人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

吸血鬼との戦い・1

 予想外の和人の覚醒に一瞬驚くも隊長は応戦する構えを取る。相手の実力は勇者並みとはいかずともこちらを相手に優勢であり続けられる実力がある。そんな相手に無防備な状態を晒すのは愚行以外の何物でもなかった。
 実際、硬直したままだった隣の同志は和人の殴打によって地に縫い付けられている。腹部に一撃を喰らったため何が起きたのか理解する事も出来ずに即死しただろう。
 目の前で同志が死んでいく姿に怒りを覚えるものの、我を忘れることなくこの状況をどうやって切り抜けるかを考える。和人は意識を失う前にもヴァープをはじめとした吸血鬼を相手に死にかけながらも勝利している。しかし、今の彼は明らかにその時よりも強かった。あの時には使えなかった身体強化の魔法を使い、圧倒するその姿に隊長は疑問しか感じない。
 隊長が教会で眠る和人を監視して数か月。その間に一度も目を覚まさなかったのにヴァープを倒した時よりも強くなっている。

「(こいつは本当にあの時の男か!?)」

 隊長は心の中で驚きを露にするがここまで来た以上引き下がる事は出来ないし、目の前の和人が見逃してくれるとは思えなかった。隊長は雷撃を和人に向けて放つ。空気抵抗を受けつつほぼ真っすぐに進むそれを和人は難なく避けるがそんな事は隊長も予想していた事である。雷撃を避けている隙に大きく息を吸い込む。

【全! 員! 集合せよ!】

 まるで超音波の如き大音量の声。衝撃波を生み出すその声の内容は味方を集める者だった。こういった状況で活用できる魔法の一種であり隊長も初めて使う魔法だった。しかし、その効果は絶大だ。教会内にいる吸血鬼たちは大音量の隊長の声に異変を感じすぐにでも集まるだろう。未だ10人近い人数が残る吸血鬼たち相手に普通の人間なら勝つことは出来ないだろう。それは和人とて同じだがそれはあくまで試練を受ける前の話である。

「なんだ。増援を呼んだのか。別に構わないぜ。俺も手に入れた実力を試してみたいと思っていたからな(とは言え俺の体は本調子ではない。限界が来る前に決着を付けないとな)」

 好戦的な笑みを浮かべつつ内心では現実的に状況を分析する。確かに和人の実力はかなり高くなっているが体はずっと眠っていた為色々と鈍ってしまっている。しかもいきなり俊敏に動いている為各所で悲鳴を上げている。ずっと動き続ければ10分位しか持たない程に和人の体は衰えていた。

「(気配の数はおおよそ10! 実力は前回とほぼ同じ! 限界を迎える前にギリギリ倒せるか否かだがやるしかないな!)」

 和人は隊長の声で集まった吸血鬼たちを前に冷静に考えつつ短期決戦で挑むべく構えるのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品