婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

甘い記憶と混乱(6)

「そうですか。ところで、気になる方とは出会えましたか?」

「えっ……と、まだやり取りしている最中なので……これから頑張ります」

そう答えると、遥斗はこちらに視線を送り、微笑みかけてきた。
とても意地悪そうな表情に見えて、ちょっと腹立たしい。
笑顔のまま、更に質問を続ける。

「AIの提示する成婚確率についてはどうでしたか? 役に立ちそうですか?」

「参考になるとは思いますが……。結局、相手と会ってみないとわからないことも……」

――――まずっ!! 

遥斗を相手に、つい本音で答えてしまった。
社内の人間が、一斉に私へ冷ややかな視線を送っている。
発言について特に上からの指示は出ていないけれど、ビジネス上の忖度そんたくも必要だったらしい。

「そうですか。画面やデータ上の印象と、会った時の印象は、どうしても相違することがある。時にはAIに頼らない感覚も、婚活には大切な要素ですよね」

遥斗がフォロー? してくれる形で、私への質問は終わった。
ホッとした瞬間、TSA側に女性が混じっていることに気がついた。

遥斗に気を取られ、しばらく存在に気づかなかったけど、綺麗だなこの人。
長い黒髪をまとめ上げ、フチなしメガネがよく似合う、色気の漂う女性。こちらの会話を聞きながら、ずっとメモを取っている。

それに、遥斗は偉い立場のようだけど、この会社で何の役職をしているんだろ。
疑問は解消されないうちにミーティングは終了し、TSA側の人間が帰り支度を始める。
宣伝部の部長が遥斗へ近づき、親しそうに声を掛けた。

「先日は遅くまで申し訳ありません、高城たかしろ専務。そうだ、今度ゴルフでもいかがですか?」

「そうですね。タイミングが合えばぜひ」

せっ、専務……!? 遥斗が、専務なの?

「鈴河君。先方がお帰りになるそうだよ!」

部長の声で我に返った。
呆然としているうちに、私以外は全員、見送るために立ち上がっていたらしい。
慌てて席を立ちあがる。

「すっ、すみません」

「ガシャン!」

勢いよく立ち上がり、手が当たって目の前のグラスが倒れた。
入っていた水がこぼれ、斜め前に座っていた綺麗な女性の元へと広がっていく。
視線をそちらへ向けると、なぜか目が合い、こちらへニコッと微笑みかけてきた。
その笑みに思わずドキンとする。

「すぐに片付けますので」
入り口付近にいたホテルマンが近づき声を掛けてくれた。

ただでさえ高身長で人目を引くのに、慌てた結果、目立つことばかりになってしまった。
だから参加したくなかったのに……。

すべてが無事に終了すると、たった1時間ほどの会食なのにもうクタクタ。
疲労感で、今すぐにでも帰りたい気分だった。



会社に戻ってからも、朝のモヤモヤで仕事が上手く回らない。
コピーの部数を間違えたり、違う部署にメールを送ってしまったり、散々なことばかり。

もう嫌だ……。あれもこれもすべて遥斗のせいだ。

家でも会社でも、遥斗のことで頭が一杯になっている。これが復讐っていうのなら、あながち間違っていないのかもしれない。

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