婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

復讐の意味(2)

悩みながら目を閉じていたら、いつの間にか朝を迎えていた。

コンコン。
再び、ドアのノックにビクッとする。

「おい、起きないと遅刻するぞ」

昨日とは打って変わって、キリッとした声で呼びかけられた。
用心深く少しだけドアを開けてみると、高級そうなスーツに身を包んだ遥斗が立っている。昨日のラフな格好とは違った雰囲気で、今朝はずいぶん凛々りりしい姿。

「俺は時間だから、もう出かける。鍵とエントランスの暗証番号はテーブルに置いてあるから」

一言だけ残すと、玄関の方へと消えていった。
時計を見ると、こちらも出勤時間が迫っている。
急いで準備するため、慌ててバスルームへと駆け込んだ。



レジデンスのある最寄駅から職場までは、地下鉄を乗り継ぎ30分程。
会社は駅から歩いて5分の便利なオフィスビル内、11階から17階に位置する。

ランチをしながら万智が、さっそく興味津々きょうみしんしんでアプリの話を持ち出した。

「ねぇねぇ、いい人いたの? アプリに登録してる人ってどんな男が多い?」

まるで自分が体験してみたいような言い様だ。

「えっと、まだあまり進んでなくて……」

さっそく出会って、脅されて、同居してます。なんて、とても言えるわけがない。
万智はふてくされながら、デザートのプリンをつつき始めた。

「会社持ちで色々セッティングしてくれるのは助かるよねぇ。彼氏もできて、ボーナスももらえるんだから。私もいっそのこと、あいつを諦めて登録しよっかな」

「ちょっと、万智。私、そんな軽い気持ちでアプリをやってないんだから。これでも真剣なんだよー」

半泣きになりながら万智に訴えた。
いつ遥斗に襲われるかわからないのに……。
今の状況を素直に打ち明けられないことも辛すぎる。

うちの会社はマッチングアプリを扱っているせいか、社内恋愛推奨で、社内サークルや飲み会も盛んだ。
私も何回か参加してみたけど、素敵だなと思う人には「小柄な女子って可愛いよね」って発言を耳にしてしまい、それっきりほとんど参加していない。

このままアプリを通じて理想の人に出会うのも、なんだか遠い道のりに感じ始めている。
やはりここは、遥斗のことを報告書に書くしかないのだろうか……。

「里穂って視野が狭いんだよ。いいチャンスなんだから、開き直って色々な男と恋愛すればいいのに。何事も経験なんだからさ」

万智の明るいセリフにちょっとだけ勇気づけられた。

「う、うん。そうだよね。もっと気楽に構えればいいんだよね……」

ほぼ恋愛未経験の私。もしかして、重く考えすぎなのかも。
ちょっと変態なとこもあるけど、私のことを昔から知っているし、ここは経験を優先して、苦手意識の克服だって考えればいっか。
でも、遥斗のことをどうやって報告書に書けばいいって言うの……?
先が見えないまま、終業時間になってしまった。


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