婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

甘い記憶と混乱(7)

レジデンスに帰ると、同じタイミングで帰宅した遥斗とバッティングした。

「まさかTSAの専務だなんて、ひと言も教えてくれなかったじゃない。どうして黙ってたの?」

「わざわざ言う必要も無いだろ。母親の再婚相手が偶然会社を経営していて、俺はたまたまその家業を継ぐことになった。それだけだ」

「それだけって――」

遥斗にとってはかがやかしい仕事も、豪華な住まいも、至って普通のことなのだ。
それに、私のことだって……。

「若くしてこんな場所に住んでいる理由がよーくわかった。私を囲ってイジメてるのも、きっと暇つぶしなんでしょ?」

「イジメてる? 俺はいつも里穂を優しく扱っているつもりだが」

「ねぇ、遥斗。もう許して欲しいの。復讐って言っても、どうせ私はお金持ちの遊び道具みたいなものでしょ?
ここに私がいても、お互い得るものは無いし、遥斗だって……もし、本当に好きな人ができたら、困ると思うの。それに、私……」

このままだと、遥斗のことばかりを考えて、こちらがまいってしまいそう。
心まで奪われないうちに、早くここを離れたい。

「だめだ。まだ何も果たせてない」

遥斗の手が腰の辺りに伸びて、否応いやおうなく腕の中へと引き寄せた。まだ帰宅したままの恰好なのに、ジャケットを脱がそうとボタンを外してくる。

「ちょっ、まだ着替えてもいないのに……」

このままだと、またベッドへ連れて行かれる……。
その時、私のスマートフォンからメッセージを知らせる着信音が鳴った。

「ちょっと、ちょっと離して、仕事の連絡なのっ。イベントのことで先輩から連絡が来ることになってて」

遥斗からムリヤリ抜け出し、スマートフォンを手にする。チラッと見ると、メッセージを送ってきた相手は小田さんだった。

「メッセージを送ったら、すぐにご飯作るから。遥斗は先にシャワーでも浴びてきて」

そう伝えて自分の部屋へ駆け込むとドアを閉め、一息つく。
小田さんのメッセージのおかげで、間一髪、遥斗に抱かれずに済んだ。

『こんばんは。もし、来週時間あったら、またご飯しませんか?』

彼の柔らかい文章で少しホッとする。
遥斗との生活は刺激的でドキドキする毎日だけど、いつもこんな風に迫られていたら、とても心と体がもたない。
時々、遥斗にされた行為を思い出し、どこかゾクゾクとするものを感じていた。思い出しては興奮を覚える私って、もしかしてちょっとおかしいのだろうか?
あおられ、焦らされ、ほだされる毎日。
このままいくと、普通の恋愛だけでは満足できなくなりそうだった。

すぐに小田さんへ『楽しみにしてます』と返信する。
しばらく我慢すれば遥斗も私に飽きるはず。それまでは辛抱するしかない。
台風のようなこの生活を、しばらくは耐えることにした。


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