婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

優しさに触れて(2)

「うーん……」

朝の光を感じて目を覚ますと、遥斗の寝顔がすぐ横にあった。隣で見守るように眠っている姿を見ると、なんだかとても安心する。
いつもは早く起きて出かけてしまうから、寝顔をこんなにゆっくりと間近で見るのは初めてだった。

覗き込むため、少しだけ顔を近づける。
まぶたは綺麗な二重で、鼻筋がしっかりと通り、キュッと引き締まった口元。

昔からこんなにイケメンだったかなぁ……。

女の子みたいな顔立ちをした昔の遥斗の面影が重なり、どことなくよみがえる。
あの頃、私のこと追いかけては、ちょっとしたことですぐに泣き出して。

「Pちゃん……」

小声で思わず呟いた。
そのとたん遥斗の目がパチッと開き、チュッと私の唇に一瞬触れ、すぐに離れた。

「なっ、何するのっ!?」

「さっき俺のこと、あだ名で呼んだろ? その罰だ」

「もしかして、とっくに起きてたの?」

「里穂がしばらく俺に見とれていたようだったけどな」

ニヤッと笑うと、情熱的な眼差しを送ってきた。
一気に顔全体が熱くなって、鼓動が早まる。

「ちっ、違うよ。寝顔見てたら、やっぱり昔の面影あるなぁって……」

そう言うと、また顔をこちらへ近づけて来た。
何かされると思い、目をギュッと閉じる。
すると、頬に柔らかいものが軽く触れただけで、すんなりベッドから出て行った。

「朝食ができたら呼んでやるから、もうしばらく寝てろ」

「う、うん……」

そんな予想外なこと言われると、逆に動揺するじゃない……。

優しく気遣うようなセリフと紳士的な態度に驚く。脅すように迫る以前の遥斗とは大違いだ。

顔を洗って、着替えを済ませると、リビングにあるダイニングテーブルには、おいしそうな香りと共に、色鮮やかな朝食が出来上がっていた。
ハムエッグにパプリカのサラダ、れたてのコーヒーと、こんがり焼けたクロワッサン。

「わぁ~おいしそう!」

「里穂が喜んでくれて嬉しいよ」

早速、フォークを片手にサラダを食べ始めた。甘酸っぱいドレッシングがかかっていて、とてもおいしい。
ふと気がつくと、遥斗は食事に手もつけず、静かにこちらを眺めている。

「なっ、何? そんなに見られたら、食べづらいよ」

「昨日のこと、聞いていいか?」

「――――あれは……ちょっとした誤解なの。私も不注意だったから……」

小田さんに遥斗のことで誤解させてしまったのは自分の責任だし、一緒に飲みに行ったとはいえ、安易に酔ってしまったのもいけなかった。

すると、遥斗が今まで見たことも無いような怖い目つきになって、私を見つめている。

「里穂のことを泣かせる奴は許せないな。俺がそいつと話をつける」

「ほっ、本当に大丈夫だからっ。お互いの行き違いなの。心配しないで。それに、今まで脅すようなことしてきたのって、遥斗の方じゃない!」

「俺は乱暴なことしてないだろ。ただ、丁寧に俺のことを教えただけだ」

「なっ……何、それっ!?」

まるで、条件付けされたペットみたいな表現。
確かにどんな場面でも、つい遥斗のことを思い出してしまう自分がいるのは確かだけど……。

だったら責任取ってよ……って思わず言いそうになった。
でも、遥斗の傍には、いつもあの綺麗な女性の存在があるし。きっとこの優しさも、私に対する復讐の一つなのかもしれない。


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