婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

揺れる心(5)

部屋は20畳ほどの広さで、窓際を背に広めのデスクが置かれ、中央には応接セットがある。

会社とは言え、個室で二人きり。先が読めない遥斗から逃れるため、窓の方へと避難した。
彼の表情は、さっきまでの仕事モードから、いつもの企み顔に変わっている。

「ここへ呼び出したのは誰だ? 桂木に何を聞かれた?」

「えっと……アプリについて率直な意見を聞きたいって言われて。桂木さんが開発者の一人だったなんて知らなかった。美人で色気もあって、知的だし、素敵な人だよね」

「ふ~ん。それ以外は?」

「なっ、何も」

「俺については何も聞かれなかったのか?」

「べ、別に。どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、仕事以外のことで里穂に負担が掛かると迷惑だと思って」

何、それ……。
いつも私のことを脅して迫って、迷惑かけてるのは遥斗の方なのに。
本当の関係がバレると困るのかな……?

「あの桂木さんって人、遥斗のことが好きなの?」

「どうして?」

「ただ……何となく……」

答えにきゅうして窓の外に目をやっているうち、目の前に遥斗が現れ、いつの間にか片手で顎を持ち上げられていた。

「それって、いてるのか?」

強引な手に導かれ、視線が重なり戸惑う。
まさか、こんな場所で迫るつもり?

「あ……あのっ。他に用が無いなら、もう会社に戻らないと……」

「素直じゃないな。里穂の顔には、俺にキスして欲しいって書いてあるけど?」

「私まだ仕事中なのっ!!」

そう言って強引に専務室を飛び出した。



自社に戻っても色々と考えてしまい仕事にならない。
このまま遥斗のそばにいたら、深い沼に落ちて抜け出せなくなる。

遥斗の目的は、私をこうやって陥れることなのかも……。

今日は、わざと遥斗と距離を取るため、最近戻っていないアパートへ帰ることにした。
帰宅途中、小田さんからのメッセージが届く。

『今日、良かったらどこか食事へ行こうよ』

『ごめんなさい。仕事が忙しいので、今日はムリです』

思わず、そっけなく返してしまった。
今日は、とても他のことを考えている余裕なんて無い。

一応遥斗には、部屋の片づけがあると連絡を入れ、アパートに戻った。
しばらく部屋に戻っていなかったから、窓を開けて空気を入れ替え、簡単な掃除を済ませた。

でも、もしここで遥斗が迎えに来てしまったら……。
きっと私は言われた通りに従い、簡単に彼の元へ行ってしまうような気がした。
本当に体の隅々まで支配されている気分。

思い切って遥斗の気持ちを聞いてしまえばいいのに。好きになればなるほど、本心を聞くのが怖い。
答えが出ないままベッドに潜り込み、いつまでも眠りにつけないまま夜が過ぎた。



「婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く