婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

甘い記憶と混乱(3)

立ちくらみを覚えながら会社へと向かう。
明日の朝食ミーティングのことを考えると頭が痛い。

このまま遥斗のことを報告していいのだろうか……。
でも、思い出すだけで顔から火が出そうだし。
報告するだけでも気が重いのに、出資者相手にミーティングだなんて責任重大だ。



部署での話題はもっぱらアプリのこと。
カップリングが進んでいる様子を聞くと、ますます焦りが募る。

あぁ~困ったなぁ……。

休憩室で頭を冷やそうと席を離れた。
廊下を歩いていると、急に後ろから声が掛かる。

「鈴河さん。広報宣伝部の鈴河さんだよね?」

「――はい。えっと確か、名前が……」

小田 渉おだ わたるです。だいぶ前、飲み会で話しただけだから」

「ご、ごめんなさい。小田さんですね。お久しぶりです」

突然呼び止められて、驚く。
人事部の小田さんは3歳年上。サラサラ髪の短髪で、くっきりとした二重、にこやかな表情の優しそうなイケメン。ただ身長は同じくらいで、並ぶとほぼ一緒。

「ちょっとだけ、話をしていいかな?」

人気ひとけのない共用階段に呼ばれた。
一年ほど前、つきあいで参加した飲み会の時、少し話をしただけの間柄。
私の名前を覚えていてくれたなんて、意外だ。

「宣伝部は強制参加なんだって?」

「そうなんです。そろそろ上に報告しないとなので、焦りますよ。人事部は何人ぐらい参加するんですか?」

「4~5人かな。僕も昨日登録したばっかりで、なんか慣れなくてさ。上司からもなるべくマッチングしろって。どこの部署も同じだよ。売り上げに必死さ」

小田さんは話をしながら、どこか言いづらそうに視線をらす。

「あのさぁ。もし、まだ決まった相手がいなかったら、僕とマッチングしないか?」

「――えっ?」

いきなりの提案に動揺した。小田さんのことは名前と部署くらいしか知らない。

「そういうんじゃなくて……、お互い焦って相手を見つけても、上手くいかないだろ?
とりあえず会社側にはマッチングしたことを報告して、イベントまでに見つかれば、その相手とつき合えばいいし。最悪見つからなかったら、僕でどうかなって」

急な展開で頭が追いつかない。どう判断すればいいんだろ。

「僕だと嫌かな?」

「そ、そんなこと無いです。ただ、小田さんのことをまったく知らないし、私なんかじゃなくても、モテそうだから……」

「こういうきっかけでもないと、鈴河さんのことを誘えないから。実は前から声をかけようと思ってたんだ」

顔を赤らめながら、小田さんが呟いた。
遠慮がちに話す彼に、ちょっと親近感が湧いた。遥斗の強引な態度とは違って少しホッとする。

「あまり重く考えないで、友達の延長だと思ってよ」

「そうですね……実は報告書のことでずっと悩んでて、気軽に書ける相手も浮かばないままイベントを迎えそうだなって。――――それなら、お願いしてもいいですか?」

「ホントに? 良かった!」

嬉しそうに小田さんがうなずき、約束が成立。
アプリのニックネームを教え合い、お気に入りを示すハートマークを送り合うことで合意した。

「せっかく知り合ったお祝いに、今夜食事でも行かないか?」

「食事……ですか」

遥斗と一緒に生活してからは、友人との外出も控え、本当に囚われの生活だった。
せっかくのお誘いだし、会社の子と女子会とでも言っておけば、バレないはず。

「いいですよ」

承諾したとたん、小田さんが満面の笑みを見せた。

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