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誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

理解不可能な領域【1】

眠い。ダルい。腰も重い。

日下部君の自宅を出て、電車に乗り、自宅で着替えて再び電車に乗って出勤して……。店舗近くの駅に着いたけれど、身体が思うように動かなくて辛い。寝不足だからか、身体に熱っぽさも感じる。

久しぶりの梅雨の晴れ間で、朝からお日様が光り輝いている。じわじわ暑くて、首元を隠す為のハイネックが煩わしい。昨日までは少し肌寒い位だったのに、今日は暑くなるってどういう事よ?駅から店舗までの距離でも汗ばみそうで嫌だった。案の定、店舗に着くまでに少しだけ汗ばみ、中に入ってすぐに空調を入れて冷やす。モヤモヤじめじめしている空気が、空調が効き始めるまでは暑い。

「はい……、ИATURAL+です。あっ、日下部君?さっき着いたから大丈夫だよ。え……?」

開店準備をしていると店舗の電話に日下部君から着信があった。どうやら、私は日下部君の自宅に財布を忘れたらしい。電車も立ち寄ったコンビニも電子マネーを利用しているので、現金は必要ない。眠気とダルさで頭が働かないのもあり、財布がない事に気付けなかった。

日下部君は何度もスマホに電話をかけて、メッセージアプリにも送信したと言っていたので確認すると……確かに何件も電話やメッセージが届いていた。そうだ、昨日からずっとサイレントのままにしておいたからだ。私は常に店舗内ではお客様に聞こえないように配慮して、サイレントにしている。昨日は、あんな事になってしまったから……切り替えボタンを変える事自体に気が回らなかった。

「もう出勤しちゃった?出勤する前なら車を取りに来るついでにお店に置きに来てくれる?……え?そうなんだ……、分かった。じゃあ、また……」

店舗の最寄り駅のコインパーキングに車を駐車しているので、可能ならば届けて欲しい……と思い聞いてみたが、時は既に遅し、出勤してしまったそうだ。詳しくは聞かなかったけれど、財布はどこにあったのだろうか?私はいまいち働かない頭で考えてみる。リビングのソファーに座って、ソファーの横にバッグを立てかけるように置いていた。思い返せば、日下部君の自宅を出る前にバタバタしていて、バッグに足が引っかかってしまい、中身が少し出てしまって慌てて中にしまった。きっと、その時に違いない……!

トントンッ。入口側のショーウィンドウを軽快に叩く音が聞こえた。お客様かな?まだオープンしてないのだけれど?

入口側の扉を開けて、「開店までもう少々お待ち下さいませ」と言ったら、そこには日下部君が立っていた。

「……置いて行っちゃったから困ってるかな?と思ったけど、探してもなかったんだな」

日下部君はズカズカと入って来て、休憩室の扉を開けて椅子に座った。

「く、日下部君!?出勤しちゃったんじゃなかったの?」

私は日下部君の後を着いて行き、会話を続ける。

「出勤?したよ。今日は偶然にも外回りと店舗周りの日だから直行直帰」

「来てくれるなら、さっき電話で言ってくれたら良かったのに!」

日下部君はしれっとした言い方で、表情一つ崩さない。慌てているのは私だけだ。

「……言ったら、面白くないでしょ?佐藤が驚く顔が見たかったから」

「あ、悪趣味だよ、そんなの……!」

日下部君は私の事を手玉に取ったようにニヤニヤ笑っている。何の連絡もなしに来ないと思っていた人が来たら、それは驚くでしょ?

「……隠してるんだ、首元」

日下部君が座っている椅子の前に立っていた私は、前のめりになる。日下部君が手を伸ばし、私の首元のハイネックの中を覗き見したからだ。グイッとハイネックに指をかけて引っ張られ、体制を崩し、日下部君に寄りかかる体制になった。

「……っ、いた、」

「ご、ごめん、……痛かったよね?」

私達は額同士をぶつけて、地味な痛みがジンジンと襲って来た。

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