誘惑の延長線上、君を囲う。
ブラックアウト【3】
二ヶ月に一度位だろうか、おひとり様の私は贅沢をする事にしている。日頃の仕事の疲れを癒してくれる人など周りには居ないから、その日だけは外食をして好きな物を食べて、飲んで、少しだけ高級なシティホテルに泊まる。
部屋には誰一人も来ないのに毎回ダブルルームを予約して、広々と利用する。勿論、次の日の朝はルームサービスの朝食を利用する。淹れたての紅茶にパンケーキ又はフレンチトーストの組み合わせがお気に入りだ。
「日下部君、……先にシャワー浴びる?」
弱っている日下部君を利用して、半ば無理矢理にホテルの部屋に連れ込む。ホテルに来るまでは乗り気だった日下部君も歩いて酔いが覚めてきたのか、ホテルに着いた途端に躊躇し始めた。
「いや、俺、帰るよ。終電まだあるから……」
酔い潰れる寸前だったくせに、理性を保とうとする彼が憎たらしい。私なんかよりも、優等生の硬派は日下部君だ。
「日下部君、逃げる気?会わない内に随分とヘタレになったのね?何事にも物怖じしない日下部君はどこに行ったの?」
私はわざと逆撫でするような言葉を吐き、日下部君を煽った。スーツの上着を脱ぎ、立ち竦んでいる日下部君の頬に手を伸ばした。
もうどうにでもなれ、……そんな気持ちのまま、大人の女を演じる。虚勢を張っていきがってみるが、内心はこれ以上に拒否されるのが怖くて怖くて堪らない。
「……もう引き返せないからな。途中で泣いても止めるつもりはない」
ドサッ。鈍い音と共にソファーに押し倒される。
「く、さ、かべくん…シャワー浴びたい…」
「いいよ、そんなの」
日下部君に唇を塞がれる。次第にブラウスのボタンも外された。
「委員長……、佐藤って着痩せするんだな」
私に馬乗りになっている日下部君は私の名字を呼び、着ていたシャツを脱ぎ捨てた。程良く筋肉質な上半身が露わになる。自分から持ち掛けたくせに、見下ろされているシチュエーションが余りにも恥ずかしく、日下部君から目を背けて、胸を両手で遮る。そんな私の態度が気に触れたのか、日下部君は私の両腕を持ち上げて左手で抑えられた。
「綺麗だから、もっと見せて」
高校時代にこのような出来事が想像出来ただろうか?付き合えたら良いな、彼氏になって欲しいな……、そんな心情はあったにしろ、もっと幼稚な妄想に過ぎなかった。例えば手を繋いだり、人目を忍んで触れるだけの爽やかなキスとか。
大人になった私達は愛だの恋だの言わなくとも、身体を繋げる事が出来る。それが報われる事のない一方的な片思いだとしても、繋ぎ止めておく最大の手段でもある。
「スカート脱いで」
「……え?」
「佐藤が慰めてくれるって言ったんだから、脱いで見せてよ」
「……うん」
急に両腕を解き放してソファーから降りたと思えば、クスッと静かに笑うと私に指示を出して来た。歴代の彼氏の前だって、自分からは脱いだ事なんてない。躊躇いはしたが、立ち上がり、スルりとスカートを絨毯に落とした。
「……ベッドに行こうか?」
私は頷き、差し出された日下部君の手を取った。
偽りの恋、儚くて切ない。それでいて、濃厚で甘い時間。
「あ、きば……」
日下部君の口から零れた名前。私じゃない、知らない誰か。
「……シャワー、浴びてくる」
日下部君は行為が終わった後、違う名前を呼んだ事すら忘れたかのようだった。私の唇に触れるだけのキスを落としてバスルームへと消える。
まだ身体は火照っていて、日下部君の温もりが残っている。ベッドの上に横たわり、自分自身の身体を両腕で交差して抱き締める。
私は日下部君に抱かれたんだ。余韻に浸りながら目を閉じた時、日下部君が果てる前に言った名前を思い出す。
確か、私の事を"あきば"と呼んだ気がする。あきばさんは日下部君の想い人だろうか?
慰めてあげる、と言いながらも私自身とは異なる女性の名前を呼ばれると胸が締めつけられる。行為の最中、日下部君は私の事を想い人と重ねて見ていたのだろうか?
抱かれて嬉しかったはずなのに止めどなく虚しくて、切なかった──
部屋には誰一人も来ないのに毎回ダブルルームを予約して、広々と利用する。勿論、次の日の朝はルームサービスの朝食を利用する。淹れたての紅茶にパンケーキ又はフレンチトーストの組み合わせがお気に入りだ。
「日下部君、……先にシャワー浴びる?」
弱っている日下部君を利用して、半ば無理矢理にホテルの部屋に連れ込む。ホテルに来るまでは乗り気だった日下部君も歩いて酔いが覚めてきたのか、ホテルに着いた途端に躊躇し始めた。
「いや、俺、帰るよ。終電まだあるから……」
酔い潰れる寸前だったくせに、理性を保とうとする彼が憎たらしい。私なんかよりも、優等生の硬派は日下部君だ。
「日下部君、逃げる気?会わない内に随分とヘタレになったのね?何事にも物怖じしない日下部君はどこに行ったの?」
私はわざと逆撫でするような言葉を吐き、日下部君を煽った。スーツの上着を脱ぎ、立ち竦んでいる日下部君の頬に手を伸ばした。
もうどうにでもなれ、……そんな気持ちのまま、大人の女を演じる。虚勢を張っていきがってみるが、内心はこれ以上に拒否されるのが怖くて怖くて堪らない。
「……もう引き返せないからな。途中で泣いても止めるつもりはない」
ドサッ。鈍い音と共にソファーに押し倒される。
「く、さ、かべくん…シャワー浴びたい…」
「いいよ、そんなの」
日下部君に唇を塞がれる。次第にブラウスのボタンも外された。
「委員長……、佐藤って着痩せするんだな」
私に馬乗りになっている日下部君は私の名字を呼び、着ていたシャツを脱ぎ捨てた。程良く筋肉質な上半身が露わになる。自分から持ち掛けたくせに、見下ろされているシチュエーションが余りにも恥ずかしく、日下部君から目を背けて、胸を両手で遮る。そんな私の態度が気に触れたのか、日下部君は私の両腕を持ち上げて左手で抑えられた。
「綺麗だから、もっと見せて」
高校時代にこのような出来事が想像出来ただろうか?付き合えたら良いな、彼氏になって欲しいな……、そんな心情はあったにしろ、もっと幼稚な妄想に過ぎなかった。例えば手を繋いだり、人目を忍んで触れるだけの爽やかなキスとか。
大人になった私達は愛だの恋だの言わなくとも、身体を繋げる事が出来る。それが報われる事のない一方的な片思いだとしても、繋ぎ止めておく最大の手段でもある。
「スカート脱いで」
「……え?」
「佐藤が慰めてくれるって言ったんだから、脱いで見せてよ」
「……うん」
急に両腕を解き放してソファーから降りたと思えば、クスッと静かに笑うと私に指示を出して来た。歴代の彼氏の前だって、自分からは脱いだ事なんてない。躊躇いはしたが、立ち上がり、スルりとスカートを絨毯に落とした。
「……ベッドに行こうか?」
私は頷き、差し出された日下部君の手を取った。
偽りの恋、儚くて切ない。それでいて、濃厚で甘い時間。
「あ、きば……」
日下部君の口から零れた名前。私じゃない、知らない誰か。
「……シャワー、浴びてくる」
日下部君は行為が終わった後、違う名前を呼んだ事すら忘れたかのようだった。私の唇に触れるだけのキスを落としてバスルームへと消える。
まだ身体は火照っていて、日下部君の温もりが残っている。ベッドの上に横たわり、自分自身の身体を両腕で交差して抱き締める。
私は日下部君に抱かれたんだ。余韻に浸りながら目を閉じた時、日下部君が果てる前に言った名前を思い出す。
確か、私の事を"あきば"と呼んだ気がする。あきばさんは日下部君の想い人だろうか?
慰めてあげる、と言いながらも私自身とは異なる女性の名前を呼ばれると胸が締めつけられる。行為の最中、日下部君は私の事を想い人と重ねて見ていたのだろうか?
抱かれて嬉しかったはずなのに止めどなく虚しくて、切なかった──
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