婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

お礼とお詫び(6)

整備された散策路に沿って歩くと、小川が流れている場所に出た。近付いて屈み込み、指先をそっと水に浸してみる。

「冷たっ」

あまりの冷たさに驚き、すぐに手を引っ込めた。その拍子に体のバランスを崩す。

「おっと」

近くにいた遥斗が、タイミング良く私の背中を抱き留めた。思わず振り返り、彼の顔を見上げてしまう。明るい陽ざしの中、遥斗の茶色く澄んだ瞳に見つめられた。綺麗で思わず吸い込まれそう。

「……きゃはははっ」

背後から若い女性の大きな声が聞こえ、慌てて前に向き直った。

「もう行こう……」

遥斗が私の手を取り、指を絡ませ恋人繋ぎにすると、引っ張られるように、そこを離れた。
途中、先程の笑い声を上げたらしき女性と、その彼女の腰に手を回し、一緒に歩く男性とすれ違った。
向こうはこちらのことなどお構いなしに、お互いを見つめ合い、楽しそうな様子で通り過ぎていく。

堂々とあんな風に過ごせたら……。

私たちは他人から見たら普通のカップルのようで、関係はとても複雑だ。
繋いだ手から遥斗の温もりが、じんわりと伝わる。
いつかこの手を離さないといけない……。
そう思うと急に現実に戻され、約束の無い未来が虚しく、切なく感じられた。


コテージに戻ると、野菜がメインのランチをオーダーした。バーニャカウダに、根菜のミネストローネスープ。リンゴのカラメルソテーと旬野菜のリゾット。

「ここのお料理、どれも新鮮でおいしい!」

今は楽しいことだけを考えたい。
出されたものをおいしく味わい、残さず食べた。

「良かった。里穂に喜んでもらえたなら、俺は満足だ」

「そうだ。いつも遥斗にお世話になってるから……」

立ち上がり、バックの中に入れて置いたプレゼントを探った。
リボンをかけた箱をテーブルの上に乗せる。

「なんだ?」

「ちょっと早いけど、バレンタインのつもり。――あっ、全然変な意味じゃないから。今、流行りの友チョコ」

何も聞かれていないのに、ペラペラと言い訳のような理由を並べてみた。
昨日こっそりと作っておいた秘密のプレゼントだった。

「開けていいか?」

私がうなずくと、遥斗は赤いリボンをほどき、小さな箱を開けた。
中にはハートのアルミ容器に入ったチョコレート……のはずが、中身が溶けかかっていて形がひしゃげている。

「やだっ。溶けてるっ」

「この部屋、暖かいからな――」

くくくっと遥斗が口に手を当て、声を抑えながら笑い出した。

「どうせバカにしてるんでしょ?」

「違うよ。里穂が泣きそうな顔してるから」

「だって……」

彼の言う通り、実際に泣きたくなった。
本心を話すこともできないし、一生懸命作ったチョコは溶けてるし……。
遥斗は箱に入ったチョコを一つ手に取り、アルミをはがすと、口の中へ放り込んだ。

「味は美味いよ。ありがとう」

しっかりと目を見つめ、優しい口調で言われると、心にじんわりと沁みてくる。

「あの……遥斗。今更、昔のことなんだけど。
――――ごめんなさい。
Pちゃんなんて呼んだり、からかってみたり。こっちは可愛がっていたつもりでも、言われた方はそうじゃないこともあるよね。今の自分なら、よくわかるから……」

遥斗が一瞬目を細め、ふんわりとした表情を見せると、すぐに引き締まった顔に戻った。

「里穂なりの謝罪ってこと?」


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品