってくれても、飛び込んで行く勇気もない。意気地なしのダメ女。
「その……嫁さん候補に佐藤がなってくれたら良い。交換条件として、俺が佐藤の旦那候補になるから。それじゃ、ダメか?」
長い沈黙の後、日下部君が放った言葉。茶化さずに真っ直ぐに降りてきた言葉。
「だ、ダメじゃ……ない、よ。全然……」
私は小さく消えそうな位の声で返した。
「じゃあ、決まりな。今から、彼氏とか彼女とか超えた関係だからな、俺達は。結婚相手にふさわしいかどうか……」
あぁ、このまま本当に結婚相手となってくれたら、どんなに幸福な事か。
「俺さ……、元上司達に独り身だと知られてからはお見合いを何度も薦められてるんだ。それが元上司達の親戚だったりする訳。佐藤もさ、もしも本物のお見合いをする事になったら、知らない誰かよりは俺の方がマシじゃない?……そんな感じのノリで良いから、結婚相手にふさわしいかどうか試してみないか?」
私はコクリと首を縦に振り、ただ静かに頷く。同級生から彼氏彼女の域を飛び超えて、いきなりの結婚相手の候補になり、放心状態になっている。
「一緒に居て楽しいし、お互いを理解出来てるとも思っている。それにほら、身体は……相性抜群だったから後は生活スタイルの認識だけだな」
「ば、……バッカじゃないの!」
「本当の事を言ったまでじゃん!」
身体は相性抜群……。確かに今まで経験した事のない位に気持ち良かったけれど、口に出す事ないじゃない!日下部君の馬鹿、バカッ!私は照れ隠しに思わず、日下部君の腕を叩いてしまった。ハンドルが曲がりセンターラインを踏んでしまい、警告音が鳴った。
「危ないから、止めろ!」
「……ごめん。でも、変な事を日下部君が言うからだよ」
「まぁ、確かに口に出したのは悪かった。……けど、身体の不一致やセックスレスから別れたり離婚したりってあるから、重要な部分だとも思うけどな。佐藤にだから言うけど……」
「……うん」
日下部君はズルい。私だけが特別みたいな言い方をして、持ち上げる。
「そんな訳で一緒に住むのも決まりでいいよな?」
私はまたしばらく黙っていた。信号待ちで止まった時に日下部君は私の方を見て、そう告げた。この人、一緒に住む事とお互いに結婚相手になった事に対して、重く受け止めていないのかな?私には簡単に考えているようにしか思えない。私は舞い上がる気持ちと同時に不安もあって、落ち着かない。助手席に座っていても、そわそわしてしまい、日下部君に不審がられている。
「……飯、食べに行く?どこが良い?」
「どこでも良い……」
「何だよ、元気がなくて、いつもの佐藤じゃないな。何かあった?」
何かあった?って、貴方のせいでしょ。貴方の行動と言動に一喜一憂してるんだよ。
「気晴らしにレイトショーでも見に行ってから、飯にする?明日、休みなんだから付き合ってよ」
「……本当に勝手ね」
「いいじゃん、そのうち結婚するかもしれないんだし。デートらしい、デートしよう」
私は理解不可能な領域に足を踏み入れた。日下部君が何を考えているのか不明瞭だから、今後、どうなって行くのかも想像がつかない。手に入らなくて藻掻いていた物が、一気に手の内に収まる感覚が怖くて堪らない。手に入ったら、後は手放すだけだから……。
高校時代から言い出せなかった『好き』の二文字。あの日、慰めるだなんて言わずにいたら、抱かれなかったら、……ただ単に再開した同級生のままでやり過ごせていたら、私達はどうなっていたのかな?
日下部君がせっかく一緒に住もうと言ってくれても、飛び込んで行く勇気もない。意気地なしのダメ女。
「その……嫁さん候補に佐藤がなってくれたら良い。交換条件として、俺が佐藤の旦那候補になるから。それじゃ、ダメか?」
長い沈黙の後、日下部君が放った言葉。茶化さずに真っ直ぐに降りてきた言葉。
「だ、ダメじゃ……ない、よ。全然……」
私は小さく消えそうな位の声で返した。
「じゃあ、決まりな。今から、彼氏とか彼女とか超えた関係だからな、俺達は。結婚相手にふさわしいかどうか……」
あぁ、このまま本当に結婚相手となってくれたら、どんなに幸福な事か。
「俺さ……、元上司達に独り身だと知られてからはお見合いを何度も薦められてるんだ。それが元上司達の親戚だったりする訳。佐藤もさ、もしも本物のお見合いをする事になったら、知らない誰かよりは俺の方がマシじゃない?……そんな感じのノリで良いから、結婚相手にふさわしいかどうか試してみないか?」
私はコクリと首を縦に振り、ただ静かに頷く。同級生から彼氏彼女の域を飛び超えて、いきなりの結婚相手の候補になり、放心状態になっている。
「一緒に居て楽しいし、お互いを理解出来てるとも思っている。それにほら、身体は……相性抜群だったから後は生活スタイルの認識だけだな」
「ば、……バッカじゃないの!」
「本当の事を言ったまでじゃん!」
身体は相性抜群……。確かに今まで経験した事のない位に気持ち良かったけれど、口に出す事ないじゃない!日下部君の馬鹿、バカッ!私は照れ隠しに思わず、日下部君の腕を叩いてしまった。ハンドルが曲がりセンターラインを踏んでしまい、警告音が鳴った。
「危ないから、止めろ!」
「……ごめん。でも、変な事を日下部君が言うからだよ」
「まぁ、確かに口に出したのは悪かった。……けど、身体の不一致やセックスレスから別れたり離婚したりってあるから、重要な部分だとも思うけどな。佐藤にだから言うけど……」
「……うん」
日下部君はズルい。私だけが特別みたいな言い方をして、持ち上げる。
「そんな訳で一緒に住むのも決まりでいいよな?」
私はまたしばらく黙っていた。信号待ちで止まった時に日下部君は私の方を見て、そう告げた。この人、一緒に住む事とお互いに結婚相手になった事に対して、重く受け止めていないのかな?私には簡単に考えているようにしか思えない。私は舞い上がる気持ちと同時に不安もあって、落ち着かない。助手席に座っていても、そわそわしてしまい、日下部君に不審がられている。
「……飯、食べに行く?どこが良い?」
「どこでも良い……」
「何だよ、元気がなくて、いつもの佐藤じゃないな。何かあった?」
何かあった?って、貴方のせいでしょ。貴方の行動と言動に一喜一憂してるんだよ。
「気晴らしにレイトショーでも見に行ってから、飯にする?明日、休みなんだから付き合ってよ」
「……本当に勝手ね」
「いいじゃん、そのうち結婚するかもしれないんだし。デートらしい、デートしよう」
私は理解不可能な領域に足を踏み入れた。日下部君が何を考えているのか不明瞭だから、今後、どうなって行くのかも想像がつかない。手に入らなくて藻掻いていた物が、一気に手の内に収まる感覚が怖くて堪らない。手に入ったら、後は手放すだけだから……。
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