雨に打たれる【２】

1時間は一人きりで店番をしていた。その間に日下部君の車が店舗前で停車した。何とも言えないタイミングで来たので、驚きを隠せなかった。車内からは女性が二人降りて来て、一人は助手席からもう一人は後部座席から降りて来る。それからもう一人、後部座席には男性も乗っていたようだった。三人は日下部君が駐車場に停めて来るのを店舗の入口横で待って居た。

｢わぁ、素敵なお店に仕上がってますね｣

店舗内に入った途端、私と同じような髪型をした女性が笑みを浮かべながら言った。

｢佐藤にまだ紹介してなかったよな？以前は本社の企画営業部にいて、今はバイヤーを主にお願いしている高橋｣

日下部君は私の元へと真っ先に向かって来て、輸入雑貨バイヤーの高橋さんを紹介してくれた。

｢初めまして、佐藤さん。高橋  綾美たかはし  あやみです。これから一緒にИatural+を盛り上げて行きましょうね｣

｢私は佐藤 琴葉と申します。至らぬ点もあるかと思いますが、よろしくお願い致します｣

高橋さんはバッチリメイクの綺麗な方だ。

｢それから、こっちが高橋の旦那。本社の総務課に勤務してる。手続き関係で分からない事があれば何時でも聞いて｣

｢高橋です。日下部さんとは同級生だとお聞きしてます。日下部さんの高校時代の話とか是非聞かせて下さいね｣

｢佐藤です！よろしくお願い致します！面白い話も沢山あるので、今度、是非｣

旦那さんなんだ！同じ会社で働いているなんて素敵！きっと社内恋愛で結婚まで至ったのだろうな。日下部君と男性の高橋さんは仲が良さそうで何より。日下部君に敬語で話してるから、年齢は下なのかな？

｢あと、勝手な行動をしているもう一人の奴が企画営業部のデザイン担当の秋葉。おい、秋葉、早く来い！｣

｢あ、はい、すみません！｣

一人で商品を眺めていた女性が早足で私達の傍に近寄る。

｢秋葉  紫あきば  ゆかりです。初めまして、佐藤さん。日下部さんは元上司でした。私にも日下部さんの黒歴史とか聞かせて下さいね！｣

｢あ、はい。どうぞよろしくお願い致します｣

"あきばさん"と聞いて、私は言葉に詰まってしまった。彼女からはふんわりと良い香りが漂い、可愛らしさと綺麗さを併せ持ち、更にはスタイルの綺麗さが女性の憧れの的みたいな人。この人が日下部君の想い人だ。こんなに素敵な人、勝てる訳がない。しかも年下だと思うし、それはどう足掻いてもどうにもならない。どういう人か知らない方が幸せだったかもしれない……。

｢何でお前はいつも勝手な行動をするんだ？｣

｢……だ、だって可愛い物が沢山あるし、綾美が仕入れた物はどれだろう？と思うと更に気になっちゃう！｣

｢それはね、こっちだよ、おいで｣

｢え？どれどれ？｣

日下部君はコツン、と秋葉さんの頭を軽く拳で打った。その後、女性の高橋さんが助け船を出して二人で一緒に商品を眺めている。

｢日下部君、皆、仲が良いのね｣

｢あの二人は特別、仲が良いんじゃないか？入社当時からずっと仲が良い｣

一件、異なるタイプに見える二人だが、仲の良さが伝わってくる。女性の高橋さんはキャリアウーマンタイプで、秋葉さんはのんびり屋さんな印象がするけれど……仕事となると違うのかな？

｢あ、お客様。……いらっしゃいませ｣

談話をしている間にお客様がいらっしゃり、日下部君は店舗用のPCで少し作業をした後に皆を率いて職場へ戻って行った。女性の高橋さんを私に紹介する為に店舗に連れて来てくれたらしいので、その他の二人はオマケだったと言っていた。

日下部君は外に先に出て、店舗前に車を廻した。夫婦だからか、高橋さん達は後部座席に二人で乗り込み、秋葉さんは助手席だった。男性の高橋さんが助手席でも良かったのでは？……と思うと何だか複雑。秋葉さんが悪い訳ではないけれど、モヤモヤしちゃう。心の中は複雑で晴れ間が見えない。