婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

復讐の意味(1)

その夜、遥斗の車で自宅アパートに戻り必要な荷物を運ぶと、簡単な引っ越し作業を済ませた。

レジデンスの部屋には寝室が2つあり、私は日当たりのよいリビング隣の部屋を割り当てられた。遥斗は玄関近くの北側にある部屋を使うらしい。
それを知って、少しだけホッとした。
隣の部屋じゃなくて良かった……。
このまま遥斗のそばにいたら、エスカレートして何をされるかわからない。

入浴を済ませ、サーモンピンクのパジャマ姿でリビングを通り抜けようとすると、ソファーに座る遥斗と視線が重なった。
するとなぜか立ち上がり、こちらへと近づいてくる。

「あ、あの、お風呂上がったから。明日も仕事があるので……おやすみなさいっ!」

さっさと部屋に逃げ込もうと背中を向けた瞬間、後ろから腕を掴まれてしまった。
あっという間に肩を固定され、寝室のドアに押し付けられる。
いわゆる壁ドンをされてる状態。

「逃げるなよ。なんのために里穂をここへ呼んだと思ってる?」

「つっ、罪滅ぼし?」

「違うよ。……復讐」

「復讐って?」

自分より背が高い人に憧れてはいたけど、実際体の大きな人に壁ドンをされると、もの凄い威圧感いあつかん

「何をするつもり……? 私、もしかして殺されちゃうの?」

「まさか。俺は里穂を傷つけるつもりはないし、そういう趣味もない」

両手をドアに押しつけられたまま、遥斗の顔が私のすぐ傍まで迫ってくる。

こ、これって……キスされる?

反射的に目を閉じ、体を縮ませ、覚悟を決めた。
けれど肝心の唇には何も触れてこない。
怖くて目を閉じたまま、じっと耐えた。

左手はそのままドアに固定され、手首を掴まれた右手は、ゆっくりと遥斗の方へと引き寄せられる。
指先に暖かな吐息がかかり、生暖かくて柔らかいものが触れた。
それが、ゆっくりと指の甲をうように通り過ぎていく。

この感触はもしかして……。

薄目を開けて確認すると、遥斗の舌先が私の指をくすぐるようにめ、さらに自分の指を絡めようとしていた。

「きゃっ。変態っ!!」

もてあそばれている右手を強引に引きはがし、にらみつけた。

「変態ってなんだよ。里穂のことを一つ一つ確認してるだけなのに」

「かっ、確認って!?」

「里穂を俺のものにするためのね」

まるで当然のように答え、不敵な笑みを浮かべている。
何を考えているのか怖くなり、背後にあるドアを強引に開け、寝室へ体をねじ入れた。
急いでドアを閉めると、開けられないようにドアノブを力いっぱい押さえつける。

コンコン。

ノックを無視し、さらに力強くドアノブを握りしめた。

「初日はこれぐらいにしておくよ。俺は里穂を大切に扱うつもりだから、心配するな。
明日からよろしくな、里穂」

そう言うと、ドアから人の気配が消えた。
安堵あんどして力が抜け、その場で座り込む。

とんでもない場所へ来てしまった……。

いくら謝罪のためとはいえ、自らこんなところに来るなんて。
アプリの体験報告書は出さないといけないし、遥斗には脅されてるし。
これからどうなるのか不安のままベッドに潜り込み、ギュッと目を閉じた。

復讐って言いながら大切に扱うってどういうこと?
遥斗の意図がまるでわからない。

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