婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

優しさに触れて(1)

涙がとめどなく溢れるのも気にせず、タクシーを止めるために必死で手を挙げ続ける。
寒さに震えながら、やっと1台捕まえることができた。
運転手へ告げていたのは、なぜか遥斗の住むレジデンスの場所。

窓ガラスに映る自分の姿が情けない。
髪も乱れているし、顔は涙でぐちゃぐちゃになってる。

こんな状態で遥斗に会ったら、笑われるだけなのに……。

30分ほど走ると、レジデンスに到着した。
乱れた格好のままエントランスにすら入れなくて、震える手で電話を掛ける。
すぐに遥斗の声が聞こえ、それだけで安心できた。

「里穂、どうした?」

「は……ると……」

「里穂!? 何があった? 今、どこにいる?」

「……レジデンス……入り口……」

「すぐ行くから、待ってろ」

寒さなのか、怖さなのか、理由がわからないまま、全身がずっと震えていた。
エントランスから人影が見えて、こちらに駆け寄る靴音が聞こえてくる。

相手を確認しようと見上げた瞬間、大きな体に包み込まれた。
温かく大きな体に、力強く抱きしめられる。
しばらくそうしているうちに、声を上げて泣いていた。こんな風に誰かの前で泣くなんて、子どもの時以来かもしれない。

どうして遥斗の腕の中はこんなにも安心できるんだろう……。


部屋に入れてもらい、暖かなリビングのソファーに座らせてくれた。

「今、風呂を入れてやるから。ゆっくり温まってこい」

お風呂の準備をしてくれて、シャワーで全身を流した後、のんびりと湯船に浸かった。
久しぶりに遥斗の部屋に戻ったせいか、なぜか懐かしく感じる。
用意された下着とパジャマを着てバスルームを出ると、彼が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「目がれて、ちゃんと開いてないぞ。今にも倒れ込みそうな顔してるじゃないか」

「きゃっ」

いきなり腰に手を回し、抱き上げると、リビングの方へ連れて行かれた。
今は抵抗する気力も体力も無い。

こんな時に、何もされたくないのに、どうしよう……。

まぶたをギュッと閉じ、体を小さく縮めていた。
すると、ふんわりとベッドに降ろされ、なぜか温かい布団の重みを感じる。
薄目を開けると、遥斗がかたわらに来て、穏やかな視線でこちらを見つめた。
ゆっくりと手が伸び、まだ濡れたままの私の前髪を優しく撫で、軽くほぐし整えてくれる。

「何があった? あの男に何かされたのか?」

「今は言いたくない……」

そう呟くと、遥斗の顔がすぐ近くまで迫ってきた。
反射的に構えて目を閉じると、額に柔らかいものが触れ、すぐに離れる。

「どっ、どうして今日は優しくするの?」

「言っただろ。俺は復讐を果たすために里穂の前に現れたんだ。元気の無い奴をイジメるためじゃない。だから、早く休め」

私を気遣う言葉に胸が熱くなり、遥斗の顔が急ににじんで見えた。
泣き顔を見られたくなくて、羽毛布団の中に急いで潜る。
でも、今夜だけは、このまま広い部屋で一人になるのはちょっと心細かった。

「遥斗……」

「どうした?」

「何もしないって約束できるなら、今だけ隣で寝てくれる?」

「いいよ……」

そう言うと、私の隣にそっと滑り込んで腕を伸ばし、寝ながら抱きしめてくれた。
どうして今日はそんなに優しくしてくれるんだろう……。

心地良い温かさと、ドキドキした気持ち。
穏やかなはずなのに、心の奥で何かがきゅんとはじける。 

この感情って……。

そう思うと、ますます早まるこの鼓動が、聞こえてしまわないかと心配になった。

遥斗にとって、私はからかいの対象なのだから、本気になっちゃいけないのに……。

でも今だけは、そんなことを忘れて、安心できる腕の中で眠りたい。
大きな優しさに包まれながら、いつもより穏やかな気持ちで目を閉じた。



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