婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

復讐の意味(5)

「今日はここまでにしようか」

体がリラックスしてマッサージに慣れてきた頃、遥斗が手を止める。
心地良さに、思わずこのまま続けて、と言いそうになってしまった。これも遥斗の戦略なのだろうか。

まくし上げたすそを戻し、靴下を履かせてくれると、まるで何事も無かったかのように立ち上がった。

「おやすみ、里穂」 

そう言うと、遥斗はすんなり部屋へ戻っていった。
羞恥心しゅうちしんと浮遊感を与えられたまま、一人ソファーに横たわったままの私。
なぜか、このまま残された方が恥ずかしいような気がしてくる。

「なっ、何がしたかったの……?」

思わずそう呟いてしまった。
遥斗の思惑が分からないままゆっくりと体を起こし、寝室へと向かう。
その日はいつになく、ぐっすりと眠ることができた。


*  *  *


翌朝、少し早めに起きて朝食の準備を始める。
トーストにサラダとハムエッグ。
着替えを済ませた遥斗が、ダイニングテーブルの席に着いた。

「里穂に朝食を作ってもらえる日が来るとは思わなかったな」

「そんな、大げさだよ。こんなものでよければ、すぐ用意できるから……」

遥斗は嬉しそうに、目の前にある食事を食べ出す。
本当はちょっと眠かったけど、朝早く仕事に出かける遥斗に、食事くらい用意してあげたかった。
大きな体をしたいい大人が、大した料理でもないのに喜んで食べている姿は、ちょっと可愛らしい。

「今夜は外で一緒に食事をしよう。場所は後で連絡するから、仕事が終わり次第来てくれ」

「うん。わかった」

仕事帰りに、夕飯のメニューを考えるのも結構プレッシャーだった。
今夜はちょっとだけお休みできる。



朝、出社したその足で、廊下の一番奥にある休憩ブースへと向かった。ここで好きな飲み物を用意して部署へ戻るパターンが多い。
知り合いの総務部女子たち数人が、アプリの話題で盛り上がっていた。

「ミナが第1号でしょ? もう二人でイベント参加決まりだぁ~」

「えーっ!? まだ2回しか会ってないんだよ。もう少しデートしてからじゃないと」

「岸ちゃんは? 来週会うんでしょ?」

「そうなんだけど、AIおすすめの第1候補より、第2候補の方が実際好みかも~って……」

みんなそれぞれカップリング目指して頑張ってるようだ。私はとても話題についていけそうにない。

「ねぇねぇ、里穂は? いい人いた?」

「う、う~ん。まだ迷ってて」

「早くしないと、間に合わないよ。しかも宣伝部は強制参加でしょ? 会社は利用率を上げることに必死だもんね。今や、恋人を作るのが業務命令みたい」

会社からは社員全体に無言のプレッシャーがかかっている。
だからと言って、遥斗との関係は複雑すぎて公にしづらい。
クリスマスのイベントまでには、なんとかしなくてはならないけど、繊細な問題だから慌てるわけにもいかないし……。

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