婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

想定外の恋(2)

翌朝は体調もだいぶ回復し、早起きして遥斗のために朝食を作り、並べてみた。

「これって、目玉焼き……だよな。それに、キャベツの千切りって、したことあるか?」

半分以上焦げ付いてしまったハムエッグと、ちょっと大きめに刻んであるキャベツのコールスロー。それと、トースターに入れるだけで焼き立ての味わいになる食パン。
苦笑いしながら、彼が食べはじめた。

「パンだけはおいしく焼けてるな」

「それはただ袋から出して焼いただけ、なんだけど……」

不出来な食事も、なんとか残さず食べてくれた。
食器を片付け、仕事へ行こうとバスルームで化粧をしていると、遥斗が私に声を掛けてくる。

「出かけるから、支度しろ」

「えっ、どこに?」

「体調がまだ戻らないだろ。しばらくは会社まで送ってやる」

いつも以上に気を遣ってくれている。
結局、言葉通りに甘えることにした。
SUVの助手席に乗りながら、遥斗の横顔をチラチラと見る。
こんなに甘やかされてしまうと、もう後戻りできなくなりそう。

「帰りも迎えに来るから、終わり次第、連絡を入れろ」

「いいよ。もう一人で帰れるって」

「何度も言わせるな。俺が迎えに行きたいんだよ」

遥斗の言葉に嬉しくなりながら、表情を悟られないように外の景色を眺めた。


*  *  *


年末になり、仕事も大詰めになってきた。
挨拶のメールを送ったり、2月のバレンタインイベントに向けての準備など。
取引先との打ち合わせや、飲み会のセッティングもあり、人の動きも慌ただしい。

「ねぇねぇ、里穂。小田さんとのクリスマスはどうだったの? 二人で熱い一夜でも過ごした?」

小田さんの名前を聞いて、ドキッとした。
あれから仕事が忙しいのか、会いたいというメッセージは送られてくるものの、約束はしていなかった。

「やめてよ。そういう関係じゃないから」

「今回のクリスマスイベント、評判良かったみたいね。きっと次は、バレンタイン企画に駆り出されるよ。
いいなぁ、里穂は。私もいっそのこと、出会いからやり直そうかなぁ」

クリスマスイベントの成功で、マスコミにも注目され、アプリの人気はさらに上がった。
バレンタインのイベントは女性側からの告白タイムや、バレンタインデートの紹介など、参加型イベントを多数用意する予定だ。



「鈴河さん。この書類を総務に届けてくれる?」

課長から、お呼びがかかった。
総務部は2つ上の階にあるから共用階段を上がり、廊下に出ようとしたその時。

バンッ!

誰かとぶつかり、書類が足元に落ちる。

「ご、ごめんなさいっ」

見上げると、小田さんがそこに立っていた。
一瞬恐怖を覚え、体が固まる。
彼は平然と書類を拾い上げると、嬉しそうな表情をこちらへ向けてきた。

「体調はどう?」

「……だいぶ……回復しました」

「それは良かった」

すると、急に後ろから大きな声が掛かる。

「おい、小田っ! これがうわさの宣伝部の彼女? スラっとして可愛いじゃん」

背が高く、ひょろっとしたその男性社員は、私の顔をまじまじと覗き込んだ。

「からかうなよ。鈴河さんが嫌がるだろ」

「社内恋愛だと、いつでも社内デートができていいよな。こっそり楽しめよ」

男性は、にやけながら立ち去っていった。
狭い人間関係。人の噂に上ってしまうと、色々な視線で見られることになる。

「ごめん。あいつ口が悪くて。また、連絡するよ」

「はい。それでは」

小田さんとはなるべく距離を置こうと思っていたけど、会社にいる間はどこかで会う機会もある。社内の噂が消えるまでは、もうしばらく我慢するしかなかった。



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