婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

甘い記憶と混乱(2)

「遥斗って器用だよね。こんなに料理ができるなんて、どこかで教わったの?」

「言っただろ。小4まで母親と二人暮らしをしていたんだ。家事は一人でいる間に少しずつ覚えた。昔から、身の回りのことは自分でやれってしつけられたしな。だから、一通りのものは作れる」

遥斗は私よりもずっと苦労してるんだ……。
会っていない間の彼の人生は、きっと私と比べ物にならないほど、辛く険しかったんだろうな……。そう思うと、遥斗の横顔がとてもたくましく思えてきた。

さっそく、綺麗に焼けたハンバーグを箸でつまんでみる。

「すごく、おいしい!」

「そうだろうな。里穂よりは上手く作れる自信がある」

「ひどっ」

とりあえず、昨日のことが話題にのぼらないことにホッとした。
酔った勢いでしたことだし、特に気にする必要もないのかもしれない。

「遥斗。今週の金曜は朝食ミーティングがあって、早く出かけるからご飯作れないかも」

「ふーん」

まるで興味の無さそうな返事。
それから室内には食器の音だけが響き渡る。

私、何かまずいこと言った? 
不意に訪れた沈黙で不安になった。

「里穂。ところで昨夜のこと覚えてる?」

「えっ!?」

遥斗はテーブルにひじをつきながら、たぶらかす様に尋ねてきた。
とたんに鼓動が激しく脈打つ。

「キスしたことは?」

「おっ、覚えてないなぁ~」

「ベッドの中のことは?」

「記憶、無いかも……」

すると遥斗は急に立ち上がり、私に近づいたかと思うと、体を屈め、いきなり唇を重ねてきた。お互い、さっきまで食べていたハンバーグの味がする。昨日の余韻を思い出し、頭がクラクラし始めた。
そのまま強引に椅子から抱き上げられ、隣の部屋にあるベッドの上へと降ろされる。

「ま、待って。昨日は酔ってたから……」

「おい、里穂。俺が最初になんて言ったか、覚えているか?」

私はゆっくりと頭を横へ振った。

「今夜はアルコールが無いから、大丈夫だろう? 
昨日は途中で里穂が意識を失って、最後まで辿り着けなかった。だから、ちゃんと記憶してもらわないと困るな。これは、復讐だから」

そう言って唇を重ねると、あっという間に服を脱がされていく。
キスしたまま、優しく体の奥を探られると、次第に心も体も溶け始める。

そして1時間後、ついに遥斗がこだわる復讐は、ベッドの上で果たされることとなった。
一つ一つをまるで確かめるように愛され、初めての経験は少しの痛みを伴ったものの、体の奥までしっかりと記憶することになった。



翌朝目が覚めると、ベッドの隣には誰もいなかった。
遥斗はもう仕事に行ったのだろうか。

昨夜のことは夢……なわけないよね?

ベッドサイドに1枚のメモが置かれている。

〈気持ち良さそうに眠っていたから、起こさないで出かけるよ。さすがに俺の体、覚えただろ?〉

文章を読みながら上半身が熱くなってくる。

なっ、何が俺の体なのっ!

覚えるも何も……忘れることができない。
起きた瞬間から、ずっと昨夜のことが頭の中をグルグル回って。

指が、胸が、唇が……あぁ、すべてが恥ずかしすぎる。


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