人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

圧倒

 漆黒の矢の雨が寸分たがわずに魔物たちに降り注ぐ。体力が低いゴブリンなどは頭部に刺さると即死し、そのほかの部位に当たるだけでも瀕死の重傷となった。体力が高いオークやオーガも決して無視できないダメージをけて悲鳴を上げている。しかし、降り注いだ矢は四方に散らばったためにそれぞれの方向で十数本ほどしかない。この程度では魔物たちの足を少しだけ遅くすることしかできない。むろん、これがナタリーが発動した魔法ではないのであればであるが。
 刺さった矢は急速に変化を行いそれぞれナイフやハンマー、剣などの凶器に姿を変えて近くの魔物に襲い掛かる。まるでポルターガイストのように物だけが宙を舞い、襲い掛かってくる姿は恐怖を魔物に植え付けていく。それが四方で繰り広げられていき、すぐに魔物の前進は止まり混乱に陥った。これには絶望のあまり、その場に立ち尽くしてしまっていたアーク達アロ村の生き残りも別の意味で呆然と眺めている。

「……すごい」

 誰が言ったのか。ぼそりと呟かれたその言葉が村人の総意であった。人間とは思えない攻撃を行い、魔物を一方的に倒していく姿はまさに勇者と呼ぶにふさわしい姿だろう。しかし、ただただ呆然と眺める村人の中で、アーク一人だけは違った。彼は驚愕のほかに感じたのは恐怖。人間離れした異形の数々はアークの心の中に恐怖心を植え付けるには十分すぎる様相だった。

「……あれは、人間なのか?」

 村人たちがざわざわとしている中で一言呟いたその言葉はアークがどれだけ衝撃を受けたのかを物語っていた。












 約600に及ぶ魔物を預けられた時、彼は困惑した。何故ならこれから行われる作戦においてこの程度の魔物等戦力と言える程の数では前衛すら務められない。無論、魔物の総勢を考えればこの数になってしまったのは致し方ない部分があると分かっているがそれでも心もとないことに変わりはない。

「安心しろ。この魔物たちは使いつぶして構わない。少しでも引き付けるのだ」

 そう命令されたからにはやるしかないと彼は決心した。今の彼の眼には魔物を簡単に屠る女、ナタリーの姿がある。自らの同胞・・を殺しつくした男の相方にして今は亡き・・・・帝国の勇者・・・・・。その素性を知ったからにはこのまま野放しには出来ないと男はさらなる一手を開始するのだった。

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